皆さんは、何か物事を判断するとき、合理的に判断できていますか?
人は何かを判断するときに、普通は合理的に判断しようとします。

ただ、それが合理的かどうかを判断するには、より多くの情報を集め、状況を把握し、意思決定しなければいけません。

しかし、人が合理的に判断することは実は不可能なのです。なぜなら、今まで自分が積み重ねてきた経験や知識をもとにそれが合理的かどうかを勝手に自己判断してしまうからです。あくまで自己判断なので、客観的にみてそれが合理的かどうかは分かりません。

それはサイコロのように、自分の方から見えた面しか見えず、残りの面が見えないのと同じです。数ある情報の中から一部だけを切り取り、その面だけを見て、判断してしまうのです。

このような判断をするときに無意識に使ってしまう思考プロセスのことを「推論のはしご」といいます。どうすれば人は思い込みを外し、より合理的で客観的な判断が下せるようになるのかを今回は紹介していきたいと思います。

もくじ
1. 推論のはしごとは?
2. 学習する組織 ピーター・センゲのメンタルモデルとは?
3. 事実ではなくメンタルモデルを構築することで予測する
4. 無意識化での判断と行動
5. メンタルモデルの作られ方ー推論のはしごからの考察ー
6. まとめ:思い込みを防ぐ方法


1. 推論のはしごとは?

皆さんは、相手と意見が対立したとき、どのような反応をする傾向があるでしょうか。

「推論のはしご」とは、人がどのような事実や事象、情報から、どのような推理・推論を行い、最終的な意見や結論に行きついたのか、そのプロセスのことを言います。

そのプロセスがはしごを登ることに似ていることからそう呼ばれています。

「推論のはしご」という言葉は、ハーバードビジネススクールの名誉教授であるクリス・アージリスによって提唱され、ピーター・センゲ他著『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」(The Fifth Discipline Fieldbook)』の中で「メンタルモデル」として紹介されたことで広まりました。

2. 学習する組織 ピーター・センゲのメンタルモデルとは?

「メンタルモデル」とは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したもののことを指します。

例えば、東の空から朝日が出ているのを見て、今後その太陽が南、西の方に移動していくことを予想します。それは単なる予想ではなく、太陽が東から出て西に沈むことを知識として、体験として知っているからです。

私たちは様々な事象について、そのモデルをつくることによって、「こうなったら、ああなる」と、その働きや作用についてイメージします。その頭の中で形成されるモデルがメンタルモデルです。

3. 事実ではなくメンタルモデルを構築することで予測する

メンタルモデルは、さきほどの太陽の事例のような自然事象に対してだけではなく、社会や生活の中での事象にも使っています。

家族や友人に何かを話すとき、「これを正直に伝えると悲しむだろうな」とか、「これをプレゼントしたら喜ぶだろうな」など色々なことを考えていますよね。

このとき、皆さんの頭の中に家族や友人は入っていません。ただし、皆さんがつくった家族や友人のモデルが入っていて、そのモデルの反応を無意識に予測しているのです。

ビジネスの場面でもまた、「メンタルモデル」を活用して日々の意思決定や行動を行っています。クライアントはこんな機能性のある商品を求めている、この商品をこういう風にPRすれば、売れ行きがよくなるだろうなどと考えます。

さらに、自社の戦略に対して、競合他社や新規参入の可能性のある会社がどう反応するか、など、さまざまな立場のモデルを構築し、対応策を練っています。

4. 無意識化での判断と行動

メンタルモデルは、日々の行動の助けとなっています。メンタルモデルに従い行動し、それがうまくいくと、その行動を繰り返すようになります。この繰り返される行動は、やがてメンタルモデルを意識しなくともほぼ自動的に行われるようになっていきます。

実際、私たちは生活や仕事において、行動の7、8割は無意識下で行動し、顕在意識で考えてとる行動は2、3割に過ぎないといわれています。

このようなメンタルモデルは、私たちの過去の経験や知識をもとに形成されています。社会経験を積めば積むほど経験や知識が培われるので、メンタルモデルが強化されるだけではなく、様々な場面で対応できるメンタルモデルの種類と数が増えてきます。

この豊かなメンタルモデルのおかげで、私たちは日々の一連の判断や行動のほとんどを無意識にできるようになるのです。

無意識に判断できない部分に関しては、その場の状況や、必要な情報を手に入れた上で、今まで作ってきたメンタルモデルを参考にして、その状況下でどのように行動するのがベストなのかを判断をしています。

5. メンタルモデルの作られ方ー推論のはしごからの考察ー

私たちが日々の一連の判断や行動のほとんどを無意識にできるようになったのは、メンタルモデルのおかげです。

しかし、このメンタルモデルにも弊害はあります。私たちが無意識に判断、行動した結果、望まない結果となってしまったことはあるのではないでしょうか?

メンタルモデルは時として強い思い込みとなって様々な弊害をもたらします。

しかし、冒頭で説明した「推論のはしご」を理解することで、人とのコミュニケーションの齟齬がどこで生まれたのか、自分の思い込みがどこで発生したのかを確認しやすくなります。

今回は同じ事実から2通りの反応になった具体例を「推論のはしご」のプロセスを通して紹介します。

具体例(1)ー残業に価値を感じている上司

①観察可能な事実や経験:残業をしない社員を見つける

②特定の事実を選択:勤怠管理情報から残業をしていないという事実をみる

③事実に意味づけを加える:残業をしない社員は仕事熱心ではない

④意味を解釈し推測する:その社員は仕事熱心ではないので仕事ができないはずだと推測する

⑤推測から結論を出す:残業をしない社員は仕事ができないので評価を下げるのが好ましい

⑥結論を裏付ける情報を持つ:残業をしない社員の欠点や落ち度等を聞く

⑦確信に基づき行動する:その社員は仕事ができないので査定を下げた

具体例(2)ー残業に価値を感じていない上司

①観察可能な事実や経験:残業をしない社員を見つける

②特定の事実を選択:勤怠管理情報から残業をしていないという事実をみる。その社員の成果を確認する。

③事実に意味づけを加える:残業をせずに、成果がでているためその社員は効率よく仕事している

④意味を解釈し推測する:その社員は効率よく仕事をしているので優秀だと推測する

⑤推測から結論を出す:その社員は残業をせずに成果を出すので優秀なので評価することが好ましい

⑥結論を裏付ける情報を持つ:その社員の今までの功績や周囲のよい評判を聞く

⑦確信に基づき行動する:その社員は優秀で成果を出しているので査定を上げた

この事例から皆さんは、どのようなことを感じますか?

事例(1)と事例(2)はともに「残業をしない人」に着目していますが、事例(1)の場合は、成果を考慮していないことが「優秀さ」と「残業時間」の関係性を正しく判断できていない要因になりそうです。

データなどに基づいて行動を選択するという点から、以前のブログで「データから見た逆境に強い子どもを育てる方法」についても紹介しています。ぜひお読みください。

6. まとめ:思い込みを防ぐ方法

人は合理的に判断しようとする生き物ですが、実際は今までの経験や知識から推論のはしごをかけのぼり、無意識の思い込みで行動、判断している事例が数多くあります。

そのことが原因で人とのコミュニケーションが上手く取れなかったり、一部の事実しか見ずに誤った判断を下してしまうこともあります。

こういったことを防ぐためには、意識的に自分が結論を出した、又は推測した所から、はしごをひとつひとつ降りて、事実は何なのか、その事実に自分はどのような意味づけをしたのかを丁寧に確認していくことが必要です。

またこれは自分だけではなく、相手に対しても、「この人はどのような事実に着目し、意味づけしてこのような結論に至ったのか」を考えて、丁寧に問いかけることも大切です。

「どのような事実からそのような考えに至っているのですか?」

「そのように結論づけた背景は何ですか?」

常に思考のプロセスに着目し、自分にも相手にも丁寧に確認していくことが、円滑なコミュニケーションや合理的な判断に繋がっていくので、是非この推論のはしごを意識してみてください。

また自分の行動が周りの人に影響を及ぼす「モデリング理論」についても、リンク先のブログで紹介しています。併せてお読みください。