髙木草太(たかぎ そうた)

兵庫県出身。幼少期をベルギー、マレーシアと移り住み、帰国後カナディアンアカデミーに入学。IBディプロマ修了後オーストラリア、クイーンズランド大学へ入学。同大学にて教育学修士修了を機に再帰国。2015年、大阪府教育委員会にスーパーイングリッシュティーチャーとして採用され大阪府立箕面高等学校へ着任。語学を超え、教育文化の違いを学びに変え、海外トップ大学への進学者などの顕著な結果を出す。2018年よりタクトピア株式会社のラーニングデザイナーとして日本の中高生を主な対象者としたアントレプレナーシップ教育の推進に携わる。2020年より追手門学院中学校高等学校の探究科に着任、探究デザイナーとして学びの多様化を目指す。

Next Education Award審査員インタビュー①~髙木草太さん~

2021年度に実施する「Next Education Award(NEA)」では、各界から多様な審査員の方にご参加いただきます。今回は審査員のお1人である髙木草太さんに、現在の活動や取り組みについてインタビューしました。

一般財団法人活育教育財団が主催で、2021年度から「Next Education Award(NEA)」を開催いたします。 Next Education Award(NEA)とは「今後世界が迎える課題を解決する人は現場から生まれる」という信念のもと、そのような子供を育む教育をしている教育者にスポットライトをあて、表彰する制度です。 

「各地で行われている素晴らしい教育活動をもっと世の中に知ってもらいたい!」「 面白い活動を行っている教育者同士がつながれる場所をつくりたい! 」そんな想いを発端に活育教育財団では日本から世界につながる教育アワードを目指しています。

「NEA」についてはこちらをご参考ください。

研修を通して全国各地の教員と出会う

ー今回NEAの審査員をお引き受けいただいた理由をお聞かせください。

髙木:きっかけは、活育教育財団のメンバーに誘ってもらったというのが大きかったです。

活育教育財団が2019年度に開催していた「ファシリテーションスキル研修」に参加させていただき、そこで多くのことを学ばせていただきました。

全国各地の教育関係者の方と知り合うことができ、今まで知らなかった素晴らしい活動をしている先生がこんなにいるんだということを初めて知りました。

「ファシリテーションスキル研修」についてはこちらをご参考ください。

また、今も多くの教育系アワードがあるのですが、審査員の中に現役の教員がいないことも多々あります。

今回のNEAでは、私が現役の教員として審査員に拝命しましたので、教員と教育に携わる人の境界線が無くなるきっかけを作れればと思っています。

将来的には学校と外部教育機関が「教育」という同じ目的・目標の元、より交わっていければいいなと思っています。

海外で経験した文化・価値観の違い

ー髙木先生が教育に興味をもったのはいつ頃からなのでしょうか。

髙木:小さい頃から明確に「将来、学校の先生になる!」という強い想いをもっていたわけではありません。

明確に教育に携わる個人として自らのミッションを見つけられたのは、大阪府教育委員会にスーパーイングリッシュティーチャーとして採用されたことがきっかけでした。

私はオーストラリアの大学・大学院に進んだので、日本の教員免許を取得することはありませんでした。

大学卒業後は日本に戻り、紆余曲折を経て、「スーパーイングリッシュティーチャー」の応募を偶然目にしました。スーパーイングリッシュティーチャーとは、大阪府教育委員会が教育改革の一環として任用していた特定任期付職員のことです。

2015年度から始まり、グローバル教育に力を入れている大阪府内の数校に配置され、生徒に海外のトップレベルの大学に合格できる程度の英語力を身につけさせることが目標とされています。

私は、箕面高校でスーパーイングリッシュティーチャーとして働きだし、その際に、自分が今までの人生で培ってきたことが、これから世界に羽ばたいていこうとする学生の大きな力になると確信することができました。

私は、小さい頃から父の仕事の関係で日本と海外(ベルギー・マレーシア)を行ったり来たりする環境で育ちました。

4か国で暮らし、就学した経験があるので、その国の教育環境の中で「いい」とされることが違っていたり、文化の違いによる価値観の違いなども肌で感じてきました。

教育の文脈では絶対的な正解はないからこそ、グローバルに活躍する視野を手に入れるためには、異なる価値観の中で好まれる最適解を認め、歩み寄る姿勢が大切になります。

実体験の中で抽象化された私の気づきを新たな学びの体験として生徒に提供できることが、自分にしかない強みだと実感できました。

箕面高校では、こういった世界に羽ばたいて活躍できる生徒を育成するため、海外大学への進学を視野にいれたカリキュラムを英語の時間を活用して独自に作ることができました。

まさに0から1を作る仕事で、とてもやりがいを感じた時間でした。

創造性・クリエイティビティに関連して、学校教育と創造性について発信していたケン・ロビンソン卿の記事もぜひ読んでみてください。

ー幼少期の頃に経験した文化や価値観の違いについて教えてください。

髙木:私は父の転勤で生後8ヵ月でベルギーに家族で移住したんです。そこから約9年間ベルギーで過ごしました。小学生になるまでは地元の学校に通い、小学生からはインターナショナルスクールに入学しました。

ベルギーは、公用語がフランス語、フラマン語、ドイツ語と多言語国家として知られている通り、国内には本当に多くのルーツを持った方達がいます。

インターでは、色んな国から来ている子達が多く、母語や肌の色、宗教や、価値観が本当に様々で、むしろ「違っていて当たり前」という感覚が物心ついた時からありました。

今でも違いはそんなに気にならないですね。その人個人がどう考えるか、という個を大切にして、違いがあるからこそ共通点に価値が生まれるという考えがベルギー時代に育まれたと思います。

「多様性」については、人種・言語以外にも、考え方・観点・経験、ジェンダー・信仰・年齢・身体的能力といったものも含まれるとされる定義が広がっています。詳しくは下記の記事をお読みください。

ー日本に戻ってきた時、海外とのギャップなどは感じませんでしたか?

髙木:すごく感じましたね。私は小学4年生のころ、日本に戻ってきて、約2年間過ごしました。やはり日本の文化や価値観は独特のものがあると個人的に思います。

例えば、あくまで個人的な感覚なのですが、集団内で違いを目立たせないために個性も目立たせないという考え方が自然に存在していると感じました。

個性よりも集団性が重要視され、異質なものは集団の「内側」と認められないように感じます。

そのせいか、クラスメイトには、外国人扱いをされていたのを覚えています。たぶん私の感覚や発言が異色だったんだと思います。例えば、転校早々にクラスの学級委員に立候補してみたり笑

今ならその行動が異色に見えた理由も分かるのですが、当時はなぜ周りが少し嫌そうにしていたのかは分かりませんでした。

その後はすぐにマレーシアに転勤となったので、マレーシアのインターナショナルスクールに入ることになるのですが、やはりベルギーと同じような国際色溢れ、違いが目立つからこそお互いの個性を認め合う環境で過ごす方が自分には性に合っているんだなと思いましたね。

IQやEQとは異なる文化の知能指数として取り上げられるCQについてもっと知りたい方は下記の記事をお読みください。

世界で活躍するために必要なスキルとマインドセットを育む

ースーパーイングリッシュティーチャーをご経験された後は何をされていたのですか?

髙木:一度民間の会社に入社しました。タクトピアという会社なのですが、顧客には様々な学校があり、プログラム開発などのコンサルを主にしています。

箕面高校で0から1を作るという経験をさせてもらい、次はそれを広げていくために全国各地の様々な学校を見て回りたいという想いから入社しました。

実際、タクトピアではアントレプレナーシップ教育という自分にとっても新しいスタイルの教育を導入していたことと、自分も今までマインドセットを醸成するプログラムを提供していたので、ここでの経験は非常に楽しかったです。

現在は、ライフステージが大きく変化したことに伴い、今まで培った経験を元に2020年から追手門学院中学校高等学校の探究科に着任して、探究デザイナーとして学びの多様化を目指して日々生徒と向き合っています!

ー今の子ども達が世界で活躍するために求められることはどんなことですか?

髙木:そうですね、私は2つあると思っています。1つ目は「立ち止まってゆっくり呼吸ができるような生き方」です。

今の日本の子ども達って、受験や競争、親や世間の常識など何かに追い立てられるような生き方をしているような気がするんです。

自分は何が得意で、何が好きなのか、今後どうしていきたいのかを立ち止まってゆっくり考える余白があるといいなと思います。

そのような生き方をするためには、何よりも自分に対する信頼、「自信」が必要だと思うんです。自信を持って自分軸で判断していくことが今後求められると思います。

2つ目は、「貢献意識」です。海外で暮らしているとこの貢献という感覚はいつも身近にあります。自分の幸福だけを追い求めても一生満たされることがなく、虚しいままです。

他人の幸せを考えて、自分はどのように世界や日本、そして周囲の人の役に立てるのかを考えて、行動できるようになってほしいと思います。

「貢献とは?なぜ人間は助け合うのか?」について、様々な研究をまとめたブログが下記から読めます 。

編集後記

日本だけではなく、ベルギー、マレーシアで生活されたことのある髙木先生だからこそ、今世界に向けて羽ばたこうとしている生徒たちに伝えられることが非常にたくさんあるのだと感じました。

世界という舞台で活躍していくためには、その人個人がどういう人間であるのか、個を尊重することの大切さがインタビューを通して伝わってきました。

また同時に自分自身に対して自信を持つこと、他者に対して貢献意識を持つこと、人生をより豊かに、幸せに生きられる道を教えていただきました。

髙木先生、インタビューにご協力いただきありがとうございました!