「読書の秋」。肌寒い気候が続くと、なんだか家や屋内で本を手に取りたくなりませんか。実は人間が集中するのには22度前後の気温が適しており、気温が低くなる秋は集中しやすくゆっくり読書をして過ごすのに良いことから、読書の秋と言われるそうです。また10月27日は文字・活字文化の日であり、今年(2020年)10月27日から11月9日までは読書週間となっています。

今回は読書について、脳科学によるアプローチ・効果についての説明から中国・シンガポール・日本における読書教育施策、「読書2.0」と称した書籍だけでない読書アプローチ・身の回りでできることを紹介していきます。

もくじ
1: 読書は「自然な行為」ではない~ただ脳の発達に大きく影響する
 1-1: 文字の歴史~読”書”の前に読”字”について
 1-2: 脳は「文字を読む」ことで変化・成長してきた
 1-3: 読書が脳と子どもに与える効果
2: 読解力を高めるために~中国・シンガポール・日本の読書教育と環境
 2-1: 中国の読書教育
 2-2: シンガポールの読書教育
 2-3: 日本の読書教育
3: 読書2.0~書籍からだけでなく「読書する人生」へ
 3-1:イーロン・マスクの読書術:読書を通じて「知識の木」を育てる
 3-2:“読書体験”の活用と中高生向け「読んでおきたい本リスト」3選
 3-3:自分・子どもを「読書する人生」へ送り出す


1.読書は「自然な行為」ではない~ただ脳の発達に大きく影響する

読書と脳科学について、米国タフツ大学のエリオット・ピアソン小児発達学部教授 メアリアン・ウルフ氏によって2008年に著された「プルーストとイカ:読書は脳をどのように変えるのか?」という書籍があります。ウルフ氏が認知神経科学や発達心理学・ディスレクシア(識字障害)研究の中で得た知見をまとめており、読書についてとても示唆に富んだ本で、以下3つの段落でウルフ氏の言説・主張を紹介します。

1-1:文字の歴史~読”書”の前に読”字”について

紀元前三千年ごろの楔形文字・ヒエログリフに始まった文字は、約2000年をかけて古代ギリシャのアルファベットに至りました。日本では1世紀ごろに中国文化として「漢字」が流入し、8世紀末頃から「かな文字」が使用されるようになりました。

現代でも、世界にある約3000~8000の言語のうち、「文字を持っている言語」は数十から数百と言われています。また偉大な哲学者のソクラテスは、文字を「死んだ言葉」と呼び、対話を求めて著作を残しませんでした。
以上のような史実を踏まえ、読字・読書は「自然な行為」ではないのだと、ウルフ氏は言います。

1-2:脳は「文字を読む」ことで変化・成長してきた

もともと人間は「文字を読む」という脳の回路を備えておらず、文字がより複雑に洗練されていくにつれて、脳の働きも変化していきました。今日、人類が2000年あまりをかけて発達させた文字を読むこと自体に、子どもたちはわずか2000日(5歳程度)で達するように求められています。

そして、文字を読ませる時期は早すぎてもかえって逆効果だと、ウルフ氏は言います。研究を進める中で、5~7歳になるまでは、文字を読むための準備としてのニューロンの発達が、脳内で整っていないことが判明したためとのこと。5歳ごろまでは絵本の読み聞かせなどで話しかける機会を多く作り、音声言語をよく理解すること・身の回りの物事について名前を知り語彙を増やしていくことが重要、と主張しています。

1-3:読書が脳と子どもに与える効果

ウルフ氏は研究の中で、読字の流暢さを獲得するにつれて、「頭が良くなる」ことも解明しました。文字や表現・感情の読解など読書で行われる処理が、脳の両半球から左半球の効率の良いシステムへと切り替わっていくことを発見したのです。これは「思考と感情を別々に処理できる速さ」を手に入れたということでもあるとのこと。
さらに熟達すると、推論と予備知識を統合するため、右半球の言語関連のシステムを用いるとともに、左右の様々な領域を駆使して「解読」を進めるようになります。つまり、私達は脳内においても、このようなシステムの学習・成長や実体化をともなって読字・読書のレベルを発達させています。

さらに文字に慣れ親しむことのできた子どもたちは、「戦略的な読み手」「行間が読める読者」へと進化を遂げるのだと、ウルフ氏は言います。読解力の向上だけでなく、推論し・問いかけ・仮説を生成する、といった主体的な読書ができるようになることは、上記に述べたように脳の発達とも関連したものなのです。

なお「言葉」が心理や身体に与える影響についても、以前のブログで紹介しています。ぜひお読みください。

2:読解力を高めるために~中国・シンガポール・日本の読書教育と環境

脳を発達させ、戦略的な読み手・行間が読める読者へと進化させる効果のある読字・読書を進めるために、世界各国ではどのような対応をしているのでしょうか。2018年(最新)のPISAの読解力(Reading)テストで上位であった中国・シンガポールの2カ国、そして日本の教育・読書環境について概観します。

2-1:中国の読書教育

2018年のPISAの結果、読解力(Reading)・数学(Mathematics)・理科(Science)すべてのテストで首位となったのが中国都市部(北京・上海・江蘇・浙江市)です。

中国の学校における読解・読書活動

中国では、国民読書活動の推進として2009 年に「国民読書活動のより一層の推進に関する通知」が制定され、各地域で活動の具体的な計画を策定するよう呼びかけています。北京市では、小学校~大学における読書指導の実施、およびさまざまな形態での学校内読書活動が奨励・実施されています。

中国における「課程標準」という統一カリキュラムでは、国語の授業時間数は日本とあまり変わりませんが、2017年の大学入試改革に後押しされ、学校教育・試験における読解の比重が増しています。

中国の学校以外での読書教育

2016年に設立された「一畝童書館(ACRE Junior Library)」は、子ども向け読解力教育サービスを提供する民間企業です。中国の図書館教育(*1)の開発モデルとレベル別読み物システムを提供し、オンラインアプリを使用して学習指導も受けられるようにしています。同社はオフラインの児童図書館を杭州に開設するなど、民間における読書教育普及の一翼を担っています。また2013年に起業された「一起作業(17ZUOYE)」は、教師・生徒・保護者の三者を結ぶ、対話型の教育プラットフォームを提供し、PC・スマホ等で、英語や中国語の文章朗読を行うと自分のキャラクターが成長することで学習を促進します。

中国の先進的な読書活動

上海図書館では、電子書籍の閲覧において、図書館カードと身分証明書番号があれば、オンラインや携帯電話など多くの方法で電子書籍を読むことができるという貸出サービスを実施しています。オンラインで電子書籍が閲覧できるだけでなく、携帯電話でのオフライン閲覧も支援しており、携帯電話用閲覧ソフトをインストールした後、携帯電話で閲覧する電子書籍をダウンロードし、オフライン閲覧をすることができます。

*1:図書館教育… 利用者が自立して図書館を含む情報環境を効果的・効率的に活用できるよう、体系的・組織的に行われる教育。日本では特に学校図書館・図書室の活用を目的として実施される授業や活動を指す場合もある。

2-2:シンガポールの読書教育

シンガポールの学校における読解・読書活動

2018年のPISAにおける読解力テストで2位を獲得したシンガポールの国語授業では、教科書だけに留まらず、新聞・ネット記事・映画・テレビやラジオなどの教材を使用しています。このような日常生活を題材とした学びを含め、21世紀スキルを育むカリキュラムに沿った教育がなされています。

またカリキュラムのどのレベルでも重視されているのが「クリティカルリーディング(Critical Reading)」。文章を批判的・構造的に分析し、単に内容を理解するだけではなく、生活に応用したり、内容に疑問を持ったりする力を育むことを段階ごとに小学校~高校までのシラバスに明記しています。同時に「クロースリーディング(Close Reading)」という分野も記載しています。「クロースリーディング」は細部に注目して文章を読むことで、文章から得た情報を元に自分の考えを形成したり、文章の中に出てくる考え方を整理して比較したり、文章の内容についてさらに調べるためにリサーチのための質問を立てることなどがシラバスに記されています。

シンガポールの学校以外での読書教育

2016年には、5年計画の「National Reading Movement」がシンガポール図書館委員会(NLB: National Library Board)から発表され、国内における読書時間増と幅広い分野の読書、家族・友人での共同読書が推進されました。

NLBが2020年に国内でアンケートを行ったところ、80%のシンガポール在住者が週1以上の読書を行っていることが確認されました。またこのMovementでは、英語だけでない母国語での読書も推奨され、シンガポールにおける活発な読書文化を創り上げていくことを目的に掲げています。

シンガポールの先進的な読書活動

シンガポールでは、この2020年に再び国語カリキュラムが刷新され、新しいカリキュラムでは、「クリティカルリーディング」分野にさらに力を入れることが発表されています。現在のカリキュラムよりもさらに、現代に適応したスキルや能力を意識しているようです。

2-3:日本の読書教育

日本の学校における読解・読書活動

日本では、主に小中学校で、学習指導要領を踏まえた読書活動の推進がなされています。
児童生徒の主体的・意欲的な読書活動の充実を目指した学校図書館の計画的な利活用、読書習慣の形成・読書の機会の確保を目的とした全校一斉の読書活動、卒業までの読書目標の設定、子どもによる図書紹介の活動などが、学習指導要領に組み込まれています。

2019年の毎日新聞社・社団法人全国学校図書館協議会の「学校読書調査」によれば、2019年5月1か月間の平均読書冊数は、小学生は11.3冊、中学生は4.7冊でした。上記の取り組みや次項で説明する「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」により、10年前と比較すると小学生が平均2冊、中学生が平均1冊増加しています。

日本の学校以外での読書教育

日本では、2000年を「子ども読書年」と決議し、5月には国立国会図書館の支部図書館として「国際子ども図書館」が開館しました。2001年12月に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が公布・施行され、読書活動施策の総合的かつ計画的な推進が図られました。2002年8月には「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が閣議決定され、子どもたちの積極的・自主的な読書活動の「環境整備」を推進することが基本理念として定められました。しかしながら地域ごとに図書整備や司書配備が異なり、まだ計画に定められたような環境には至っていないそうです。

2001年4月からは「子どもゆめ基金」が創設され、民間団体の行う子どもの読書活動等に対する助成が始まっています。ここでは、発達段階に合わせた読み聞かせ会・読書会・おはなし会やワークショップ等、多様な工夫を通じて本に親しみ楽しむ活動、家庭読書の普及・啓発活動などに対する助成を行っています。リンク先から、地域等に応じて様々な読書に関する体験活動を確認することができます。

日本の先進的な読書活動

2007年に京都大学の研究室に在籍していた谷口忠大さん(現・立命館大学情報理工学部教授、人工知能研究者)が「ビブリオバトル」を考案し、2008年から大学を中心に普及しました。ビブリオバトルとは、下記のビブリオバトル公式ルールにのっとり、読んだ本について語り合うものです。

  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
  4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

ビブリオバトルは 2013年 文部科学省「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」・2018年 文部科学省「第四次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」に掲載され、今では学校教育でも普及が進んでいます。

3: 読書2.0~書籍からだけでなく「読書する人生」へ

人類は知識の集積について、口承伝達から書字による伝達、そして活版印刷技術による書物・本の普及を経てきました。また最初にお伝えしたように、読字の流暢さを獲得するにつれて、脳が発達し、脳内がシステム化され「思考と感情を別々に処理できる速さ」を手に入れることができます。読書を進めると、読解力の向上だけでなく、推論・質問・仮説を生成する、といった主体的な読みを体験することができます。

今や知識は本によって得るだけではありません。コンテンツを「自分のもの」にするためのヒントやデジタル読書などの、「読書2.0」について紹介します。

3-1:イーロン・マスクの読書術:読書を通じて「知識の木」を育てる

起業家として、そして1日500ページを読む読書家としても有名なイーロン・マスク(Elon Musk)は、読書と勉強・成功のコツとして
「基本的な原則をまず理解しよう(“Make sure you understand the fundamental principles”)」
「ツリー構造で知識を身につけよう (”Think of knowledge as a tree”)」
の2つを挙げています。

原則を幹とする自分だけの「知識の木」を、体系化して育てていくこと。それが読書の醍醐味かもしれません。

3-2:“読書体験”の活用と中高生向け「読んでおきたい本リスト」3選

今まで「読書」について様々述べてきましたが、シンガポールの国語の授業であったように、書籍だけでなく様々なコンテンツを活用することができます。本をずっと眺めていることなどできないという場合も、PCやスマホ、読書会等を活用して、いつもと違った読書体験が可能です。ぜひ自分に合った方法を見つけて、楽しんでみてください。

音声による読書:Amazon Alexa/Kindleアプリ・画面読み上げ機能の活用

PCやスマホでダウンロードできるAmazon AlexaアプリやKindleアプリ、またスマホの画面読み上げ機能を利用して、画面やメモリ内のコンテンツを読み上げることができます。読み上げで電子書籍やウェブページ、メールマガジンなどを、移動時間に「聴き読」することができます。特に外国語の書籍・ページや読み進みにくい本などを通勤通学時に読み上げてもらうと、結構聞き進むのでオススメです。また耳で聞いたコンテンツを目で見て確認できるのも、重宝します。

電子図書館:青空文庫・Open Library

青空文庫は、日本語で誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集めようとする活動です。作者の死後50年を経て著作権の消滅した作品や「自由に読んでもらってかまわない」とされたコンテンツを、1000人以上のボランティアの方がテキストやHTML等の形式に電子化した上で揃えています。英語のコンテンツでは、同様にNPOとボランティアによって運営されている Open Library があります。
読んでみたい古典などあれば、ぜひこういったコンテンツにアクセスしてみてください。

2人以上で読書する:読書会・ビブリオバトル・アニマシオン

分厚い本を読むのが難しかったり、1人で黙って読むのが苦手だったり、様々な理由で読書が進まない場合、読書会等を活用するのもオススメです。「読書会+(地域名)」でGoogle検索すると、様々な読書会の案内が出てきますので、興味のある書籍・テーマなどに応じて参加してみてもよいでしょう。日本の読書教育で紹介したビブリオバトルについては、ビブリオバトル普及委員会がYoutubeチャンネルで大会・研修運営について発信しているほか、全国で行われているビブリオバトルについてGoogleカレンダーにまとめられています。また後述する「アニマシオン」についても、様々な地域でワークショップが行われています。

中高生のうちに読んでおきたい本リスト3選

この章の最後には、中高生のうちに読んでおきたい本のリストに関するリンクを案内します。興味関心に応じて、ぜひ活用してください。

1. 文部科学省 子供の読書キャンペーン~きみの一冊をさがそう~:文化人の推薦本11冊

教育や日本文化等に関わる11名の文化人が推薦本を挙げています。鈴木大地(前スポーツ庁長官)さんや秋田喜代美(東京大学教育学部長)さんなどから、絵本・小説から学習に役立つ本まで、様々な本の紹介がなされています。

https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_00480.html

2 honto! 書店員おすすめ 高校生のうちに読みたい本20選

オンライン書店の honto! では、本に精通している書店員さんのおすすめによる選書リストをいくつも紹介しています。下記リンク先リストでは、高校生のうちに読みたい小説・ノンフィクション20冊が掲載されています。

https://honto.jp/article/book/koukousei-osusume.html

3 浜島書店 中学生のための国語おすすめ50冊

教科書も手掛ける浜島書店によるおすすめ本のリスト。主に日本の作家の詩や小説・ノンフィクションなど、時代に関わらない幅広いセレクションが「まず読んでほしい」「読みごたえのある本」などに分けられて紹介されています。

https://www.hamajima.co.jp/kokugo/dokusho/

3-3:自分・子どもを「読書する人生」へ送り出す

読書活動としてスペインで始められた「アニマシオン」は、”魂を活性化し元気にする”という意味があります。スペインだけでなくヨーロッパで広がった「読書へのアニマシオン」は、読書が好きになるよう導くために元気づけるという目的から、子どもたちに読書の楽しさを伝え、子どもが生まれながらに持っている読む力を引き出そうと開発・体系化された読書指導メソッドです。アニマシオンについてここでは詳述しませんが、今まで紹介した読書教育やコンテンツ・ヒントをもとに「読書を通じて楽しく元気に」過ごせるようにと思います。

20年キャリアを積んだ方々の履歴書がどれも同じではないように、読書履歴もそれぞれユニークなものです。自分だけのかけがえのない読書履歴や「知識の木」を更新しながら、またご友人・同僚やパートナー・お子さんなどと読書から得られたインスピレーションや感想を共有しながら、言葉によって育まれる、豊かな世界を歩んでいきましょう。

◆参考リソース:

・プルーストとイカ:読書は脳をどのように変えるのか – インターシフト
http://www.intershift.jp/book_P_w.html

・PISA: 2018 Results – OECD (英語)
https://www.oecd.org/pisa/publications/pisa-2018-results.htm

・National Reading Movement in Singapore: Read More, Read Widely, Read Together! (英語)
https://www.nationalreadingmovement.sg/

・子どもの読書活動推進ホームページ – 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/suisin/index.htm

・「学校読書調査」の結果 – 全国学校図書館協議会
https://www.j-sla.or.jp/material/research/dokusyotyousa.html

・知的書評合戦ビブリオバトルオフィシャルサイト
http://www.bibliobattle.jp/home

・Elon Musk’s Secret to Learning Anything Faster (And Becoming Smarter) – Goalcast (英語)
https://www.goalcast.com/2018/05/16/elon-musks-secret-to-learning-anything-faster-and-becoming-smarter/

・読書のアニマシオン研究会(アニマシオンクラブ)
https://www.animation-club.net/