日本では2006年(平成18年)に入学定員超過率の大学平均が「1.1」を切り、少子化もあり2016年(平成28年)までずっと減少傾向にあります。(*1)そのことを背景に、近年増加してきたのが「不本意入学」です。

「不本意入学」とは、神戸女学院大学大学院人間科学研究科教授・教育学博士の小林哲郎氏(『大学生がカウンセリングを求めるとき』ミネルヴァ書房、2000年)によると、下記の5つの分類などの理由により不満や不安を抱えて入学することと定義できます。

 1.第一志望不合格
 2.合格優先:受かりやすい学校を優先し、進路に納得していない
 3.就職優先:就職の有利さを優先し、進路が自分の興味・関心に沿っていない
 4.家庭事情:自宅通学ができることや学費が安いことなど地理的・経済的事情優先
 5.学歴目的:勉強に興味がないが、親の勧めや就職を避けるために進学し学歴取得する


不本意入学者は、高校や大学等の受験・進学を「失敗体験」と感じることで
 生活のなかで落ち込むことが多くなり、心身が弱る
 不登校になり、社会生活に適応しにくくなる
などの影響が出てくる場合もあります。

このブログでは「不本意入学」の背景・現状と、不本意入学した場合に学校/教員・本人がどのように対応していくかについて紹介していきます。不本意入学の対応だけでなく「入学前に学生が考えておきたいこと」についても触れていますので、ぜひ読んでみてください。

もくじ
1: 「不本意入学」をする学生は3人に1人以上いる
2: 不本意入学者の悩みとは?
3: 入学前にどんなことを考えておけば良い?
4: おわりに:「不本意入学」はレジリエンスを高める機会でもある

1. 「不本意入学」をする学生は3人に1人以上いる

「不本意入学」の背景にある高校や大学等の入学・受験制度についてまとめると、日本の学校は偏差値によってランク付けされ

  チャレンジ校:自分の平均偏差値よりも偏差値が高い学校
  実力校:自分の平均偏差値相応の学校
  滑り止め校:自分の平均偏差値よりも偏差値が低い学校

という形で受験することが標準化されてきています。この枠組みにより、多くの受験生は「チャレンジ校を合格の可能性が低いとわかっていながら受験する」ことが一定の割合であります。

そのことにより不合格者の割合も高くなっており、中堅校における「不本意入学」者は4割程度、3人に1人以上と言われています。

受験制度については各国で違いがあります。ドイツでは日本でいう小学校4年生の成績によって5年生以降に通学する学校を決めていき、大学進学者向けと就業者向けに分かれます。詳しくはこちらから:

2: 不本意入学者の悩みとは?

それでは4割程度いる不本意入学者が抱える悩みとは、具体的にどんなものなのでしょうか?

日本では中学・高校・大学(学部・学科等別)がすべて偏差値で数値化され示されています。またこれによって「ある高校に所属した際、その高校にいる多くの生徒が目指す大学群を希望する傾向」が強まる現象を引き起こしています。

それによって、各高校の集団が希望する水準以上の大学に進学できれば満足し、水準未満の大学へ進学となった場合に「不本意」という感情を引き起こし、劣等感やしんどさを感じ、自己嫌悪に陥って苦しむことがあります。

しかし不本意入学は制度や上記のような現象が引き起こすものでもあり、受験まで・受験時の自分を振り返ることは必要ですが、必要以上に自分を責めることはしなくても良いといえます。

東北学院大学による新入生意識調査(*2)では、不本意入学者は
「親しい友人を作る」「クラブやサークルで活動する」
が有意に回答比率が低いことが判明しています。

また、その理由として
「他大の再受験や編入、就職など進学・就職のための準備をする」
という回答を得たことが挙げられています。
次の希望に向かって準備することに時間を使う、と考えていることがよくわかります。

ただ実は、受験の失敗を体験したあとにすぐ次の目標に向かっていってしまうと、思うようにやる気がわかない、気持ちばかりが先走って行動しにくいといったことが起こり得ます

「体験を受け止め、原因を探り、自分なりにどうすべきだったのかを具体化して理解する」という振り返りのステップを入れることで、自分がいますべきことやできることが俯瞰して見られます。振り返って考えてみると良いことについては、次の章で紹介します。


気持ちばかりが先走って行動しにくいことや入学後のバーンアウトなどを防ぐのには「セルフコンパッション(自分への思いやり)」の考え方も重要です。下記ブログから詳しく読めます:

3: 入学前にどんなことを考えておけば良い?

多くのビジネスパーソンのキャリア分析により「計画的偶発性理論(プランド・ハップンスタンスセオリー)」を提唱したアメリカの心理学者ジョン・D・クランボルツ博士らの研究には

「18歳段階でなりたいと考えていた職業に実際なった人の割合は、わずか2%」
「偶発的な出来事からチャンスを掴み、自らのキャリアに活かしていくことが重要」

という言説もあります。

クランボルツ博士のプランド・ハップンスタンスセオリーについては下記リンク先から詳しく読めます:

一見「失敗」に見える不本意入学について、また自分の納得した進学ができた方も、下記について考えてみることでより充実した学校生活を送ることができます。ノートに書き出しておくとより考えが深まるのでお勧めです。

現状:「進学したからできること」について考える
課題: 自分が希望する進路でやってみようと思うことを再度振り返って、進学先でどうやったらできるか考える
展望: やりたいことを学ぶには、進学先に限らずどんな方法があるかについて具体的に考える

また自分で書き出す際に行き詰まったら、大学の学生支援センターやキャリアセンターのスタッフ、先輩・友人などに相談してみるのもよいでしょう。

ある大学では不本意入学の学生から進学の不安・不満について相談を受けた際、学内の研究者にその学生をつなぐことでより勉学への興味が深められたり、学内でそのような機会がない場合には学外の機会やオンラインコースを紹介することで広く学ぶ機会を得たりなどの対応ができたそうです。(*3)

ポジティブ心理学の研究も、現状とそこからできることについて考えるのに役立ちます。下記ブログの中にある「ABC理論」などを通して否定的・批判的なことを合理的に考えられるようになります:

4: おわりに:「不本意入学」はレジリエンスを高める機会でもある

20年ほど前から、アメリカでは「レジリエンス(Resilience)」「レジリエント・アダルト(Resilient Adults)」についての研究が深まっています。

レジリエント・アダルトとは「逆境を跳ね返して成功をつかんだ人」といったような意味ですが、研究事例などを踏まえ具体的に言うと、虐待・トラウマや様々な精神・身体症状に悩まされながら自分の置かれている場で振り返りと学びを続け、自分の求める人生を得た人でもあります。

エミリ・エスタファハニ・スミス(Ms. Emily Esfahani Smith)氏は著書『The Power of Meaning: Finding Fulfillment in a World Obsessed with Happiness(「意味」の力:自分だけの満足いく人生を見つけるには?)』でレジリエント・アダルトについて紹介し「悲しみや苦しみに苦しんでいる人は、その苦しみを他者と分かち合ったり、自分の状況をより大きな視点でとらえることで、それを乗り越えていくことができ、むしろ力強く生きていけるのです。」とまとめています。

ぜひ入学前に、自分の感情やモヤモヤしていることをノートに書いたり、今からできること・したいことを妄想したりしてみてください。それがいつか自分や他人を助ける一助となるかもしれません。また入学後、偶然の出会いから興味や経験が広がることもあるでしょう。皆さんが充実した学生生活を送れるよう、陰ながら応援しています!

無気力な状況から抜け出したいと思っている方や周りにいるそのような方をサポートしたいと思っている方は下記の記事もご参考にしてください:

■ 資料リソース

*1:大学入学者選抜改革の動向 – 文部科学省 

*2:本学における不本意入学者の特徴:東北学院大学新入生意識調査の分析 

*3:教育困難大学に「不本意入学」した学生の実態 | 学校・受験 | 東洋経済オンライン

*4:The Power of Meaning: Finding Fulfillment in a World Obsessed with Happiness