前回のブログ「メンタルヘルスとは?~アスリートの競技環境やメンタルヘルスの課題から学ぶ」では、アスリートのメンタルヘルスの課題から私たちがメンタルヘルスと向き合うヒントを探してきました。

そのブログ内では、主にプレッシャーがストレスとなり、ストレスが過剰にかかってメンタルヘルスが害されてしまう様子を説明しました。

メンタルヘルスに関する課題は、アスリートだけでなく私たちにも深く関わっている課題でもあります。

それは、日常や仕事などで受けるストレスが私たちのメンタルヘルスを脅かす要因になるからです。

そこで、今回は、まずストレスについて理解を深めたあと、具体的なストレス対処法をいくつか紹介していきます。「メンタルヘルスとは?:アスリートのメンタルヘルスから学ぶ」の続きになりますので、もしそちらをまだご覧になっていない方は、ぜひご一読下さい。

もくじ
1:ストレスとは?
2:ストレスが起きたときの体の反応
3:ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの働き
4:ストレスへの対処方法
5:まとめ

1. ストレスとは?

皆さんはどんな時に「ストレス」を感じますか?

例えば、子どもが時間通りに起きてくれなかった時は、ストレスを感じるかもしれません。他には、急いでいる時に電車が遅れるとイライラしてストレスを感じてしまう事もあるでしょう。

これらはほんの一例ですが、どのような場面でストレスを感じるかは人によって異なります。

しかし、ストレスの感じ方は異なっても共通していることがあります。

それは、「自分の期待と違った結果が起こった時にストレスを感じる」ということです。

先の例を振り返ってみましょう。

・最初の例は、子どもに早く起きてほしい(期待)と思っているのに、子どもがなかなか起きてこない(結果)。

・時間通りに電車が来て欲しい(期待)のに、電車が遅れてしまった(結果)。

あなたのストレスを感じる場面を振り返ってみましょう。おそらく、期待している事と違った事が起きて、それに対してストレスを感じていると思います。

アスリートの場合を例に挙げると、試合中にシュートが外れたり相手が予想していなかったプレーをしてきたりなど、自分が望んでいない(予想していない)事が多く起こりやすい環境であり、試合を通して多くのストレスを受けています。

このように私たちは、「こうあって欲しい(期待)」がある中で「期待している事と違うことが起こった(結果)」にギャップがあることでストレスを感じます。このギャップが大きければ大きいほど、受けるストレスも大きくなります。

2. ストレスが起きたときの体の反応

では、ストレスを感じた時に、体はどのような反応をするのでしょうか?

スポーツ心理学では、ストレスを感じた時に覚醒水準(リラックスや興奮の度合い)が変化するとされています。簡単に説明しますと、リラックスした状態か興奮した状態かを示す度合いです。

例えば、時間通りに電車が来なかったことにストレスを受けて、イライラして過度に気持ち興奮した状態になったとしたら、覚醒水準が興奮した状態と判断します。

逆に、同じ場面でもストレスを全然感じずリラックスした状態になったとしたら、覚醒水準がリラックした状態だと判断します。

この覚醒水準の度合いは、1970年にトロント大学のベーリン博士が行った研究が元となって形になった「逆 U字理論」と呼ばれる理論で説明する事ができます。

もし受けたストレスに対して自分がすごく興奮(感情が高ぶる、空回るなど)していたら(グラフで右側に行き過ぎた状態)、ストレスに対して適切な反応が出来ていない(パフォーマンスが低い)とされてしまいます。

しかし、受けたストレスに対してリラックスし過ぎている状態(グラフの左側に行き過ぎた状態)もまた、いい状態とは言えません。

一番良いのは、本人の中でストレスに対して「リラックスし過ぎず、興奮し過ぎていない状態」で反応できている時です。

このモデルは、具体的な数値なので示すのは難しいのが課題ですが、主観的に判断するには今自分がどの状態かを判断するのに参考に出来るモデルではあります。

3. ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの働き

近年、脳科学の研究が発展してきた事もあり、ストレスを受けるとストレスホルモンである「コルチゾール」が分泌される事が明らかになっています。

スウェーデンの精神科医アンダース・ハンセン氏は著書『Brain 一流の頭脳』の中で、人間がストレスを増長させるメカニズムを以下のステップによって起こると説明しています。

1)自分にとって脅威だと感じる刺激(ストレス)を受ける
2)視床下部からホルモンが分泌されて下垂体を刺激する
3)下垂体からもホルモンが分泌されて副腎を刺激する
4)副腎がコルチゾールを分泌して全身に行き渡る
5)コルチゾールによって動悸が激しくなる
6)動悸の激しさから「緊張している」と実感してさらにストレスを感じる

上記のプロセスを見てわかる通り、ストレスを感じる要素を取り除かないと、繰り返しストレスを感じる悪循環に陥ってしまいます。

コルチゾールはストレスを感じなくなると即座に分泌が止まるので、ストレスを感じ過ぎている時は、ストレスを感じる刺激を取り除く必要があります。

4. ストレスへの対処方法

では、ストレスに対して私たちはどのような方法で対処していけるのでしょうか?

ストレスへの対処は、物事が起きる前の準備とストレスを感じた時の2つの観点から対処することが効果的です。

期待と起こる結果のギャップを小さくする(認知のコントロール)

まず1つ目は、目の前の出来事やこれから起こる事に対する自分の期待と、実際に起こったことのギャップを小さくする取り組みです。

これから起こることをコントロールすることは難しいですので、その代わりに起こったことに対する捉え方やこれから起こる事に対してどのように期待するかをコントロールする事を考えていきます。

マインドフルネス

マインドフルネスは、1980年代にマサチューセッツ大学医学大学大学院のジョン・カバットジン博士が禅の思想を元に体系化したストレス対策の方法です。

カバットジン博士の研究を通して体系化されたマインドフルネスのコンセプトとして下記の3つが挙げられます。

1)Non judgment(物事に対して良し悪しの判断をしない)
2)Acceptance(あるがままに受け入れる)
3)Being in the present(過去や未来ではなく、今に意識を置く)

この3つの考え方の特徴として、これから起きること(結果)に対して期待をそこまでしない考え方であると言え、その結果ストレスを感じにくい思考に出来ると考えられます。

このような考え方(物事の捉え方)が出来たら、ストレスを必要以上に感じる事を防げると期待できます。

マインドフルネスについては、下記の記事をご参考ください。

ABCモデル

ABCモデルは、認知行動療法で用いられる、自分の認知を視覚化をする方法です。この一連の自分の思考プロセスを視覚化して、それを踏まえて取りたい望ましい行動を考えていくのが目的です。

ABCはそれぞれ

Activating event(自分が認識した出来事)
Beliefs (その出来事に対して自分が感じる事)
Consequence(実際に表に出てきた感情や態度といった反応)

の3つを表しています。

ABCモデルの活用例としては、下記のようになります。

1)まず、自分がストレスを感じた出来事(Activating event)を書き出します。(例:電車が時間通りに来なかった)
2)次に、そのストレスを感じた出来事に対して自分が頭の中や口に発した言葉(Belief)を書き出します。(例:「どうして電車が来ないんだ?!」「こっちは急いでるのに!」)
3)そして、実際に出てきた反応や感情(Consequence)を書き出します。(例:イラつき、怒り、焦り)
4)ここまで書き出した上で、自分が取るべきだった行動や考えを書いてみます。(例:「電車が来なくてイライラする!でも、一旦落ち着いて迂回できる方法や遅れても大丈夫なように職場に連絡を入れよう」)

このような振り返りを繰り返していくうちに似たような場面で対処する方法が蓄えられていき、徐々にストレスがかかるような場面でも対処できるようになっていきます。

さらに発展させると、このような場面を未然に防ぐための対策(先の例だと、電車の遅れが出ても大丈夫なように、次からは1本早い電車に乗る、など)も考えて行動に移すと、ストレスを未然に減らすことも可能になります。

ABC理論のほかに、脳がポジティブになる訓練などを提案する「ハピネス・アドバンテージ理論」について、下記リンク先のポジティブ心理学に関するブログから詳しく読めます。

その他ストレスを感じたときの対処法

事前にストレスに対して準備していても、予期せぬ出来事が起きてストレスを感じてしまう事も多々あります。

その場合には、その時感じているストレスを軽減する取り組みが必要になります。

深呼吸

一番気軽で、かつ効果的なストレス軽減法が深呼吸です。

ストレスを感じている時は交感神経優位(興奮状態)なため、副交感神経優位(リラックス状態)な状態に持っていく必要があります。

深呼吸をすると、交感神経優位な状態から副交感神経優位な状態にすることができます。

深呼吸をする上で重要なのが、腹式呼吸で深呼吸をする事です。

腹式呼吸をするには、仰向けになった状態でお腹に手を当てて、息を吐きながらお腹をへこませるように息を一度吐きます。

息を吐いた状態からお腹を膨らませるようにゆっくり鼻から息を吸い込みます。

そして、息を吐く時は先程と同じようにお腹をへこませながらゆっくり口から吐きます。

最初は慣れないかもしれませんが、練習していけば徐々にできるようになりますので、まずは仰向けになった状態の時に練習してみて下さい。

ジョギング・筋トレ

『Brain 一流の頭脳』の中では、ジョギングのような軽い運動によってコルチゾールの分泌を抑えると説明されています。

軽く息が上がる程度のジョギングをすることで、コルチゾールの分泌が抑えられるため、ストレスを感じて運動できるときは、20分ほどジョギングをする事が効果的です。

目安として、1週間に2、3回ほど20分から30分ジョギングをすることで、ストレス耐性も身につくようになると説明されています。

人に相談する・話を聞いてもらう

自分がストレスを感じた時に、人に相談できるサポート体制(ソーシャルサポート)を用意しておくのも重要です。

ストレスを感じている時に、人とのつながりを感じられず孤独や疎外感を感じるような環境はよりストレスを強く感じさせてしまいます。

そこで、自分が困った時やストレスを感じた時に頼れる人に相談に乗ってもらったり話を聞いてもらうことは、ストレスを軽減させる方法として効果的です。

子どもと一緒にできるマインドフルネスや長期休暇にすべき3つの効果的な行動のアドバイスを、こちらのブログで詳しく書いています。

5.まとめ

今回は、ストレスのメカニズムを紹介してその上で出来る対処法を紹介してきました。

ストレスは、目の前の出来事やこれから起こる出来事に対する期待と実際に起きた出来事の間にギャップがあることで生まれます。

そこで、ストレスを感じにくくする捉え方としてマインドフルネスを活用したり、ABCモデルを使ってストレスを感じにくい捉え方をする準備をしたり、自分の物事の捉え方を振り返ることも効果的です。

もし、ストレスを感じた時は腹式呼吸による深呼吸でリラックス状態を作ったり、ジョギングをしたり、信頼できる人に相談するソーシャルサポートを活用することで、対処できます。

普通に生活している以上、どこかでストレスを感じることはあるでしょう。ストレスがない生活を求めるのは、ある意味現実的ではないかもしれません。

ですが、メンタルヘルスが害されるほどのストレスを感じる必要もありませんので、普段からストレスを感じにくくする取り組みをしつつ、ストレスを感じた時は深呼吸などで対処する準備をしておく事が重要です。

 

参考文献

アンダース・ハンセン.(2021).『 Brain 一流の頭脳』. サンマーク出版.

Berlyne, D. E. (1970). Novelty, complexity, and hedonic value. Perception & psychophysics, 8(5), 279-286.

Erickson, K. I., Leckie, R. L., & Weinstein, A. M. (2014). Physical activity, fitness, and gray matter volume. Neurobiology of aging, 35, S20-S28.

Thomas, A. G., Dennis, A., Rawlings, N. B., Stagg, C. J., Matthews, L., Morris, M., … & Johansen-Berg, H. (2016). Multi-modal characterization of rapid anterior hippocampal volume increase associated with aerobic exercise. Neuroimage, 131, 162-170.

Williams, J. M., & Krane, V.  (2015). Applied sport psychology: Personal growth to peak performance. McGrew Hill Education. 

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。