学習成果を評価する場合、テストの点数がよく用いられます。

知識の理解度を数値化されて分かりやすい一方で、他人の点数と自分の点数を比べて一喜一憂したことは多くの人が経験したのではないでしょうか?

しかし、何気なくしている他人との点数の比較は、実は成長する上で妨げになる事があります。

テストの点数は、出来たか出来なかったかがひと目で分かるメリットがありますが、点数の変化ばかりに目が行きがちでもあります。

本来テストの点数は、何が分かっていて何が理解出来ていないかを教えてくれる物であり、数字の意味する事を分析して初めて意味が出てきます。

言いかえると、自分が理解出来ていない事を知る事は成長のヒントを知る事にもなります。

今回は、テストの点数を含めた学習成果の評価を、より成長に繫げるためのメカニズムと具体的な実践方法をご紹介します。

もくじ
1: なぜ、評価を成長に活かせないのか?
2: マインドセットのタイプ
3: 先生の志向性は生徒の志向性にも影響を与える
4: 先生が生徒の成長マインドセット育成のためにできること:ルーブリックとフィードバックの活用
5: まとめ 

1: なぜ評価を成長に活かせないのか

テストの点数などの評価を成長に活かせないのは、結果(テストの点数)が自分の価値を決めるという考え方に陥ってしまっているからです。そして、結果が自分の価値を決めるという考え方は、成長する上で弊害になる事が多いです。

成長に関係する考え方として結果志向とプロセス志向と呼ばれるものがあります。

結果志向は、成功や失敗、点数の良し悪し、など物事の結果で評価をする考え方です。

例えば、テストの点数を見た時に、「今回は点数が良かったからオッケー」「友達よりも点数が悪かったからダメ」など、結果の良し悪しで自分を評価しているのが結果志向の特徴です。

一方でプロセス志向は、努力の程度、成長度合い、取り組みの中身、など結果に至るプロセスを評価する考え方です。

例えば、テストの点数を見てから「因数分解の問題は取れていたから、テスト前の勉強の仕方は良かった」「割合の計算でのミスが目立つから、次回のテスト勉強は割合の計算練習をもっと取り入れよう」など、テストの結果を基にテスト勉強の仕方を評価するのはプロセス志向の特徴です。

この志向性は次に説明するマインドセットの基となる理論になっています。

2: マインドセットのタイプ

この志向性を発展させたものがキャロル・ドゥエック博士が提唱したマインドセットです。

マインドセットは前述の結果・プロセス志向の特徴を踏まえ、2種類のマインドセットのタイプをより具体的な特徴を用いて説明しています。

結果志向と関係している「固定マインドセット」は、成功は自分の生まれつきの能力によって決まっていると考えている傾向があります。

プロセス志向と関係している「成長マインドセット」は、自分の持っている能力や特徴は変えていけるものであり、成功は自信の努力に由来すると考える傾向があります。

このマインドセットのタイプと評価の関係ですが、マインドセットのタイプによってテストや課題の評価をもらった時にどんな情報を得るかに影響してきます

例えば、固定マインドセットの傾向が強い生徒は、テストの点数に注意が向いてテストの点数の良し悪しが生徒自身の価値の良し悪しだと捉えてしまいます。そして、その評価は自分の生まれ持った才能によるもので、自分ではどうしようもないと考えがちです。

一方で、成長マインドセットの傾向を持つ生徒は、テストの点数が意味することに注目します。具体的には、間違えた理由を分析して次のテストや課題でミスをしないためにはどのような取り組みが必要なのかを模索し、自分の努力によって成長出来ると考える傾向があります。

このように、どちらのマインドセットの傾向が強いかによって、テストや課題のフィードバックの捉え方が変わってきます。

長期的に学びを楽しみ成長していくには、成長マインドセットの傾向を持つ方が好ましいと言えます。

マインドセットに関してより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

3: 先生の志向性は生徒の志向性にも影響を与える

前述のマインドセットの大きな特徴として、これらは他者からの影響や自分の取り組みによって変えていける事が挙げられます

つまり、先生の生徒への関わり方は彼ら彼女らがどのようなマインドセットを持てるかに影響を与えるのです。保護者の子どもへの関わり方でも同様の事が言えます。

これは、動機付け雰囲気と呼ばれる学習支援者の態度が学習者の志向性(やる気に関係する考え方)に与える影響を説明した理論でも説明されています。

動機づけ雰囲気に関しては、下記リンク先ブログ「学習環境とは?」3章の「周りからの影響を活かして学びを豊かにするには?」に詳しく書かれています。

この「学習支援者の態度」には、フィードバックの伝え方も含まれており、先生がどのようなフィードバックの伝え方をしているかは生徒の志向性にも影響を与えます。

例えば、先生が「今回はいい点数が取れたね」「前回と比べて点数が落ちてるじゃないか」といった具合に結果に対するフィードバックを多くしていると、生徒の注意も点数の良し悪しに向いてしまいます。

一方で、「前回出来てなかったか文章問題が解けるようになってるから、読解力が身についたね」「この計算問題を間違えたのは、途中式で間違えてたからだから、計算練習をもう少し頑張ってごらん」など、先生のフィードバックが成長や取り組みに対して行われていると、生徒の注意も成長や努力に目が向くようになり成長マインドセットが育まれます。

生徒の成長や長期的に学習を楽しめるような関わり方を目指すとしたら、先生からのフィードバックは成長や努力を強調するような伝え方が望ましいです。

周りの大人の態度や行動によって学ぶモデリングに関して気になる方はこちらの記事をご覧ください 。

4: 生徒の成長マインドセット育成のために:ルーブリックの作成例とフィードバックの活用

生徒が成長マインドセットを持てると、テストや課題の結果を活用して成長のヒントを見つけられるようになります。

そこで、成長マインドセット育成のために先生ができる具体的な取り組みをご紹介します。

フィードバックのガイドラインを作って、それに従ってフィードバックする

まず、成長マインドセットを促すためのフィードバックが出来るようにするために、フィードバックをする上で重要なポイントをまとめたガイドラインを作ってみましょう。

例えば、「他のクラスメイトとの点数の比較ではなく、その生徒の前の点数と比べてどう変化したかを見てフィードバックする」「出来るようになったことを伝える」「出来るようになったらさらに伸びるところを伝える」など、フィードバックをする際に強調したいことを書き出して手元に置いておきます。

そして、テストや課題をフィードバックする際には、そのガイドラインに従ってフィードバックをして大事なポイントに沿ったフィードバックを実践してこの取り組みを繰り返し行うことで、成長マインドセットを促すフィードバックが実践できるようになり、生徒の成長を支援することができます。

ルーブリックを作成・活用する

選択肢問題や穴埋め問題であれば、正解しているかどうかで点数化することが出来ますが、小論文や書き物の課題は点数化をするのは難しいと思います。

ですが、「ここまで出来ていればこれだけの点数がつきます」といった説明があれば、生徒も求められている内容を盛り込む事は出来ますし、 先生もチェックするポイントが絞られて評価しやすくなります。

そこで役に立つのが、ルーブリックです。

ルーブリックとは、数値化しにくい課題に対して目安や基準を作り、その目安に対して点数を設定した評価基準のような物です。

具体的にルーブリックを作成する手順としては、

1. モデルとなるルーブリックを参考にする
2. ルーブリックで評価したい態度に関係する好ましい/好ましくない態度や行動をいくつか書き出す
3. 絞り込んだ態度をレベルごとに並び替えてそれぞれに点数を設ける
4. 仮作成版で、一度ルーブリックを形にしてみる
5. シミュレーションやロールプレイなどで一度使ってみた後に手直しを加えて仕上げる

の6つのステップを踏むと作成しやすくなると思います。

例えば、「授業参加の態度」を評価する際に、「授業中に質問出来る」「グループディスカッションで相手の意見に対して肯定的な態度を示している」「宿題を毎回提出する」といった項目を設けてそれぞれに10点ずつ配分します。

「授業中に質問出来る」を意味する状態をもう少し詳しくするために、いくつか具体的な質問に対する態度を示し、「この態度に近ければ○点」と分かるようにします。

例えば、「1週間のうち1回は手を上げて質問が出来る」であれば10点、「月に1回は手をあげて質問が出来る」であれば5点、といった具合です。

このように特定の態度の目安を作る方法もありますが、この方法では生徒の得て不得手に影響されてしまいます。

この問題に対しては、「内訳」となる具体的な態度を幅広く設定することで対応出来ます。

他には「週1回授業中に手を上げて質問が出来る」「グループディスカッションで相手の意見に対して肯定的な態度を示せる」「授業課題を毎回提出する」「グループ学習の時間で、クラスメイトが分からない問題を教えたり勉強のサポートをしている」のうち3つが出来ていれば10点数、2つ出来ていれば8点数、1つ出来ていれば5点数、といった具合に、得意なものを選んべる形式にする事も出来ます。

更に効果的なのは、ルーブリックを生徒と一緒にルーブリックを作成することです。

先生が一方的に示したルーブリックと違い、生徒と一緒に作ったルーブリックには生徒が選んだ評価してもらいたい項目が含まれています。

自ら選んだものに対しては内発的に取り組みやすくなりますので、高い学習効果も期待できます。

ですが、生徒自ら評価してもらいたい部分を決めるのは簡単ではありません。加えて、評価項目の決定を全て生徒に委ねてしまうと、先生が本当に評価したい部分が含まれていなかった時に困ってしまいます。

そこで、まず先生からいくつか「こんなところを評価することができるよ」と候補を挙げて、その中から生徒に選んでもらう方法が考えられます。

例えば、
1. クラス全体で発言している時の様子
2. グループワークの時にチームと協力している様子
3. グループディスカッションの時に話しやすい雰囲気を作っている様子

などのように3つ選択肢を用意します。そして、生徒がそれぞれの中から1つ選んで、先生は選んだ項目について評価するようにします。

もし、生徒同士が話し合いを通して物事を決めることができるのであれば、生徒同士で相談する時間を設けて先の3つの中から1つ決める方法も考えられます。

この方法は、生徒が自分で評価されたい部分を選んでいるため評価される部分に対して積極的に取り組む事が期待できる一方で、先生が一人ひとりの選んだ項目を覚えておく必要があります。そのため、大人数を評価する場合は不向きな方法とも言えます。

ですが、生徒が自ら決めた評価に対しては具体的にどんな取り組みが必要なのかが明らかなことに加えて、自己決定のプロセスを通して自分事として取り組みやすくなります。

どのような形式でルーブリックを作るかは先生の持つ授業への考え方や意図によって変わってきますが、形式問わず大事な事は評価基準を明らかにして共有することです。

数値化しにくい態度でも、目安となる態度の基準と照らし合わせることで、自分の成長を測りやすくなります。

5: まとめ

テストの点数や課題のフィードバックは、間違えた箇所を明らかにして次への成長へ活かすためのアドバイスです。

しかし、結果の良し悪しばかりに目が向いてしまうフィードバックをしていると、生徒は知らず知らずのうちにテストの結果が自分の価値に直結していると思うようになってしまいます。

そこで、フィードバックをする際には、生徒が取り組んだ様子や生徒が出来るようになった事など、結果に至るまでのプロセスを評価するようにしてみましょう。

評価されるポイントが努力やプロセスに強調されることで、生徒の成長マインドセットの形成につながります。

テストや課題に対してフィードバックする際には、手元にフィードバックする上でのガイドラインを置いて意図的に成長や努力を強調したフィードバックをする取り組みをしていきましょう。

他には、ルーブリックを活用して先生と生徒の間で評価基準を共有するのも効果的です。数字にしにくい行動や態度に一定の目安を作ることで、どのような事が出来るようになると成長した事になるかが分かり、取り組むポイントと評価するポイントが明確になります。

初めてフィードバックのガイドラインやルーブリックを作成する際は、少し手間がかかってしまうかもしれません。しかし、一度作ってその都度手直しを加えていくことで、年を追うごとに改善された物が作られていきます。ぜひトライしてみて下さい。

参考文献

Andrade, H. G. (2000). Using rubrics to promote thinking and learning. Educational leadership, 57(5), 13-19.

Corkin, D. M., Horn, C., & Pattison, D. (2017). The effects of an active learning intervention in biology on college students’ classroom motivational climate perceptions, motivation, and achievement. Educational Psychology, 37(9), 1106-1124.

Wolcott, M. D., McLaughlin, J. E., Hann, A., Miklavec, A., Beck Dallaghan, G. L., Rhoney, D. H., & Zomorodi, M. (2021). A review to characterise and map the growth mindset theory in health professions education. Medical Education, 55(4), 430-440.

早川 琢也

 

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。