何かに取り組んでいると、上手くいかずに失敗してしまうことや、なかなか思うように物事が進まない時も多いでしょう。

実際に、上手くいかないことが続いてしまうと「次も失敗してしまうかもしれない」「頑張っても上手くいかないかもしれない」と悲観的になってしまうこともあると思います。

一方で、何度も上手くいかなくても「もう一回やってみよう」「さっきよりかは良くなった」と繰り返し頑張れる時もあるのではないでしょうか。

このような考え方や捉え方の違いは、一見すると生まれ持ったもののように思われることが多いですが、実は後天的に変えていくことも可能です。

今回は、このような物事の捉え方のメカニズムについて説明していきます。

このメカニズムから、未来を前向きに捉えるヒントを探っていきます。

もくじ
1: Self-Theory(セルフ・セオリー)とは?
2: Helplesness(無力感)とmastery-oriented(熟達志向性)について
3: ラーニング目標とパフォーマンス目標を使い分ける
4: ラーニング目標とパフォーマンス目標を組み合わせて使う
5: 子どもがラーニング目標を立てるサポートをする
6: まとめ

1. Self-Theory(セルフ・セオリー)とは?

自分自身の行動をどのように捉えているかを説明する理論として、self-theory(セルフ・セオリー)と呼ばれるものがあります。

この理論は、スタンフォード大学で「マインドセット」の研究者でもある、キャロル・デュウェック博士によって研究されました。

ある実験で、デュウェック博士は小学校5、6年生の生徒たちに、比較的解きやすい問題を解いた後に生徒たちにとっては難易度が高すぎる問題に挑戦してもらいました。そして、難易度が高すぎる問題に直面した後の行動に注目して、多くの生徒が取った行動を2つに分類しました。

1つの目の行動は、難しすぎる問題に直面したら「自分は記憶力が弱いから解けなかったんだ」「自分は賢くないから解けなかったんだ」と自分の才能や能力を嘆いたり見限ってしまう行動でした。

もう1つの行動は、難しい問題が解けなくても「どうすれば解けるかな?」「一度落ち着いてからトライしてみよう」と問題が解けるようにするために工夫した行動でした。

この研究を通して、デュウェック博士は、1つ目の行動をhelplessness(無力感)、2つ目の行動をmastery-oriented(熟達志向性)と定義しました。

2. Helplesness(無力感)とmastery-oriented(熟達志向性)について

上記の研究を通して、生徒の中には一度上手くいかないと、上手くいかないことは自分ではどうにもできない、と思い込んでしまう生徒(無力感を感じている生徒)と、出来るようになるまで工夫したりチャレンジしたりする生徒(熟達志向性を持っている生徒)がいることが分かりました。

もう少し無力感と熟達志向性について深掘りしてみましょう。

無力感を感じている生徒たちは、一度上手くいかないとまず自分の能力を疑いはじめる事が多くみられます。これは、問題や何かが出来なかった事が、「自分には能力がなくて、その能力はどうすることもできない」と思い込んでしまっているためです。

そして、一度自分を疑い始めるとこれまで出来ていた事に対しても自信が持てなくなり「次も失敗してしまうのではないか?」と疑ってしまう傾向もあります。

このように、自分にはどうする事も出来ないという思い込みがどんどん膨らんでしまい、自分に対して無力感を感じてしまう傾向が、後の研究で「学習性無力感(learned helplessness)」として体系化されました。

学習性無力感についてはこちらの記事をお読みください。

一方で、熟達志向性を持っている生徒たちは無力感を持つ生徒たちと違い、出来なかった時に何かのせいにしたり非難していない事が分かりました。

その代わりに、自分のやる気を高めるような声をかけたり、自分の勉強方法を工夫して自分ができるようになる事に集中している様子が見て取れました。

この姿勢によって、出来ない事が出来るようになった経験が積み重なり、難しいことでも工夫して取り組み続けることで出来るようになり、その結果上達する事を学ぶことが出来ます

この出来ないことが出来るようになって、「自分に能力がある」「出来る事がある」といった認識をすることは、のちに「自己効力感」として研究されています。

では、どのような取り組みをしていけば、自分自身の物事の捉え方を変えていけるのでしょうか?

今回は、自分自身で物事の捉え方を変えていく方法と、周りの協力を得て捉え方を変えていく方法をご紹介します。

3.ラーニング目標とパフォーマンス目標を使い分ける

自分でできる物事の捉え方を変える方法は、自分で立てる目標設定を工夫することです。

ひと口に目標設定と言っても、実はどのような内容を目標に掲げるかによって、目標が自分自身に与える影響は大きく変わってきます。

特に、自分自身の捉え方や難しいことにチャレンジしている時の考え方に影響を与える目標が、パフォーマンス目標とラーニング目標です。

パフォーマンス目標

パフォーマンス目標は勝敗や成功、パフォーマンスの成否や良し悪しといった内容に関連した目標です。

例えば、「100点を取る」「学年トップ10に入る」「ミスしないようにする」などの目標は典型的なパフォーマンス目標と言えます。

パフォーマンス目標の特徴は、結果的に自分の能力の良し悪しを目標で測ってしまっていることが挙げられます。

もし、難しすぎる問題に直面した時にパフォーマンス目標を立てて評価する習慣がある場合、何度も目標を達成できなかった経験を積む事になってしまいます。

ラーニング(学習)目標

ラーニング目標は、目標を達成するために必要な取り組みが目標になっています。

例えば、単語の暗記の練習をしていた時に、「暗記の方法をフラッシュカードにしてみる」といった勉強方法そのものを目標にしたり、難しい問題を解いている時に「問題を解く上で大事そうな所に線を引く」などの取り組んでいる方法を工夫する目標などがラーニング目標になります。

ラーニング目標で評価しているのは、自分自身の能力ではなく自分が行った取り組みの中身です。そのため、問題が解けなかった原因を自分の能力に求めないので、無力感に繋がりにくいとされています。

4. ラーニング目標とパフォーマンス目標を組み合わせて使う

これらの特徴を踏まえると、日々の取り組みにラーニング目標を使うことで困難に直面した時に無力感を感じにくくする事が出来るようになります。また、自分の能力に悲観的になる事も避けられるため、これからの事に対しても前向きに捉える事が出来ます。

そこで、まずは日頃の勉強や活動で立てている目標を見直してみましょう。

恐らく多くの場合、先の「次のテストで満点を取る」といったパフォーマンス目標を使っている事が多いと思います。

そこで、このパフォーマンス目標を達成するために必要なラーニング目標を立てるようにしてみましょう。

具体的には、「次のテストで満点を取る」という目標を達成するために、どんな勉強をすればいいかを考えてみます。すると、「問題集を解く」「単語を覚える」「文法をノートにまとめる」など色々な方法が見つかるでしょう。

その中から、自分がテストで満点を取るために必要な取り組みを選び、ラーニング目標として定めます。

「この目標を達成するために(パフォーマンス目標)、この取り組みをすればいい(ラーニング目標)」といった具合にパフォーマンス目標にラーニング目標を結びつけることで、ラーニング目標に取り組むことで、結果的にパフォーマンス目標を達成できる事が見える化されます。

このような目標設定することで、ラーニング目標に集中しやすくなります。

目標を継続するためのコツについてはこちらをお読みください。

5. 子どもがラーニング目標を立てるサポートをする

保護者が子どもに出来るサポートとして、パフォーマンス目標とラーニング目標を結びつける手助けが挙げられます。

大人に限らず子どもも自然と勉強やスポーツに対して目標を立てている事が多くあります。

そこで、「どうやって勉強するの?」「どんな練習をするの?」と子どもが取り組もうとしている内容を聞いてみましょう。

他にも、「どんなことを新しく学んでいるの?」「どんな事を身につけようとしているの?」と上達したい事について聞くことで、上達に必要な取り組みに注意を向けやすくなります。

目標設定は、自然とパフォーマンス目標を立てている事が少なくありません。その場合は先の質問を活用して、パフォーマンス目標を達成するために必要な具体的な取り組みを考えられるような手助けをするのが効果的です。

子どもの成長を見守ることについてもっと知りたいからはこちらをご覧ください

6. まとめ

今回は、自分自身の捉え方を教育心理学の理論であるセルフ・セオリーから紐解いてみました。

セルフ・セオリーは、難しい物事に取り組んだ後に自分の能力を嘆く行動(無力感)と取り組んだ内容を見直す行動(熟達志向性)に分類したものです。

無力感の傾向がある人は自分の能力を疑ってしまい、その結果難しいことへのチャレンジを避けたり未来に対しても不安を抱く傾向があります。

一方で、熟達志向性を持つ人は難しい物事に挑んで失敗した後に、取り組み方に注意を向ける傾向があります。この結果、上手くいかなかった事や失敗した事に対してもあまり悲観的にならず、新しいことを身につける事を目標に行動します。

そして、これらの行動の違いは普段立てる目標の中身が大きく影響しています。

具体的には、目標達成の評価が自分の能力でしているパフォーマンス目標を頻繁に使っていると、無力感につながる可能性が高いとされています。一方で、取り組んだ内容の改善や工夫に注目した目標はラーニング目標と呼ばれ、ラーニング目標を多く使うことで熟達志向性が育まれやすくなります。

もし、自分で目標設定する場合はラーニング目標を意識して設定する事で、無力感を感じやすい捉え方から、熟達志向性へと変化させていくことは可能です。

また、保護者であれば子どもの目標を尋ねてみて、新しく身につけたい事や達成したい目標のためにどんな取り組みをすればいいかを一緒に考えてみる事で、子どもがラーニング目標を立てる習慣を持てる支援が可能となります。

物事の考え方や捉え方は、必要な取り組みを繰り返し続けていくことで変えていくことは可能です。今回のブログの内容が、未来に対して少しでも前向きに考えられるようなヒントとなれば嬉しい限りです。

参考文献

Dweck, C. S. (2013). Self-theories: Their role in motivation, personality, and development. Psychology press.

Nussbaum, A. D., & Dweck, C. S. (2008). Defensiveness versus remediation: Self-theories and modes of self-esteem maintenance. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(5), 599-612.

Robins, R. W., & Pals, J. L. (2002). Implicit self-theories in the academic domain: Implications for goal orientation, attributions, affect, and self-esteem change. Self and identity, 1(4), 313-336.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。