「人の「貢献する心」が未来を作ってきた!!」といったら言いすぎかも知れません。しかし、欧米諸国におけるフィランソロピー(*1)活動では、美術・音楽等の文化活動や教育活動(地域学校・大学)に多くの財源を供給したり、開発途上国へのインフラ援助がその国の経済成長や工業化を促したりなど、現在に続く活動は、人や企業・組織の「貢献活動」に端を発していることがあります。

このブログでは、「なぜ人は助け合い貢献し合うのか」について「貢献・貢献活動」をキーワードに生物学・心理学での研究をひもとき、特に心理学における動機研究での「3パスモデル」と「共感ー利他的行動仮説」について紹介していきます。

*1:フィランソロピー(Philanthropy)
慈善活動。人々のウェル・ビーイング(Well-being)を改善することを目的とした、利他的活動や奉仕的活動などのこと。あるいは慈善的な目的を援助するためや特定の活動や事業のために、長い年月をかけて労力や資金を支援すること

もくじ
1: 生物学からみた貢献:「利他的活動」とは?
2: 心理学からみた貢献:「向社会的行動」とその定義
3: 貢献活動に至る動機は3種類?援助活動の3パスモデル
おわりに:自分が共感できるもの・やってみたいことは?

1.生物学からみた貢献:「利他的活動」とは?

生物学で研究されている「利他的行動(altruism)」とは、動物が他の個体などに対しておこなう、自分の命や損失を顧みずに他者を助ける・利益を図るような行動のことです。生物学ではチンパンジーをはじめとする群れ生活をする霊長類を観察し、下記のような利他的行動が観察されています。

● 捕食者の危険を仲間に知らせるための警戒音の発声
● 他者の毛から寄生虫を除去する毛づくろい
● 獲ってきた獲物を群れの仲間に分配する食物分配
● 母親以外(とくに若いメス)が行う子守り

なぜ利他的行動をするのか、については、生物学で主に「血縁淘汰説」と「互恵性の理論」の2つによって説明されています。

血縁淘汰説:親や兄弟などの血縁者は自分と同じ遺伝子を共有している割合が高いため、血縁者の生存や繁殖を助ける利他行動は、自分の遺伝子の一部を残すことにつながる。それが血縁者への利他的行動を引き起こすことになるという理論

互恵性の理論:他者への援助にはコスト(時間・手間・金銭など)がかかるが、その相手から後にお返しを受けることでコストは解消できる。お互いに助け合うことが繰り返されれば、両者の生存に有利となるとする理論。さらにヒトでは、直接の助け合い(直接互恵性)だけでなく、第三者からの評価や評判によって援助行動が生じやすくなっていると考えられている(間接互恵性)。援助行動をおこなうことは、集団の仲間からの良い評価につながるため、行為者にとっても利益になるということ

生物学では、主に「生存/サバイバル」という観点から利他的行動が説明されているのがわかります。また動物・人間に共通する「利他的行動」としては下記が挙げられます。

● 子守りや子育て
● パートナーや血縁者の保護・防衛
● 協力・協働活動

そして人間は、利他的行動として「貢献活動」も行います。いままで見たように、利他的活動は本能や遺伝子レベルでの行動とも考えられます。貢献活動は利他的行動のうちの、協力・協働活動のひとつとも考えられています。

2:心理学からみた貢献:「向社会的行動」とその定義

この段落では、心理学における貢献活動研究について掘り下げます。1960年代から米国で貢献活動・援助活動とほぼ同じ意味の「向社会的行動(こうしゃかいてきこうどう:prosocial behavior)」と呼ばれる「外的報酬を期待することなしに、他人や他の人々の集団を助けようとしたり、人々のためになるようなことをしようとする行動」についての研究が深まりました。

アリゾナ州立大学教授のナンシー・アイゼンバーグ(Nancy Eisenberg)氏とカリフォルニア大学バークレー校名誉教授のポール・ミュッセン(Paul H. Mussen)氏は、「向社会的行動」について、4つの条件があるとしました。これは4つすべてを満たすのではなく、どれか複数に当てはまるものが「向社会的行動」とされるというものです。

① その行動が相手の利益になる援助であること
② 金銭や物質・長期報酬を目的としておらず、行動をとることで自信がついたり、自尊心が高まったりという内的報酬を得ること
③ 行動に何らかの損失を伴うこと
④ 自発的になされること

次には、なぜ人が貢献活動・向社会的行動をするのかという動機の理論について紐解いていきます。

3: 貢献活動に至る動機は3種類?援助活動の3パスモデル

実験社会心理学の泰斗で『利他性の心理学(Altruism in Humans)』を著したテネシー大学名誉教授の ダニエル・バトソン氏は、援助行動に至る「3 パスモデル/3つの経路モデル」を提起しています。

第 1 のパス:「報酬獲得」や「罰を避ける」という動機
 行動の具体例:金銭的報酬を得るためや他者からの非難・自己の罪悪感情からとる行動。アルバイトや業務としての支援行動、後ろめたいことがあってお手伝いをしたりお金を渡したりすることなど

第 2 のパス:他者の苦痛を目撃して自分の中に起きた嫌悪的な感情・感覚や状態を落ち着かせるためという動機
 行動の具体例:震災のボランティア活動、貧困者等への炊き出し援助など

第 3のパス:他者の状態に共感しているという動機
 行動の具体例:同級生同士の教え合いやサポート、応援の気持ちからクラウドファンディングで支援するなど

バトソン氏は、このうち第1・第2のパスは「利己的動機」であり、第3のパスが真に利他的な動機に基づくものと提唱しました。「利己的動機」とは、自己の生存と繁殖率を他者よりも高めること、自己防衛やサバイバルを目的とした動機です。

第3のパスに関し、利他的な行動の動機の度合いを調べるために、バトソン教授は次に紹介する共感レベルとコストに伴う行動実験を行いました。

バトソンの行動実験(Toi&Batson、1982)

学生はラジオ番組のテープを聞くように求められました。テープの1つは、キャロルという女性へのインタビューでした。

インタビューでキャロルは、両足が折れたというひどい交通事故、その後の彼女の苦労、そして彼女がクラスでどのように遅れをとっているかについて話しました。

実験者は2つの要素を試すために、学生を4つのグループに分けました。

要素1は共感レベルです。2つのグループには ①(高い共感レベルを示すよう)彼女の気持ちに焦点を合わせようとインタビューを聞くことを、もう2つのグループには ②(低い共感レベルとなるよう)彼女の気持ちを気にせずインタビューを聞くように指示しました。

要素2は助けないことのコストです。2つのグループは、①(「高いコスト」を感じられるよう)キャロルが学校に戻った後に自分と同じ心理学のクラスに入ると言われました。もう2つのグループは、②(「コストをほとんど感じない」よう)彼女は家でクラスを終えるようなストーリーを聞かされました。

この特定のインタビューを聞いていた学生には、実験者から「講義ノートを共有して彼女と会うように」と書かれた手紙が渡されました。

結果、共感またはコストの高いグループの学生は、どちらの状況でもほぼ同じように彼女を助ける様子がみられました。共感の低いグループの学生は、毎日クラスで彼女に会うと援助しないことに罪悪感を覚えながら援助しないでいる者や、自己利益から援助行動をする者がいました。

この実験ももとに、バトソン教授は「共感ー利他的行動仮説(empathy-altruism hypothesis)」も提唱しました。その仮説は

「私たちが人に共感する場合、私たちは利己的な考えなしに、共感を感じたのに比例して、その人を助ける可能性がある。そうでなければ、私たちは報酬がある場合にのみ彼らを助けることになる」

というものです。共感ー利他的行動仮説を発展的に捉えたメリットとしては、

・差別意識が低減されること
・協力的態度が促進されること

などが考えられます。またボランティア活動や、現在様々なプラットフォームで広がっている見返りを求めない寄付や応援目的のクラウドファンディングなども、この仮説が応用されているものとみることもできます。初めに述べたように、未来につながる活動へ共感し行動することが、貢献活動の本質ともいえるかもしれません。

おわりに:自分が共感できるもの・やってみたいことは?

『利他性の心理学』でバトソン教授は、「利他性や利己性、またそれ以外の向社会的動機が存在することを考えに入れて、それらをうまく協調させられる社会の仕組みを作ることで、多くの社会問題を解決していくことができるだろう」と主張しています。

「機会の平等を通じた貧困削減」を目指す認定NPO法人 Living in Peace (LIP) 代表、「民間の世界銀行」を目指す五常・アンド・カンパニー株式会社の慎泰俊さんは、金融機関で働く傍ら、2007年にLIPを設立されました。サラリーマンとして働き平日の夜や週末をNPO活動に費やしながら書かれた著書『未来が変わる働き方 TAKE ACTION』ではこう述べています。

「社会を変えたい、誰かの役に立ちたい、と思っているなら、まずは自らアクションを起こすこと。起業するかしないか、 みたいな二分論からは離れて、僕たちひとりひとりが今、ここでできることを積み重ねることを通じて、ゆっくりと、でも確実に社会は変わっていくはずだ。」

「自分が共感して、人のためにやってみたいと思うこと」は?
「報酬や見返りがなくても、誰かのためにやり続けられること」とは何だろう?
「社会に対して自分はどのように貢献したいと思うのか?」
これらの問いと向き合うことで、自分が本当にやりたいことや大切にしたい価値が見えてくるかもしれません。またそれをもとに、実際に自由時間や休暇を使って様々なボランティアに取り組んでみるのもよいでしょう。

自分は何者なのか?を考える「自己理解」に関しては、下記リンク先の記事が参考になります。ぜひ読んでみてください。

◆参考リソース:

・中高生のボランティアネットワーク「VIOLET!!(バイオレット!!)」- 東京ボランティア・市民活動センター
https://www.tvac.or.jp/news/50354

・Activo – 国内最大級のNPO・社会的企業のボランティア・職員/バイトの情報サイト
https://activo.jp/

・Culture of Empathy Builder:  Dan Batson – Center for Building a Culture of Empathy
http://cultureofempathy.com/References/Experts/Dan-Batson.htm

・論考「貢献する気持ち」 – 一般財団法人 ホモコントリビューエンス研究所
http://www.homo-contribuens.org/ronkou/