身の回りや会社・学校で何か困ったこと・解決したいことに出会った時、皆さんはどのように課題解決をしますか?

課題が単純な時には、その課題に対する解決法を考えて、それを実践することで解決されるかもしれません。今回は、課題が長期にわたって解決されていなかったり、問題が大きかったり複雑だったりして解決が図れない場合に活用できる「システム思考 (Systems Thinking) 」について、紐解いていきます。

システム思考について聞いたことがないという方にも、聞いたことはあるけれどどう活用すればいいのかよくわからないという方にとっても役立つよう、システム思考とは何なのか・それを身の回りで活用するための例などもお伝えします。ぜひ読んでみてください。

もくじ
1: システム思考:理論と変遷
2: システム思考を使った課題解決の例
3: システム思考と教育:オーストラリアにおける学習カリキュラムの例
4: おわりに

1. システム思考:理論と変遷

1-1. 1960- 90年:ジェイ・フォレスターによるシステム思考理論・システムダイナミクスと「成長の限界」

「システム思考」理論はMIT(マサチューセッツ工科大学) スローン経営大学院のジェイ・フォレスター教授 (Prof. Jay Forrester) とシステムダイナミクスグループが1956年に作り上げたとされています。

システム思考理論は、下記4点を理論の軸としています。

1. この世のすべての事象を「システム」として捉える
2. システムを構成する要素とそのつながり・相互作用に注目する
3. システムの各要素は、環境やシステムの他の要素から分離した場合、異なる振る舞いを見せる
4. すべてのレベルにおけるつながりを強調し、小さなシステムもシステムにおける大きな変化へとつながりうる

フォレスターのシステムダイナミクスグループは、経営問題だけでなく都市問題、さらには地球全体の課題解決にも向かうこととなりました。シミュレーションモデルを使い1972年に発表された「成長の限界」レポートでは、「無制御な経済成長が資源の枯渇や環境破壊など、地球に深刻なダメージを与える」ことを明らかにしました。

システムダイナミクスでは、システム内でつながり合う要素同士の関係を、①ストック・②フロー・③変数、それらをつなぐ④矢印の4種類で表します。またその分析は定量分析に拠り微積分の知識や専用のコンピュータソフトを利用する必要があり、この仕組みを知らない人への説明が難しいため、下述する「因果ループ図(単に”ループ図”ともいわれます)」を活用したシステム思考が普及していきました。

1-2. 1990年- 現在:ピーター・センゲのシステム思考・因果ループ図と「学習する組織」

「因果ループ図」は、要素・変数のつながりを矢印で表すもので、この構造を利用してできごとや活動の特徴を把握し定性的な分析を行うことができます。そのため、このループ図は定量的な把握が困難な経営・経済問題の分析などに主に活用されています。本ブログでは次の章にあるニューヨーク市の治安対策の例で、因果ループ図の一例が見られます。

MIT スローン経営大学院上級講師・組織学習協会(Society for Organizational Learning)の創設者兼初代会長であるピーター・センゲ博士(Peter Senge Ph.D)は1990年に『最強組織の法則 (The Fifth Discipline)』を著し、因果ループ図を活用したシステム思考を駆使し、ビジネス組織と人間行動について論じました。

この本は世界中で大ベストセラーとなり、因果ループ図を活用した定性モデリング手法が「システム思考」として広く利用されるようになりました。センゲ博士はシステム思考を用いた企業論・組織論として『学習する組織』や『学習する学校』も出版しています。

ピーター・センゲ博士が提唱しシステム思考につながるメンタル・モデルについて、下記ブログで詳しく読めます。

これまで見てきたように、「システム思考」という言葉を使う際、下記の2つのどちらかを指しています。

ジェイ・フォレスターが主に確立・普及させた“広義のシステム思考”: 世の中すべての事象をシステムとして捉え、システム・情報・制御を検討した定量分析を活用した課題解決法としての「システム思考」
ピーター・センゲが主に確立・普及させた”狭義のシステム思考”: 因果ループ図等を用いた定性分析を活用した課題解決法としての「システム思考」

システム思考とはどんなものか、またそれが地球環境や組織・人間行動まで様々な課題に向き合う方法であることもわかりました。次に、システム思考を活用した課題解決の例についてみていきます。

2:システム思考を使った課題解決の例

2-1. ニューヨーク市の治安対策~システム思考を利用した「割れ窓理論」の活用

1994年から犯罪学者でラトガース大学刑事司法校 名誉教授のジョージ・ケリング (George L. Kelling) が顧問となり、検事出身のルドルフ・ジュリアーニ市長がニューヨーク市で行った治安対策として「割れ窓理論」の活用が有名です。

ケリング教授の「割れ窓理論」では、システム思考を活用して、治安が悪化するまでには次のような経過をたどると説明しました。

1.建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も地域に対し関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す
   ↓
2.ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる
   ↓
3.住民のモラルが低下して、地域の振興・安全確保に協力しなくなる。それがさらに環境を悪化させる
   ↓
4.凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる

またこれを踏まえて、治安を回復させる方策として下記を提案・実践しました。

● 落書き、未成年者の喫煙、無賃乗車、万引き、花火、爆竹、騒音、違法駐車など軽犯罪の徹底的な取り締まり
● 歩行者やタクシーの交通違反、飲酒運転の厳罰化
● 路上屋台、ポルノショップの締め出し
● ホームレスを路上から保護施設に収容したり、非営利の連盟組織(coalition for the homeless)からの支援を受けたりさせる

ジュリアーニ市長就任から5年間で、ニューヨーク市の犯罪の認知件数は下記のようになり、治安が回復したとされました。またそれに伴いニューヨーク中心街に活気が戻り、住民や観光客で賑わうようになりました。

 殺人:67.5%減少
 強盗:54.2%減少
 婦女暴行:27.4%減少

割れ窓理論を活用している例としては警察の他に、ビジネスでもあります。東京ディズニーリゾートでは、軽微な損傷や汚れについてもペンキの塗りなおし等の修繕を夜間に頻繁に行っています。またそのことが、従業員や来客のマナーを向上させることに成功しているといわれています。

2-2. 自動車産業におけるごみゼロ施策~システム思考を活用したリサイクルの徹底

米国では1980年代後半から1990年代初頭にゴミの埋め立て費用の高騰が起き、また2000年ごろからは環境問題への配慮が高じ、自動車工場における製造過程で出るゴミをゼロにする取り組みが進みました。それは下記のようなシステム思考によって、資源をゴミとして排出するシステムを、資源をリサイクルするシステムに変えられると考え、各社がこぞって推進したためです。

1. 工場では毎日大量のゴミが排出され、埋立地に送られている
   ↓
2. ゴミの輸送・埋め立てにかかる費用が1985年~1995年の10年間で4倍以上となっている
(米国で埋め立てにかかる廃棄物1トンあたり費用:1985年8ドル、1995年34ドル『全米固体廃棄物管理協会』(NSWMA)発表)
   ↓
3. ゴミの排出量を削減し廃棄にかかる費用の削減、また工業廃棄物の埋め立て自体にかかるリスクを低減する必要がある

自動車産業では、上記の定性分析から「ゴミとして処理・排出しているものは何か?」「そもそものパーツのデザイン等を変えることで、廃棄の量を減らせないか?」などの問いを立て、それに対応する施策を取っていきました。また工場では廃棄物の削減が管理職の業績の一部として評価されることとし、リサイクルを促進し廃棄物を削減するための計画を考えるよう求めるようになりました。

2005年にインディアナ州ラファイエットにできた米スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ(SIA)社(富士重工業の子会社)の工場は、北米初のゴミ排出ゼロの自動車組み立て施設であり、工場から出る鉄鋼・プラスチックなどの廃材は100%再利用またはリサイクルされています。またトヨタ自動車では、1998年から日本国内全15工場・事業所で「埋立廃棄物ゼロ」を目標に掲げ、2000年に達成しています。

システム思考を使って、様々な課題に関し要素・できごとに分けつながりを見ていくことで解決や改善に向かうことがイメージできたのではないでしょうか。

システム思考と併せて、起きたことを振り返るリフレクションについてもブログで紹介しています。ぜひ読んでみてください。

3: システム思考と教育:オーストラリアにおける学習カリキュラムの例

オーストラリアのニューサウスウェールズ州では、州カリキュラムで育成する「思考力 (Thinking skills)」として、計算論的思考(周期性・パターンなどを把握する力)・デザイン思考・科学的思考・システム思考の4つのスキルを挙げています。またシステム思考を学ぶために、カリキュラム指針が活用されています。オンラインで確認できる資料ではどの学年でシステム思考のループ図やフレームワークなどが教えられているかなどは示されていませんでしたが、例として下記のような指針が共有されています。

■ ニューサウスウェールズ州小1~4年生までの「システム思考」カリキュラム指針

小1・学食の注文の仕方や注文から自分のところに配膳されるまでは、どのようなシステムになっているのかを調べてみよう
・その時に使う道具や設備はなんだろう。また食べ物を安心安全に運ぶためにどのような工夫がされているだろうか、考えてみよう
小2・生物がお互いどのように共存協力しているか、またその際の環境はどのようなものか説明しよう
・環境と生物の相互作用とはどのようなものだろうか?説明してみよう
小3・学食で頼むチーズサンドイッチ等を例に、それがどんな要素でできているか考えてみよう。またその要素はどこから来ている?どんなところで購入する?配送はどのようにされている?考えてみよう
・上記で考えたシステムをより良くするとしたらどんな工夫があるだろうか?注文間違いや欠品をなくすためになにかできるだろうか?オンラインで注文するなどの可能性はどうだろうか?考え説明してみよう
小4・身の回りにある自然環境、食物連鎖、エコシステムなどに目を向けて、生物どうしや植物ー生物がお互いにどのようなメリットを享受しているのかなどについて考えてみよう

オーストラリアでも注目されているデザイン思考についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

4: おわりに

上記のカリキュラムを見てみると、子どもと一緒に身の回りにあることを一緒に調べたり、因果ループ図を用いてシステムを理解したりなど、週末や長期休暇の時間を使ってできることもあるように感じます。

ピーター・センゲ博士は『最強組織の法則』で「システム思考とは、複雑なシステムの根底にある「構造」をとらえ、影響力の大きい変化と小さい変化を識別するためのディシプリンなのだ」と言いました。「ディシプリン」とは練習のことでもあります。

またシステム思考を普及させたと言われる環境学者・ジャーナリストのドネラ・メドウズさんは、「世界がもし100人の村だったら」の原案となったエッセイや『世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方』などを著しています。センゲ博士の著作と併せて読んでみるのもよいでしょう。

仕事や家庭・キャリアなどの自分の課題についても、要素に分ける・ループ図を書くなど手を動かしてシステム思考を使ってみることで、解決法や意見を聞いてみたい人のヒントやアイデア・新しい視座などが得られるかもしれません。練習し続けるうちに、システム思考も深まり活用できるはずです。


◆参考リソース:

・Society for Organizational Learning | ピーター・センゲ博士が創設
https://www.solonline.org/resources/

・割れ窓理論 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%B2%E3%82%8C%E7%AA%93%E7%90%86%E8%AB%96

・coalition for the homeless (英語)
https://www.coalitionforthehomeless.org/

・米スバル工場が「ゴミ排出ゼロ」実現 – Wired
https://wired.jp/2005/08/12/%E7%B1%B3%E3%82%B9%E3%83%90%E3%83%AB%E5%B7%A5%E5%A0%B4%E3%81%8C%E3%80%8C%E3%82%B4%E3%83%9F%E6%8E%92%E5%87%BA%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%80%8D%E5%AE%9F%E7%8F%BE/

・トヨタ、全社での埋立廃棄物ゼロを達成 – トヨタ自動車
https://global.toyota/jp/detail/12139238

・Thinking Skills – Education NSW(New South Wales) (英語)
https://education.nsw.gov.au/teaching-and-learning/curriculum/key-learning-areas/science/science-and-technology-k-6/thinking-skills#/asset4

・Donella Meadows Project – Academy for the systems change (英語)
https://donellameadows.org/

・世界がもし100人の村だったら 2020年度版 – サイビジ科学本YouTuber | Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=G6M2x2QMNTA