日本の高校スポーツは、野球の甲子園やサッカーの冬の選抜大会のような、競技性の高く世間が注目する全国大会が多く開催されます。

高校スポーツは競技性が高くなり、種目によっては卒業後にプロへ進むケースも多く見かけます。一方で、競技スポーツの第一線を離れて、レクリエーションスポーツに切り替える人も多いです。

このように、高校スポーツはスポーツキャリアの分岐点にもなる重要な時期とも言えます。スポーツ指導者は自分の選手が高校卒業後のキャリアも頭に入れておく必要があります。

そこで今回は、高校スポーツの指導における重要なポイントをLong Term Athlete Development (LTAD)モデルと照らし合わせて、いくつかのチーム状況を想定したケースを紹介していきます。ご自身のチーム状況と似たようなケースを参考にして、適した形でアレンジしてみて下さい。

LTADモデルに基づく中学生向けのスポーツ指導に関しては下記リンク先から読めます:

もくじ
1: 指導している選手の次のカテゴリーは?
2: 想定される4つのチーム状況
 ケース1:全国レベルでプレーする
 ケース2:高校から初めてプレーする選手が多いチーム
 ケース3:経験者が多く、あと一歩で上のステージへ行けそうなチーム
 ケース4:高いレベルを目指すよりも、スポーツをする楽しさを大事にする
3: まとめ

1. 指導している選手の次のカテゴリーは?

高校生には、部活動以外にもクラブチームやスポーツスクールなど、スポーツができる環境が多数あります。そして、チームやクラブが持つ育成方針も様々です。

そこで、まずはチームの育成方針やチーム状況を確認しましょう。どの程度の競技レベルを目指しているチームで、どんな競技レベルの選手がいますか?

このチーム競技レベルや選手の様子を明確にしておくことは、指導者が選手に適した練習内容や競技レベルの高さを適切に選べるようにすることに加えて、のちに入ってくる選手が自分に適したチーム環境を選べるメリットもあります。

例えば、中学では卓球をやっていて高校で新しくバスケットボールを始めようとしている選手にとっては、全国を目指すレベルのバスケットボール部は思っている以上に厳しく自分に適した練習が出来ない可能性も考えられます。

中には、それでも高いレベルにチャレンジしたいと思って入部する選手もいるでしょうし、自分には物足りないレベルでも仲間と一緒に成長したいと思って部を選ぶ選手もいるでしょうから、その場合は、選手の意思を確認した上で認めてあげることが大切です。

一番気を付けないといけないのは、「こんなはずではなかった」と選手が思ってしまう状況です。そのためにも、チーム状況を指導者が把握して新しく入る選手に的確に伝えられるようにしましょう。

2. 想定される4つのチーム状況

日本の高校スポーツの場合、多くのチームは以下の4つに分類できると考えられます。

ケース1:全国レベルでプレーする

ケース2:高校から初めてプレーするスポーツのチーム

ケース3:あと一歩で上のステージへ行けそうなチーム

ケース4:高いレベルを目指すよりも、スポーツをする楽しさを大事にする

ここからはこの4つのケースについてLTADと照らし合わせながら説明していきます。

表1:LTADモデル

発達段階名称年齢段階(ステージ)の特徴・対応
Active
Start
0-6歳・基本的な体の動かし方やスポーツをする楽しさを習慣化させていく
・基本的な動きを幅広く行う:歩く、跳ねる、蹴る、投げる、等
FUNdamental男子6-9歳, 
女子6-8歳
・運動を楽しむことを重要視しつつ、より多様な動きを発達させていく
・より高度な動きを練習する:走る、跳ぶ、サイドステップ、オーバーヘッドスロー、ボールキャッチ、ボールキック、等
Learning to Train男子9-12歳,
 女子8-11歳
・プレーしているスポーツのスキルを発達させるのに一番効率が良い時期
・プレーしているスポーツにおける基本的スキルの練習をスタート
Training to Train男子12-18歳, 女子11-15歳・特化するスポーツを2つくらいに絞り込み、それぞれのスポーツスキルの専門性を高めていく
・一年を通してシーズンの異なる2つのスポーツをして、それぞれのスポーツの専門性を高めつつある程度身につけられるスキルに幅を持たせる
Trainin
to Compete
男子18-23歳, 女子15-21歳・1つのスポーツに絞り込んでより専門性を高める
・フィジカル、スキルに加えて、試合のプレッシャーに対処するためのメンタル面についても本格的に取り組む。身体的・心理的リカバリー、そして長期的な目標設定をしてスキルを上達させていく
Training to Win男子18歳以上, 女子19歳以上・競技レベルが国の代表レベルといった高いパフォーマンスレベルに含まれた時に対象となる・スポーツによりポジションに特化したスキルを身につけるなど、競技で勝つために必要なスキルを磨いていく

ケース1:全国レベルでプレーする 

いわゆる強豪校と呼ばれる部活動や全国を目指すクラブチームなどがこのケースに当てはまります。チームの特徴として、中学スポーツで高い競技レベルでプレーしていた選手が集まる、トライアウト(選手選考会)を開催してチームの方針に見合う選手を獲得する、などがあります。

このように、チームに所属している選手の競技レベルが高いことからも、LTADモデルではTraining to Winに当てはまります。

このステージでは、より高いレベルでプレーできるように、自分がプレーしているスポーツの専門的なスキルを磨いていくステージです。チームが成長するために克服すべき課題や長所を明確にして、それらを伸ばしていくための練習を決めて実行していきます。

個人スキルに限らず、チーム戦術や心身のコンディショニングなど、高いレベルでプレーするために必要な要素を身につけていく必要があります。

心理面を例に取ると、メンタルスキルのトレーニングをしてプレッシャーやストレスへの対処するための準備は、ハイパフォーマンス環境では重要になってきます。代表的なのは、過度に緊張した時にリラックスして適切な緊張度合いにコントロールする方法や緊張によって乱れた注意・集中をコントロールする方法が挙げられます。

周囲のソーシャルサポートでプレッシャーを和らげる体制を作るのが大切です。

ポイント:
・LTADモデルでは「Training to win」のフェーズ
・個人として競技の専門的スキルを磨く
・チーム戦術や心身のコンディショニング(緊張や集中をコントロールする)を身につける
・周囲ではプレッシャーを和らげる体制をつくる

スポーツに限らずハイパフォーマンスのメンタルトレーニングに関心がある方はこちらの記事をご覧ください。

ケース2:高校から初めてプレーする選手が多いチーム

高校に進学すると、中学校ではなかったスポーツをする機会も増えてきます。例えば、中学校ではバスケットボールをやっていて高校では卓球を始める、中学校では陸上をやっていて高校からバスケットボールを始めるなど、そのパターンは数多くあります。

このような選手は、既にスポーツを通してある程度の運動能力を有していると予想できるため、LTADモデルではLearning to Trainが最も近いフェーズでしょう。

さらに、中学で身につけた体の動きや運動能力を高校で新しくプレーするスポーツの動きへ応用するために、転移(transfer)を活用するのが効果的です。

転移とは、既に身につけた運動を新しい運動へ応用するメカニズムです。例えば、バドミントンのスマッシュの動作を野球の投球やバレーボールのスパイクへ応用する、といった具合です。

この転移を上手く活かせるように、選手の過去のスポーツ経験を把握してそのスポーツと今プレーしているスポーツの類似している点を一緒に探してみましょう。例えば、テニスと卓球はラケットのスウィングが似ているようで異なる点が多くありますが、ラケットで打球を捉えたりボールに回転をかける感覚は似ている部分が多くあります。

この打球感を応用することを選手に伝えたら、テニスをしていて高校で卓球を始める選手はボールを捉える感覚はすぐに身につけられるかもしれません。

欧米諸国ではスポーツがシーズン制のため、一年を通して複数のスポーツをする中で転移を応用することが出来ますが、日本の場合は中学と高校で異なるスポーツをしている選手も一定数いるため、過去のスポーツ経験の転移を促すのが効果的だと考えられます。

このようなチーム状況であれば、チームメイトの過去のスポーツ経験について話し合う場を作り、過去のスポーツ経験がどのように今のスポーツに活きているかを共有し合うのは、お互いにとって発見の多い学びになるでしょう。

指導者や保護者も、過去のスポーツ経験をどのように今のスポーツに活かせるかを一緒に考えるような関わり方をすることで、スキルの上達をサポートできます。

ポイント:
・LTADモデルでは「Learning to Train」のフェーズ
・個人・チームとして中学などで身につけた体の動きや運動能力を高校でプレーするスポーツの動きへ応用するために、転移(transfer)を活用する。応用のためのディスカッションの場を設けるなどするとよい
・周囲でも過去のスポーツ経験をどのように今のスポーツに活かせるかを一緒に話し合う

スキルを磨いて成長するための効果的な練習方法に関しては知りたい方はこちらの記事をご覧ください:

ケース3:経験者が多く、あと一歩で上のステージへ行けそうなチーム

多くのチームでよく見られるのが、中学校からの経験者が多く基礎技術はある程度身についているが、上のステージ(地区大会から県大会、県大会から全国大会など)へなかなか勝ち上がれるほどではない、といったチーム状況かもしれません。

この場合、LTADモデルではTraining to Competeが当てはまりますが、Training to Trainも検討することは有益です。

そこで、今現在の選手の長所とこれからより成長するために克服すべき課題を聞いてみましょう。この時、課題の克服にこれまで取り組んでなかった基礎技術が必要であった場合は、Training to Trainで言われている幅広い運動能力の獲得を意識した、新しい運動技術の練習は伸び悩みを克服するきっかけにもなります。

心理面で有効な取り組みは、イメージの活用です。

新しい運動技術を身につける際にイメージトレーニングは有効で、体を使った練習に加えてイメージトレーニングを活用することで、体を使っただけの練習よりもスキルの上達度が早いことが過去の研究でも報告されています。

多様な運動やスキルをイメージトレーニングを活用して身につけることで、これまで以上に上達が促され届かなかった上のステージにも届くようになるかもしれません。

周囲の人ができるサポートとしては、新しいことへチャレンジしている時や上手くいかない時に選手が努力していることを認めてあげることです。

なかなか上手くいかずに落ち込んでいる時に保護者や指導者が努力している姿勢を認めたり、今行っている取り組みを更に良くする相談相手になることで、選手が努力を継続しやすくなります。

ポイント:
・LTADモデルでは「Training to Compete」または「Training to Train」のフェーズ
・個人として今現在の長所と、これからより成長するために克服すべき課題を明確にしてトレーニングメニューをつくる。またチームとしてもイメージトレーニングを活用する
・周囲はチャレンジやスランプ時に、努力を認める声掛けをし、取り組みの相談相手になる

ケース4:高いレベルを目指すよりも、スポーツをする楽しさを大事にする

高校スポーツをやっているすべての選手が高いレベルを目指してプレーしているわけではありません。中には、楽しくスポーツをしたいと思ってプレーしている選手も多くいます。

地域によっては、楽しく多くの試合ができるような機会を作ることを目的としたリーグ戦を開催する動きも出てきています。

このような楽しむことを目的としたスポーツをするチームの場合は、LTADモデルにおいては、FUNdamentalとLearning to Trainを組み合わせる形で練習を実施するのが良いでしょう。

高校卒業後も長く楽しくスポーツに携わることを目的とした指導やチーム運営であれば、練習の基本にはスポーツの楽しさがあるのが好ましいです。そのため、基本的な動きを楽しめる練習と、スポーツの上達や試合でできるプレーが増える楽しさが味わえるようにスポーツのスキル練習もバランスよく取り入れるのが重要です。

そこで、周りの保護者や指導者ができることは、子ども(選手)が楽しんでいることを最大限尊重する姿勢を持つことです。試合をした際にも、勝敗よりも練習したことがどれだけ試合でできたか、試合をしていてどんなことが楽しかったなど、スポーツをプレーする楽しさに目を向けやすくなるような言葉をかけてあげましょう。

ポイント:
・LTADモデルにおいては、「FUNdamental」と「Learning to Train」のフェーズ
・高校卒業後も長く楽しくスポーツに携わることを目的とした指導やチーム運営を行う
・基本的な動きを楽しめる練習と、上達のためのスキル練習をバランスよく取り入れる
・周囲として選手が楽しんでいることを最大限尊重する姿勢を持つ。
・スポーツをプレーする楽しさに目を向けやすくなるような言葉をかける

3. まとめ

今回は高校スポーツで想定されるチーム状況に応じたLTADモデルの活用例をご紹介しました。

日本の高校スポーツは全国レベルでプレーするチーム、あともう一息で上のステージで戦えるチーム、スポーツを楽しむことに重きを置いているチームなど、種目や取り巻く環境により様々です。

そのため、まずは自分が指導するチームが目指す競技レベルと指導する選手の競技レベルやスポーツをする目的を把握するのが第一歩となります。

その上で、LTADモデルの中から適したステージを選びその内容に沿った練習を実施することで、選手の発達度に応じた強度や内容の練習をすることができます。

加えて、選手がチームを離れた時にどの競技のステージに進むのかを見据えて練習内容や関わり方を決めるのが望ましいと言えます。競技レベルが高ければプロや実業団などへ進む選手もいれば、自分の力量に適した大学の部活動やサークルを選ぶ選手もいるでしょう。

可能な限り選手の競技レベルやその後希望する競技レベルなどを把握することで、個々に適した練習内容や指導者としての関わり方が自ずと見えてきます。

ぜひ参考にしてみて下さい。

参考文献

Arnold, R., Edwards, T., & Rees, T. (2018). Organizational stressors, social support, and implications for subjective performance in high-level sport. Psychology of Sport and Exercise, 39, 204-212.

Balyi, I., Way, R., & Higgs, C. (2013). Long-term athlete development. Human Kinetics.

Seidler, R. D. (2010). Neural correlates of motor learning, transfer of learning, and learning to learn. Exercise and sport sciences reviews, 38(1), 3.

Wright, C. J., & Smith, D. (2009). The effect of PETTLEP imagery on strength performance. International journal of sport and exercise psychology, 7(1), 18-31.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。