主体性やオーナーシップの重要性は昔から知られていますが、似た概念として、生徒エージェンシー/Student Agency と呼ばれる言葉が近年聞かれるようになってきました。

今回のブログでは、これからの社会で重要とされる「生徒エージェンシー/Student Agency」について紐解いていきます。

もくじ
1. 生徒エージェンシー/Student Agencyとは?主体性・オーナーシップとの違い
2. なぜこれからの社会で生徒エージェンシーが必要なのか?
3. 生徒エージェンシーを養うには?
4. 生徒エージェンシーと共同エージェンシー(Co-Agency)
5. 共同エージェンシーの太陽モデル
6. まとめ

1. 生徒エージェンシー/Student Agencyとは?主体性・オーナーシップとの違い

OECD Future of Education and Skills 2030*では、生徒エージェンシーの概念は「生徒が自分の人生や周りの世界に対してポジティブな影響を与えうる能力と意志を持っている」という原則にもとづいています。

その上で生徒エージェンシーとは「変革を起こすために目標を設定し、ふり返りながら責任ある行動をとる能力」と定義されています。

この力は生徒に限らず求められることもあるため、単に「エージェンシー」と言われることもあります。

一般的に日本で「エージェンシー」いうと代理店をイメージされることが多いですが、「生徒が自らの学習のエージェント(agents)である」という発想から、この言葉が使われています。

よく似た概念として主体性やオーナーシップという言葉がありますが、これらが「自分で考えて、判断し、責任を持って行動できる能力や態度」を指すのに対し、エージェンシーは周囲との関係を重視しており、社会を理解し、自分がやるべきことに気づき、世界に影響を与えることまでをも含んだより大きな概念です。

* OECD Future of Education and Skills 2030(原文英語、日本語仮訳こちら

2. なぜこれからの社会で生徒エージェンシーが必要なのか?

現在の社会は、複雑で予測が難しいVUCAの時代と言われています。VUCAの時代にあっては、人々の価値観はますます多様化し、一元的な価値観に沿った競争に勝ち抜くことだけが、必ずしもその人にとっての幸福につながるとは限りません。

むしろ目標を多元的にとらえる余地があるからこそ、『何が真の幸せなのか』を自らが積極的に定義し、考え、行動を起こしていく主体性にくわえ、価値観の異なる他者と積極的に関わりながら、ときに自らを振り返ることが必要です。

このようにVUCA社会でイキイキと幸せになるために、主体的な態度を持って周囲や社会と積極的に関わる能力である生徒エージェンシーがますます重要になります。

3. 生徒エージェンシーを養うには?

生徒エージェンシーは生まれ持った性質ではなく、養うことができるものと考えられています。

これを示す一例が、2019年G20サミット関連教育イベント「21世紀の教育政策~Society5.0時代における人材育成~」での荒木美咲さん(福井県立若狭高校2年生ー当時)の発表 “Agency nurtured by relationships and support with people around me”* です。

荒木さんは、自分の生い立ちを振り返りながら、住んでいる町の衰退をどうにか食い止めたいという気持ちに気づき、自身の探究学習の課題に据えました。

責任感を持って取り組むなかで、たとえば図書館職員やプロのコンサルタントから話を聞くなど、教室内に留まらず、地域の人々と積極的に関わり合い影響しあうことで、エージェンシーを発揮・獲得していきました。

問題が明確でないなかで課題を定め、正解のない解決策をみつけていく作業はとても困難なものでしたが、プロセスを通じてエージェンシーが養われていったからこそ最後までやりきることができたと、発表のなかで荒木さんは振り返っています。

このようにエージェンシーを養うには、単に自分の能力を発揮するだけでなく社会やコミュニティへの参画を通じて人々や物事、環境がより良いものとなるよう影響を与える、という責任感を持って課題に取り組むことが求められます。

周りを巻き込んで結果を出すためのチームワークに興味がある方は下記の記事をご覧ください。

* 文部科学省の YouTube チャンネルで発表の動画をご覧いただけます。

4. 生徒エージェンシーと共同エージェンシー(Co-Agency)

さきほど生徒エージェンシーは養うことができるものと書きましたが、実際に生徒が他者への影響力を責任感を持って発揮しエージェンシーを獲得するためには、大人を含めた周囲の人からの支援が重要です。

ここでいう支援とは、伴走者として、仲間・教師・家族・コミュニティなどが後押し・協業することを指します。

これらは、たとえば「教師エージェンシー/Teacher Agency」のように、いずれもがそれぞれのエージェンシーを持っており、生徒エージェンシーに影響を与えると同時に、生徒エージェンシーからも影響を与えられます。

つまり生徒と伴走者は相互に学習し合う関係となっており、多様性をもったそれぞれがエージェンシーを発揮することで、「共同エージェンシー/Co-Agency」を形成するのです。

先述の荒木さんの例では、荒木さん自身の生徒エージェンシーに加え、保護者や仲間、教師、コミュニティーを含めた共同エージェンシーの存在が、有意義な学習に寄与したといえます。

5. 共同エージェンシーの太陽モデル

2018年、10カ国から参加した OECD 生徒フォーカスグループの生徒たちが、共同エージェンシーには段階があり、その各段階の状況を表すものとして「太陽モデル」を作成しました。

太陽モデルで0にあたる「沈黙/Silence」の段階では、若者が貢献できるとは若者も大人も信じていません。大人がすべての活動を主導し、意思決定を行うのに対し、若者は沈黙を保ちます。

3にあたる「形式主義・形だけの平等/Tokenism」になると、若者に選択肢が与えられているように見えるものの、実際はその内容あるいは参加の仕方に若者が選択する余地はほとんどない状態になります。

もっとも理想的な8の状態「若者が主導し、大人とともに意思決定を共有する/Young people-initiated, shared decision with adults」では、若者と大人が対等な立場で協働・共有しながら、プロジェクトの意思決定・進行・運営が行われます。

図. 共同エージェンシーの太陽モデル

表. 共同エージェンシーの段階

”OECD Future of Education and Skills 2030 Conceptual learning framework Concept note: Student Agency for 2030”の仮訳より。原文はこちらより。

日本は、他国と比較して自己肯定感や自己効力感の低さが指摘されることがあります。

たとえば、2015年の国立青少年教育振興機構「高校生の生活と意識に関する調査」では、「自分はダメな人間だと思うことがあるか」という質問に対し、回答した高校生の7割以上が「とてもそう思う」「まあそう思う」と答えるなど、他国よりもネガティブな思考が強く表れました。

図. 自己肯定感の国際比較

グラフは CHILD RESEARCH NET 「【データで語る日本の教育と子ども】 第3回 自己肯定感が低い日本の子どもたち-いかに克服するか」より抜粋

この現状を太陽モデルと照らし合わせると、自己肯定感、自己効力感が低い日本は若者も大人も若者が貢献できると信じていない「沈黙/Silence」が多いのかもしれません。

また「沈黙/Silence」が多いことは、政治参画への意識の弱さとの関連も想像されます。

6. まとめ

今回は、生徒エージェンシーについて紐解いていきました。

冒頭に紹介した OECD Future of Education and Skills 2030 では、生徒エージェンシーについて次のような説明もされています。

自分の人生や周りの世界に対してポジティブな変革を起こしたいと考えたとき、働きかけられるというよりも自らが働きかけることであり、型にはめ込まれるというよりも自ら型を作ることであり、また他人の判断や選択に左右されるというよりも責任を持った判断や選択を行うことを指しています。

エージェンシーの考えにおいては、何を学ぶか、どのように学ぶかについても自分自身が決定し、積極的にかつ責任感を持って、社会や周囲の人々、事象に関わることが求められます。

そのような状況になったとき、より高い学習・成長意欲を示し、目標を立てるようになるでしょう。

さらにこのような経験によって「学び方」という生涯を通じて活用できるかけがえのないスキルを身につけていくことにも繋がります。

そういった意味でエージェンシーは子どもに限ったものではなく、これからの社会を生きるすべての人にとって重要な能力となっていくのではないでしょうか。