家庭・学校でも育みたい、社会情動的スキルについて

ー目次ー
SELとは: SELの特徴と効果
SELで有名な学校: Alpha Public School , The Nueva School
SELを家庭・学校・社会で活かす:学校で活用しているアクティビティ・カリキュラムの紹介

「SEL (Social Emotional Learning)って最近よく聞くけど、何だろう」
「これからの時代を生き抜くための『非認知能力』を高めるには、どうしたら良いのか」

4・5月に公開したSELの専門家・下向依梨さんインタビューの反響を受け、今回はSEL(日本語では「社会性と情動の学習*」(*出典:日本SEL推進協会)) について、基礎知識や具体的にSELのカリキュラムを実施している学校、家庭や学校での活用方法について紹介します。

SEL(Social Emotional Learning)とは: SELの特徴と効果

Social Emotional Learning(以下 SEL ) は日本語で「社会性と情動の学習」と訳されます。具体的には、次のようなことを学習・体験します。

・[自己認識・自己規律] 人が感情を理解し律し、前向きな目標を掲げて達成していくこと
・[他者への気付き・対人関係] お互いに共感・理解しそれを示すこと、そして良い影響を与える関係を築き維持すること
・[責任ある意思決定] 自分自身または周囲との協働の中で、責任ある決定ができること

SELは特定のプログラムの名称ではなく、自己理解・社会性・共感力・感情制御力などの育成のために行われるプログラムの総称です。上述した自己認識・自己規律・他者への気付き・対人関係・責任ある意思決定の5つの視点・スキルの育成を狙いとしており、これにより子どもたちの問題行動の減少、学力向上などが期待できるとされています。

OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development : 経済協力開発機構)も2015年からこういった社会性・情動を育むことに関心を寄せ、「Skills for Social Progressー社会情動的スキル 学びに向かう力」をはじめとした研究報告を、2019年までに5本、ウェブサイトで公開しています。研究報告の中では、社会性と情動の学習を身に付けた学生は

  • 学力が向上すること
  • より多くの収入を得て良い仕事に就くこと
  • 健康であること
  • 幸せを感じていること
  • 積極的・行動的であること
  • 自らが所属するコミュニティにより貢献しようとすること

などの成果があることが示されました。

次の段落では、上記のような効果を生むSELを、具体的な生徒の学びに活用している学校を2校紹介します。

SELで有名な学校: Alpha Public School、The Nueva School

Alpha Public School:カリフォルニア州・サンノゼ:公立学校

最初に紹介するのは、2010年に設立された比較的新しいチャータースクール、Alpha Public School (以下 Alpha School)です。Alpha School は「支援的な関係と学業への高い期待をもとに、素晴らしい教育を届ける」というミッションのもと、SELやデータ・テクノロジーを活用し、K-12と呼ばれる5歳から18歳までの幼稚園・初等中等教育を行い、サンノゼに4校展開しています。

Alpha Schoolでは「PLTプログラム」と呼ばれる、リーダーシップとSELを掛け合わせた独自のプログラムを開発し、10-15歳の生徒向けに実施しています。PLTとは「 Personalized Leadership Training 」の略語であり、子どもたちが「学業的にも・キャリアにおいても・個人としても」成功できるよう、SELについて学習します。

PLTプログラムは、大きく2つに分けられています。
1つめは「PLTラボ」と呼ぶクラス内でのディスカッションと生徒同士・教員でのピアサポート・評価。
2つめは「PLTフィールド」と呼ぶ個別のアウトドア研修やSELで学習したものを実際の生活に活用する体験です。

またPLTプログラムは生徒・クラスの状況に応じて行うことが推奨されており、実施は学年一律などでないとのこと。PLTプログラムは全て英語でのオープンソースになっているので、興味のある方は こちら のリンクからカリキュラムや授業案を閲覧できます。

The Nueva School:カリフォルニア州・サンフランシスコ:私立学校

次に紹介するのは、米国カリフォルニア州サンフランシスコにある私立学校 The Nueva School (以下 Nueva School)です。 Nueva School は、IQ130以上の子どもを対象とした、いわゆる天才児(gifted children) 教育の学校として1967年に設立されました。

天才児(gifted children)は、多動・繊細さや完璧主義などを含むタイプの発達障害をもち、またIQが高過ぎて周囲との関係をうまく保てないことが多く、自身の将来に対して悲観的・過剰反応になってしまうケースもあります。Nueva School のホームページでも「IQと同じようにEQは大事なものです」と書かれており、SELを通じて自己理解・社会性・共感力・感情制御力などを育てることを非常に重視しています。

Nueva Schoolでは自分自身をいたわる (care for Self)、他者に配慮する (care for Others)、地域・コミュニティを気遣う (care for the Community)という価値観を共有し、学校にいる全ての生徒に対して、SELのカリキュラムが提供されます。そして Nueva Schoolでも「生徒の学び・成長そしてより良く生きることを支える」ためにSELを行っていることを明言しており、SELカリキュラムを受講した生徒たちがより高い学業成績を修め、精神的に安定した成長を遂げ、大人としてより成功しているという成果を発信しています。SELプログラムは授業中・アドバイザリーと呼ばれる異学年交流グループ内・校外学習・課外学習や体育でも組み込まれているとのことです。

Nueva Schoolでは2007年から Innovative Learning Conference を主催し、SELだけでなくデザイン思考や天才児(gifted child)への教育などの分科会もあるイベントや、教員向け研修なども積極的に行っています。

最後の段落では、授業や学校で、実際にどんなアクティビティやカリキュラムが行われているかについて、ご紹介します。

SELを家庭・学校・社会で活かす指導案とアクティビティ

Alpha School や Nueva School ではSELに関してさまざまな取り組みが行われていますが、そのうちご家庭などでも活用できそうなアクティビティ・カリキュラムをご紹介します。

自己認識と他者への気づきを高める「私のこと (About Me)」ポスター

これは Alpha School で5・6年生(10-12歳)向けに 学年のはじめに行われるアクティビティの1つです。SELで大事な5つの視点・スキルのうちの「自己認識」「他者への気づき」の両方を高めることを目的としています。

簡単にやり方を紹介します。

  1. 全員の顔が見えるように輪になります。
  2. すぐにポスターの指示説明はせず、まず輪になって話し合いをします。たとえば「休み時間や休暇に何をするのが好きですか?」といったお互いを知るための簡単な質問に、全員が答えます。
  3. 子どもたちと、お互いを尊重して正直に話すことなど、ポスターを書く時・話し合いの時のルールを確認します。
  4. その後専用のフォーマットをもとに、各自ポスターをつくります。ポスターに予め書いてある質問は下記のようなものです:
・こんにちは。私の名前は ________ です。似顔絵を描きます(絵を描くスペース)
・これは私の出身(地域)を絵に描いたところです(絵を描くスペース)
・これは私が一緒に住んでいる人たちの絵です(絵を描くスペース)
・私が学校の外でするのが好きなことは ________ , ________ , ________ です
・私が学校で気に入っているところは ________ です
・私が大学を卒業する時の自画像はこちらです(絵を描くスペース)
(参考: 実際の5年生(10-11歳向け)のポスターのフォーマットは こちら

5. ポスターが完成したら、授業をいくつか使って3-4時間ほど発表を行います。

より詳しい手順や説明時に活用できるスライド(英語)はAlpha Schoolが公開しています。こちら をご覧ください。

SELとカリキュラム・他の科目との連携

Nueva Schoolでは、下記の実践をカリキュラムに組み入れています。

  • 授業やそれ以外の時間をとって振り返りやフィードバックを行うこと
  • 共感力を育むように配慮すること:下記は授業・単元での実施例
    • 5年生(10-11歳):社会運動について学んだり人文科学系のスピーチを書く
    • 6年生(11-12歳):学校行事でダンスをする時に何を期待するか全員でディスカッションする
    • 8年生(13-14歳):世界の食物連鎖を調べる
  • 週1回のSEL授業
    • 日記を書くこと、グループプロジェクト、ロールプレイ、交流・対話
    • テーマごとに知識・スキルを学ぶ授業:下記はテーマの例
      • 人間関係やコミュニケーションに関するスキル
      • ストレスマネジメント
      • マインドフルネス
      • 目標設定
      • 保健・健康・思春期や栄養に関する知識
      • ドラッグやアルコールの予防に関する知識
      • 学年・発達段階に応じて自己認識を促すアクティビティ
      • 仲間同士のオリエンテーション
      • 個人の価値観の深掘り など

これ以外に、Nueva Schoolでは1ヶ月に1回程度「オープンセッション」が行われ、生徒の間で出てきた課題・問題について生徒が答える時間があります。これは協働的な課題解決プロセスであるとともに、子どもたちが共感力や傾聴することを学び、信頼感を醸成し、(勇気を持って)困難を表明することなどの機会でもあるそうです。

日本の事例に関して知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。

SELに決まったカリキュラムはなく、お子さんに応じて様々に活用できるものです。下記に参考となるリソースのリンクをご案内しますので、興味のある方は適宜ご覧ください。

参考資料
Alpha Public School Personalized Leadership Training (PLT) 
The Nueva School Social-Emotional Learning
書籍「 社会情動的スキル――学びに向かう力 」  経済協力開発機構(OECD)