「今まで自分が受けてきたような教育で、子どもたちは21世紀を生き抜く力を身につけられるのだろうか?」
「子どもの未来の教育とは、どのようなものなのだろうか」

こういった疑問について、考えたことはありませんか?

2015年には『Most Likely to Succeed』という教育ドキュメンタリー映画が封切られ、ここで取り上げられた「High Tech High」が「未来の学校」として米国で注目を得ることとなりました。

High Tech High をはじめ、海外の学校では、学校全体でPBL(Project Based Learning:プロジェクト型学習) を実施しているところがあります。この記事では、特に学校全体としてPBLに取り組むことで独自のカリキュラムを作り上げている学校3校と実践例を紹介します。

High Tech High のPBL例などについても詳しく取り上げていますので、ぜひお読みください。

もくじ
1: プロジェクト型学習(Project Based Learning:PBL)とは?
2: 児童の興味を引き出し自己実現に導く小学校のPBL:Minnesota New Country School (MNCS: 米国・ミネソタ州)
3: 科学とアート・言語学を横断する中高生のPBL:High Tech High (HTH: 米国・カリフォルニア州)
4: 世界各国の課題を直接リサーチ・アウトプットする高校生のPBL:THINK Global School
5: まとめ

1. プロジェクト型学習(Project Based Learning:PBL)とは?

米国の教育研究機関PBLWorksによると、プロジェクト型学習(PBL)は「児童生徒が、現実世界の個人的に意味のあるプロジェクトに積極的に取り組むことによって学習する教授法」と定義されています。

1897年に米国の哲学者ジョン・デューイ(Dr. John Dewey)が「実践による学習(実践学習・体験学習、”Learning by Doing”)」という考えを明らかにし、デューイの弟子のキルパトリック(Dr. William Heard Kilpatrick)が「プロジェクト・メソッド」として、生徒が計画し現実の生活において達成される目的をもった活動を授業に取り入れたのがはじまりとされています。

PBLを通じて、児童生徒は目の前で起こる複雑な疑問や問題・課題を検討・調査・対応します。また1回1授業などではなく少なくとも1週間などの中長期での取り組みとなるため、そこで知識やスキルを積極的に得られる効果があるとされています。

IQや学力では測れない非認知能力が気になる方は下記の記事をご覧ください:

次の章で紹介するのは、1990年代から自然環境を活かしたPBLを継続して行い、現在は小学校~高校まで12学年200人ほどの生徒が通う、Minnesota New Country Schoolでの小学校の実践例です。

2:児童の興味を引き出し自己実現に導く小学校のPBL:Minnesota New Country School (MNCS: 米国・ミネソタ州)

Minnesota New Country School (MNCS)は、1993年に米国ミネソタ州の公立チャータースクールとして設立されました。

MNCS小学校では、①環境体験学習、②PBL、③相互交流、④個性伸長の教育、⑤テクノロジーの5つを学校教育の柱としており、数学・読み書きなどの基本的なスキルにフォーカスしつつも、PBLをすべての学年で行っています。それは「プロジェクトベースの学習を通じて世界を探索する」ことが、この学校の特徴であり、児童の興味を引き出し自己実現のために必要なものと認識しているからだといいます。

また各学年で育む力について明示し、それをルーブリックにして学校として公開しています。(*1)

プロジェクト例①:小学3年生向け 文化的に多様なクリスマスについて知ろう

児童は「クリスマス休日」をテーマに、クリスマスの歴史・由来を学んだり、お祝いにまつわるペーパークラフトなどの創作を通じて歴史や文化を学ぶプロジェクトを行います。教員は児童の興味・理解度・進度に応じて、下記のようなプロジェクトを提示し進めます。

・クリスマスの過去:地元の歴史的な村を訪問し、入植者がどのように休日を祝ったかについて学ぶ
・クリスマスプレゼント:”present”について同音異義語・同義語・反意語に関する授業をする。また 「プレゼント」を作る
・世界中のクリスマス:
 地理:サンタはどのように旅行しますか?をテーマに地図上でコースを創造する
 宗教:イスラム教寺院のペーパーモデルを作成する
 音楽:世界中のホリデーソングをその国の言語で歌う
 国語:アイルランド語・アフリカ諸国など、他の言語で名前を言い、書くことを学ぶ
 社会:多くの伝統の歴史について学ぶ
・特別な人の歴史:ネイティブアメリカンについて学ぶ

■ 小学1~5年生で育む力: 創造力、批判的思考力、チームワーク、プレゼン力

プロジェクト例②: 小学2-3年生向け 動物プロジェクト

児童は「動物」をテーマに、自分が選んだ動物について調べ学習をします。教員は児童の興味・理解度・進度に応じて、下記のようなプロジェクトを提示し進めます。

・地図を作ろう:パンゲアや大陸移動についても説明し、動物の生息域に関する3Dマップを作る
・進化と適応:動物の特長やなぜ生き延びられたかなどについても調べて明らかにする。また長い時間かけてその動物に起こった変化などについても調べる(キリンやダチョウの例を共有する)。進化のチャートに基づき動物どうしを比べてみる
・住み家はどう?:その動物が生きるのに必要な環境について調べる
・アート:調べている動物の彫刻や像を図工の先生と一緒に作る

■ 小学1~5年生で育む力: 創造力、批判的思考力、チームワーク、プレゼン力

*1:MNCSレッスンプランとルーブリックに関する資料(英語)
 https://mncslessonplans.weebly.com/swan-room-2nd-3rd-grade.html

小学生のPBLでは、身近なものに目を向け、リサーチや創作を通じて文化や歴史に親しむことが主体となっています。またリサーチや発表をチームで行うことで、役割によってのタスクや自分が得意なこと・不得意なことなども理解していきます。


物事に興味をもつきっかけとなる好奇心についてもっと知りたい方は、こちらの記事をご覧ください:

次章では、リードで紹介した High Tech High を紹介します。この学校は教育に課題感をもつ起業家・専門家によって設立され、独自のカリキュラムでPBLを進めています。

3: 科学とアート・言語学を横断する中高生のPBL:High Tech High (HTH: 米国・カリフォルニア州)

High Tech High(HTH)は、2000年に公立のチャータースクールとして創設されました。ビル&メリンダゲイツ財団からの出資でも有名な学校で、学校としてミッションに近い「4つの設計原則」と呼ばれるものを標榜しています。

■ HTH・4つの設計原則
1.パーソナライズ(個別化)された学び(personalization)
2.大人の世界とのつながり(adult world connection)
3.共通の知的ミッションを持った取り組み(common intellectual mission)
4.デザイナーとしての教員(teacher as designer)

この4つの設計原則により、HTHは統合されたPBLや生徒の作品の展示などを重視したカリキュラムを進めています。HTHでは生徒は、下記の例のような個人またはグループでの作業・研究を含むプロジェクトを与えられます。

プロジェクト例①:サンディエゴ湾研究(San Diego Bay Study)

HTHで2003年から2014年まで行われた継続研究プロジェクト。同校の生物学およびバイオテクノロジーの教員であるジェイ・ヴァヴラ博士(Dr. Jay Vavra)とHTH中学校・高校の生徒とが協働してサンディエゴ湾について行うリサーチ。

10数年にわたるプロジェクトの結果、生徒が「環境における優先すべき事項」と推すリサーチについては、「The Two Sides of Sides of the Bay Channel: A Field Guide」「Perspectives from the San Diego Bay: A Field Guide」など4冊が書籍として出版されました。「Perspectives from the San Diego Bay: A Field Guide」の場合、1冊の刊行までに1年半をかけており、4学年が協同してリサーチをまとめあげました。

また教科横断のプロジェクトで、英語/国語(English Language Arts)、理科(Science and Technology)、社会(Social Studies)の3教科を網羅しているという扱いで、書籍に掲載される写真や地図・図表は生徒によって作成され、また書籍の端々に生徒による詩(poetry)を掲載することで、科学と言語・芸術の融合を試みているといいます。また社会科の学習として湾の歴史的なガイドとしての記載もあります。

プロジェクト例②:血液銀行プロジェクト(The Blood Bank Project)

2009年から、高校3年生のチームプロジェクトとして美術教師のジェフ・ロビン(Mr. Jeff Robin)と生物学/マルチメディア教師のブレア・ハッチ(Mr. Blair Hatch)が実施したのが「血液銀行プロジェクト」です。これはサンディエゴ献血銀行と協力してのプロジェクトで、献血の必要性に対する意識を高めるための施策を、生徒が考え研究するプロジェクトでした。

生徒たちは、白血病からエイズの流行、映画での血液の描写、さまざまな宗教での血液の役割に至るまで、いくつかの血液関連のトピックを研究しました。

またアウトプットとして、生徒は血液・献血に関する情報ビデオを作成したほか、献血と木を関連させたアートワークを完成させました。アートワークはサンディエゴのJETTアートギャラリーに展示もされました。

HTHのPBLは、教員の問題意識や地域課題に対して生徒の研究・協働がなされることで、出版や献血キャンペーンなど様々な影響や手応えを感じられる経験になること、またそれが生徒の達成感や満足感・自己肯定感にもつながるであろう実践だと思います。

サンディエゴ湾研究など複数学年で協働する実践についても、子どもたちにとって様々な刺激を受けられる学習であると想像できます。

最後に、校舎を持たず旅をしながら世界の課題をリサーチ・協働するPBLを主とするカリキュラムをもったTHINK Global Schoolを紹介します。こんな学校が実現されているんだ!と驚くことになるかもしれません。

4: 世界各国の課題を直接リサーチ・アウトプットする高校生のPBL:THINK Global School

THINK Global School(TGS)は冒険家・写真家のJoann McPike氏とその夫Harald氏によって2010年に創設され、”世界を旅する経験を通じて、学習者に「世界に興味があり、知識があり、意味のある変化に影響を与える人間、意欲のある思いやりのある個人」になるよう励まし育てる”というミッションを有しています。

TGSは特定の校舎を持たず、そのミッションに基づき、3年間を通じて「南極以外のすべての大陸を回り、旅しながら各国でプロジェクトを実施する」というPBLメインのカリキュラムを行っています。

生徒は1年に4カ国を旅し、4つのプロジェクトを実施します。約2ヶ月、1つの滞在国でその国に応じたプロジェクトをグループで進めていきます。1つのプロジェクトごとに教員が「Learning Target」と呼ばれる「何を学ぶか」を決めて明示し、生徒たちはLearning Targetを自らも確認しながら、下記のようなプロジェクトを進めていきます。

プロジェクト例①:ボツワナでのプロジェクト「オカバンゴデルタ(ボツワナ北部)について学び語ろう」

大きな問いとして「ボツワナ政府は、グレーターオカバンゴデルタの野生生物の密度と動きをどのように追跡していますか?」が挙げられ、生徒たちは地元の自然保護の専門家と協力してプロジェクトを行います。
具体的には、グループに分かれ、ボツワナ北部の動物の足跡についてリサーチを行ったり、その地域において優勢な種について推論したり、植生を特定したりするリサーチを行います。
またここで収集されたデータは、ボツワナ政府が後援する長期保護研究に提出もします。

■ 本プロジェクトのLearning Target:
チームにおける協働、批判的思考、効果的なコミュニケーション、プロセスと理解、
オリジナル作品の創造、リサーチ手法、プロジェクト管理、環境法、環境に関する法規や条約等、応用実験科学と問題解決

プロジェクト例②:インドでのプロジェクト「Eコマースを通じて提供しよう」

大きな問いとして「eコマースソリューションは、インドの地元の経済やコミュニティをどのように支援できますか?」が挙げられ、この質問に答えるために、生徒はプロトタイプのeコマースサイトを作成します。具体的に、生徒たちは先住民のワルリ族の職人と協力して、製品のeコマースサイトを作り販売までを行います。こういったプロジェクトの経験と分析を通じ、世界経済の変革についての貴重な洞察を得ることを企図しています。

■ 本プロジェクトのLearning Target:
リーダーシップ、チームにおける協働、積極的かつ高度な読解力、レトリック、
オリジナル作品の創造、人文地理学、視覚的表現・プレゼン力、
社会における歴史・制度・伝統に関する理解

THINK Global Schoolのウェブサイトには3年間で12回国を移動する具体的なカレンダーも示されています。先生方は最初の1ヶ月で生徒のプロジェクトチームを軌道に乗せてすぐに、次のプロジェクトの準備を始めるそうです。世界を股にかけるPBLの実践として、ここまではできなくても、何かの参考になればと思います。

またPBL以外にもアクティブ・ラーニングを実践する上で役に立つウェブサイト紹介が気になる方は下記の記事をご覧ください:

5: まとめ

子どもたちに良い教育を届けるために工夫されたカリキュラムや授業は、日本や世界に様々あります。今回PBLを中心としたカリキュラムをもつ学校を紹介しましたが、学校だけでなく、塾やフリースクールなどでも児童生徒たちにとって大切で必要な教育を実施されていると思います。

活育教育財団では、子どもたちに向けた様々な教育の取り組みを応援しようと「Next Education Award」という教育賞を立ち上げました。ご関心のある方は、下記リンク先からぜひご応募いただければと思います。また推薦したい実践をご存じの方も、他薦いただけますので、ぜひウェブサイトをご確認ください。

 Next Education Award https://nexteducationaward.com/ 

◆参考リソース:

・Minnesota New Country School (MNCS) https://www.newcountryschool.com/

・High Tech High (HTH) https://www.hightechhigh.org/

・THINK Global School https://thinkglobalschool.org/