プランド・ハップンスタンスセオリーという理論をご存知でしょうか?
日本語で「計画的偶発性理論」「計画された偶発性理論」と訳されることが多いこの理論は、20世紀末ごろにスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したものです。
本理論のポイントの1つとして、
「個人のキャリアの8割は、予期しない偶然によって形成される」
という、衝撃的な主張があげられます。
「20代でこのスキルを身につけて、30代からはこの領域で起業する」といったような、従来の積み上げ型のキャリア論とは異なった主張をするプランド・ハップンスタンスセオリー。
この記事では、プランド・ハップンスタンスの考え方やその実例、そして私たちのキャリアにどう活かせるのかについて、考察していきます。
目次
1:プランド・ハップンスタンスセオリーとは
2:プランド・ハップンスタンスで重要な5つのスキル
3:プランド・ハップンスタンスの活かし方:人とのご縁を大切に!
1:プランド・ハップンスタンスセオリーとは

積み上げ型の「キャリアアンカー理論」
プランド・ハップンスタンスセオリーが生まれるまでは、1978年にマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン博士が発表した、キャリア・アンカー理論がキャリア論を席巻していました。
キャリアアンカーとは、個人の価値観や能力といった変わりづらい部分を人生の錨( = アンカー)に例えたもので、具体的には「経営管理コンピタンス、専門コンピタンス、自律、創造性、安定、社会への貢献、チャレンジ、全体性と調和」という8つの項目を指します。
上記のキャリアアンカーを参考にしつつ、自らの5年、10年先のキャリアイメージを設計していく。
これがキャリアアンカー理論の概要です。
プランド・ハップンスタンスセオリーが生まれた背景
先述の通り、プランド・ハップンスタンスセオリーは、1999年にスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が発表したものです。
この理論のポイントは、キャリア形成の8割が偶然によって決まるというものでした。
また、クランボルツ教授らのリサーチによると、18歳段階でなりたいと考えていた職業に実際になった人の割合は、わずか2%だったそうです。
これらの事実は、従来の積み上げ型のキャリア論に限界がきていることを示しています。
とりわけ、グローバル化や先進技術の発展による変化の激しい時代では、5年後10年後を予測することは非常に困難になってきています。
それはキャリアに関しても例外ではなく、遠い未来のキャリアを設計し、そこから逆算する考え方よりも、偶発的な出来事からチャンスを掴み、自らのキャリアに活かしていくといった考え方がより受け入れられるようになった、ということになります。
また、本理論は米国発のものですが、日本でも、1990年代以降長期の不況に伴って終身雇用が崩壊の兆しを見せ、雇用の流動性が増しつつあったことから、プランド・ハップンスタンスセオリーが受け入れられやすい土壌は整っていたと解釈されています。
まさに、不確実な時代と言われるVUCAの時代において、より広く受け入れられるキャリア論が、プランド・ハップンスタンスセオリーということになります。
VUCAについては、Katsuiku Academyの過去記事で詳しく紹介している記事があるので、ぜひこちらも参照ください。
プランド・ハップンスタンスの例 : スティーブ・ジョブズ
プランド・ハップンスタンスをイメージしやすい例として、スティーブ・ジョブズがあげられると思います。
彼のスタンフォード大学でのスピーチはとても有名ですね。
そのスピーチの中の以下の一節が、プランド・ハップンスタンスに近いのではないでしょうか?
you can’t connect the dots looking forward;
you can only connect them looking backwards.
So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.
これは、有名な「コネクティング・ザ・ドッツ( = 点と点をつなぐ)」の話です。
人生における点の数々は、後ろから見てつなぐことしかできないから、その点が将来何らかの形でつながることを信じなくてはならない、という主張です。
ジョブズの考え方は、将来像を設計して、そこから逆算してキャリアを積み上げる考え方とは一線を画しています。
現在の点が、未来にいつかつながる時がくると信じて、日々の仕事に取り組む。
それを信じることで、プランド・ハップンスタンスのように、偶然舞い込んだチャンスを積極的にキャリアに反映する生き方が可能になるでしょう。
その点で、ジョブズのキャリア観もまた、プランド・ハップンスタンスに深く通じるものがありそうです。
2:プランド・ハップンスタンスで重要な5つのスキル

さて、ここまでプランド・ハップンスタンスが生まれてきた背景について説明してきましたが、ここからは具体的に実践していく上で、どのようなスキルが重要になってくるのかを解説していきます。
プランド・ハップンスタンスセオリーでは、以下の5つの観点が非常に重要とされています。
好奇心
1つめは好奇心です。
関心分野を広く持ち、日頃から様々なことを学ぶように心がけることが大切です。
広くアンテナを貼っておくことで、思わぬ発見や、人との出会いが生まれ、それがキャリアの転換につながることもあるでしょう。
好奇心については、Katsuiku Academyの過去記事で詳しく紹介している記事があるので、ぜひこちらも参照ください。
持続性
2つめは持続性です。
失敗しても諦めずに続けることです。
めげずに努力を続けることで、自分の新たな可能性に気がつくことができます。
持続性に関連しては、やりぬく力に着目したグリッドという概念が有名ですね。
Katsuiku Academyの過去記事で、グリッドについて詳しく紹介している記事があるので、ぜひこちらも参照ください。
柔軟性
3つめは柔軟性です。
自らの固定観念に囚われることなく、多様な環境や考え方を受け入れることが大切です。
思考や行動様式を固定化することなく、フレキシブルな状態を維持しましょう。
楽観性
4つめは楽観性です。
チャンスを掴んだ時は、うまくいくと信じるマインドが大切です。
失敗しても前向きさを保つことで、新たな可能性が開けるでしょう。
冒険心
5つめは冒険心です。
こちらは ”Risk Taking” の訳で、
リスクが高い状況であっても、進むことを恐れないことが大切です。
不確実性が高い状況を、むしろ楽しむくらいのスタンスが望ましいでしょう。
不確実性の高いこれからの時代では、偶然の出来事や人との出会いを、うまくチャンスに変えて、自分のキャリアに活かしていくことが重要になってきます。
計画通りではない、偶発的なチャンスをどれだけ活かせるかは、上記の5つの観点を普段からどれだけ意識することができているかで決まってくるということが、プランド・ハップンスタンスセオリーでは示されています。
3:プランド・ハップンスタンスの活かし方 : 人とのご縁を大切に!

さて、ここまでプランド・ハップンスタンスセオリーの概要について解説してきましたが、最後に実際にどのように活用できるのか、という実例を紹介していきたいと思います。
筆者は、現在本ブログを記載しているKatsuiku Academyに参画していますが、以前は教育とは全く関係のない医療系のスタートアップで仕事をしていました。
将来何となく起業がしたいからという理由で、伸びそうなスタートアップで修行をしていたのですが、ある時をさかいに自分のやりたいことを見つめるようになりました。
そして、内省や自己分析をし、様々な人と話し、多くのワークショップに参加した結果、自分のやりたいことは教育であることに気がつきました。
とはいえ、どのような組織があるのか、どのような活動をしようか考えあぐねていた時に、勤め先の社長に相談したところ、Katsuiku Academyを紹介していただいて今に至ります。
このように、どこに偶然の出会いや出来事が待っているかわかりません。
その中で、プランド・ハップンスタンスセオリーが提唱しているような、キャリア形成につながる偶然を呼び込むのは、やはり人とのご縁なのかなと考えています。
まずは、目の前の仕事に打ち込み、スキルを高めつつ、周りの人からの信頼を獲得する。
そして、先にあげた5つの観点を大切にしつつ、いざというときに紹介してもらえる人物になっておくこともまた、よい偶然を呼びせるためには重要なことなのではないかな、と筆者は考えています。
◆参考ソース
▼キャリア心理学における偶発理論
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/50/4/50_384/_pdf/-char/en
▼スティーブ・ジョブス スタンフォード大学卒業式辞
Next Education Awardという教育者を表彰するアワードを設立しました。
第一回目となるアワードに関する詳細を知りたい方は下記をご覧ください。