1月となり、受験シーズンとなりました。特に今年は、今までの大学入試センター試験の代わりに、大学入学共通テストが初めて実施されることになりました。

多くの受験生を悩ませる問題の1つとして、「暗記」があげられるのではないでしょうか?

人によってはすぐに覚えてしまって暗記が得意な人もいれば、中々覚えることができず苦手意識を持っている人もいるかもしれません。

そもそも人はどのように物事を記憶しているのか。脳の構造を紐解きながら、記憶の仕組みを探っていきたいと思います。是非、受験や日々の学習でご活用ください。

もくじ
1. 記憶の種類
1-1. 感覚記憶とは
1-2. 短期記憶とは
1-3. 長期記憶とは
2. 長期記憶しやすい時間帯
3. 好奇心と記憶の密接な関係
4. まとめ


1. 記憶の種類

「記憶」は私たちにとってとても身近なものですが、日常的に使用される「言葉」とは区別されるものです。
ここでは記憶の基本的な働きを説明したいと思います。

記憶の機能としては、主に3つの機能が挙げられます。

①記銘(memorization)・・・感覚器官より入力された情報を覚える機能

➁保持(retention)・・・記銘によって覚えたことを忘れずに維持し続ける機能

③想起(remembering)・・・保持した情報を思い出す機能

さらにこの「記憶」にはいくつかの種類があります。
大きくわけて「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」の3つです。

Ⅰ 感覚記憶:記憶が感覚器官から送られてきた情報を瞬時(0-2秒)に保持した記憶

Ⅱ 短期記憶:一時的に数個程度の情報を保持する短期記憶

Ⅲ 長期記憶:長期的に大量の情報を保存することが出来る長期記憶

この3つに分けられる記憶の分類は、記憶の多重貯蔵モデルの構造から来ており、アトキンソンとシフリン(Atkinson and Shiffrin)によって1968年に提唱されました。

当初は、短期記憶と長期記憶による二重貯蔵モデルだったのですが、のちに感覚記憶のメカニズムが短期記憶から分離する「多重貯蔵モデル」と言われるようになりました。

それぞれの記憶がどのような構造になっているのかみていきましょう。

1-1. 感覚記憶とは

「感覚記憶(Sensory memory)」とは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、といった感覚器官ごとに存在する、非常に保持時間の短い記憶のことです。

私たちは外界のさまざまな情報をこのような感覚器官から受け取り、短い間ですが記憶しているのです。

視覚・・・光情報
聴覚・・・音波
嗅覚・・・揮発性の物質
味覚・・・溶解性の物質
触覚・・・温度や圧力といった刺激を受容するセンサー

これらの情報は、電気信号として神経系を伝い、脳に達し、私たちに感覚を与えます。

これらの情報のうち、視覚情報に関するものは「アイコニック・メモリ」に、聴覚情報に関するものは「エコイック・メモリ」に送られます。

保持時間は感覚ごとに異なりますが、感覚記憶の保持時間は0~2秒程度だといわれています。短期記憶よりも短い記憶が、この「感覚記憶」なのです。

例えば、通学、通勤中にたくさんの人や車、建物などが目に入りますよね。
しかし、すれ違った人の顔や車種を覚えている人は少ないのではないでしょうか。

他にも五感を通して得られる情報は、街中から聞こえてくる話し声、音楽や香りなどがありますね。

視覚と聴覚からの情報だけでもたくさんあるので、嗅覚・触覚・味覚も合わせたら、膨大な情報量になってしまいます。全てを記憶していたら、脳がパンクしてしまうので、数秒で忘れるような仕組みになっているのです。

ただ、この感覚記憶は感覚器官から入ってきた情報の一時保管場所となり、次で説明する短期記憶、長期記憶に繋がっていきます。

1-2. 短期記憶とは

「短期記憶(short-term memory)」とは、比較的短い期間、頭の中に保持される記憶のことです。短期記憶は、感覚記憶よりは長い時間保存されている記憶のことです。

短期記憶として分かりやすい例は、英単語などの学習系です。前の日に一生懸命単語を覚えたのに、「次の日にはすっかり忘れてしまう」なんて経験はないでしょうか?

他の事例でも、電話番号確認のため、SMSに短い一時的なパスワード「5XXX」が送られてきた際に、メモには残さずそのまま暗記して入力した経験はないでしょうか。

一時的に記憶したとしても、この時の数字を覚えている人は少ないと思います。

これは短期記憶に一時的に保持されただけで、長期記憶に送られなかったために生じたと説明することが出来ます。

短期記憶に保持できる情報の量や保持時間は個人ごとに異なりますが、おもな一般的な成人の記憶容量7±2(5~9)チャンクといわれています。チャンクとは、意味をもった1つの情報のまとまりのことです。

【チャンク事例】

(1)12桁の数字を覚えるような場合
「1、2、5、3、6、2、9、3、4、8、7、0」のように、数字ごとに覚えようとする場合は、数字1つ1つが情報のまとまりとなるため、12チャンクとなります。

(2)「1600、1889、1973」のように、1600が関ヶ原の戦い、1889が大日本帝国憲法発布、1973が石油危機というような4桁の数字で1つの意味を持つ場合、3チャンクとなります。

【ポイント:チャンク化のコツ】

具体例として電話番号を覚える場合、まずチャンク化で11桁の数字を「090」「1234」「56XX」のように分けます。

これを数字としてではなく、あくまで数字を書いた紙の映像や連想されるイメージと一緒に覚えましょう。人は言葉で覚えるよりも、映像で覚えたほうが遥かに忘れにくいと言われています。

短期記憶が強い弱いというのは、この短期記憶に保持する容量や保持しておく時間が多い少ないことを意味しますが、短期記憶の弱さは、記憶力(どれだけ物事を記憶していられるか)の弱さと直結するわけではありません。

短期記憶は一時的な情報の置き場にすぎません。リハーサル(頭の中で何度も繰り返す行為)などを通して重要な情報を、長期記憶に送らなければ、その情報はすぐに廃棄されてしまいます。

つまり、短期記憶が弱いからといって、記憶力が弱いことにはつながらないのです。

情報を記憶する時の(チャンクの)まとめ方次第で、少ないチャンクで短期記憶に保持することが出来ます。つまり、情報の記憶の仕方を工夫することで、チャンクの最大容量で劣っていても多くの情報を保持できるのです。

1-3. 長期記憶とは

「長期記憶(Long-term memory)」とは、短期記憶がリハーサル(頭の中で何度も繰り返す行為)によって、比較的長い期間、保持される記憶のことです。

長期記憶はいつでも取り出せる状態になっています。

自分の名前や、仕事で大切なスキルなど、もう絶対に忘れないという記憶などですね。

では、長期記憶に保持された情報をできるだけ長く記憶するためにはどのような方法があるのでしょうか?

記憶に関する実験的研究の先駆者であるドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが発見した忘却曲線がヒントの1つになります。

【実験】
(1)無意味なつづりの単語セットを、完璧に暗唱できるようになるまで学習する
(2)その後、その学習した単語を、さまざまな時間間隔でどの程度覚えているかを調べる
(3)結果、20分後には42%、1時間後には56%、そして1日後には74%が忘れられるものの、そこから先は忘却量は比較的少なくなっていくことが示された

この実験から、「忘却は始めは急激に進むものの、ある一定程度忘却が進むと、次第にその忘却率は緩やかになる」ということが判明しました。

また別の実験においては、時間間隔を置けば置くほど再び学習するまでにかかる時間は、多くなることを示しています。例えば、はじめの学習から1時間後の再学習では、はじめの半分の時間で再び暗唱できるようになるのに対し、8時間後でははじめの2/3もの時間がかかってしまうのです。

リハーサル(頭の中で何度も繰り返す行為)を短時間で繰り返すことが長期記憶に結びつくことが効果的だということです。

また、この実験は、一度長期記憶に保持された情報を再び学習するときには初めに学習した時よりも学習時間が伸びることがないことを示しています。

つまり、一度保持された情報は取り出しにくくなるだけで、情報が失われるわけではないということです。

2. 長期記憶しやすい時間帯

記憶の種類について説明をしてきましたが、ここからは受験や日々の学習にも役立つ「長期記憶」の形成の仕方をもう少し深堀していきたいと思います。

短期記憶から長期記憶に移行するには、リハーサル(頭の中で何度も繰り返す行為)を短時間で何度も繰り返すことが有効だとされていました。では長期記憶しやすい時間帯はあるのでしょうか。

東京大学大学院理学系研究科の清水助教と深田教授らの研究グループが、マウスを用いた長期記憶テストを一日のさまざまな時刻に行ったところ、マウスの活動期のはじめに記憶のしやすさが最高に達することを見つけました。

記憶の日内リズムは海馬に存在する体内時計(海馬時計)が制御しており、遺伝子を操作して海馬時計を止めると長期記憶ができなくなる結果となっています。

ヒトでも記憶しやすさに日内変化があることは知られており、今回の発見したメカニズムはヒトの海馬にもあてはまると考えられます。

長期記憶のピークが活動期の前半だとすれば、夜行性のマウスに対して昼行性のヒトでは、長期記憶の学習効果のピークは昼の前半(午前中)にあたります。

このような長期記憶の日内リズムを利用して、より効率よく学習効果を上げることが期待できそうですね。

3. 好奇心と記憶の密接な関係

様々な情報の中でも特に長期記憶に残りやすいものは、感情が含まれている情報です。

人間の脳は、喜怒哀楽とセットになっていることを、長期記憶として保存しておく性質があります。思い出として長期記憶に残っているほとんどのものは、喜怒哀楽が入っている情報ではないでしょうか。

主に記憶を司る脳は、大脳辺縁系の中でも「海馬(かいば)」と呼ばれる部位です。
海馬が活性化することで、「ドーパミン」と呼ばれる神経伝達物質が放出され、情報は脳に記憶されます。

この「ドーパミン」は、他者に褒められたり、認められた時に生じる感情や前向きな行動を起こす感情(わくわく、どきどき、楽しいなど)でもあります。
つまり、ポジティブな感情が生じることによって「ドーパミン」が放出され記憶力が高まるのです。

大人に比べて子どもの方が「ドーパミン」が多く分泌されているために、好奇心旺盛で多くを記憶(学習)しています。何かが出来るようになる度に周囲の大人から褒められ、さらに「ドーパミン」を分泌するので、どんどん上達していきます。

しかし、歳を重ねるごとに「ドーパミン」の分泌は減る傾向にあり、褒められることも減り、更に「ドーパミン」の分泌は減っていきます。

「ドーパミン」が分泌されるような学習を通した好奇心(嬉しい、楽しい、わくわく、どきどき)を持つことで、どんどん新しいことを覚えることができ、前向きな行動を起こすことが出来きます。
何歳であっても新しいスキルや知識を覚えられ、時代の変化にも対応していくことができるのです。

4. まとめ

いかがでしたでしょうか?記憶には、感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3種類の記憶があり、情報の記憶の仕方を工夫することや、短期間の中で繰り返し学習することで、長期記憶となることが分かりました。

またそれ以上に何かを学習する際には、ドーパミンが分泌されるような好奇心をもって向き合うことが効果的な学習方法であることも分かりました。

今後VUCAの社会を迎えるにあたって、どんどん新しいスキルや知識を身に着ける機会が増えていきます。様々なことに興味関心を持ち、イキイキと学習することを通して世界をどんどん広げていきましょう。