コミュニケーションスキルは、あらゆる分野で重要であると言われています。
教育場面を見渡した時にも、先生と生徒、親と子どもはもちろん、先生同士、保護者同士、地域の住民と学校関係者など、あらゆる人たちがコミュニケーションを取り合っています。
多くの場合、「コミュニケーション」と聞くとお互いの意思や考えを伝え合う意味が注目されがちです。
しかし、自分の意見や考えを伝えるだけでなく、相手の考えを受け取って初めて、コミュニケーションは成立します。
今回のブログでは、見落とされがちな相手の考えや意見を受け取る「聴くスキル」に注目して、聴く事からコミュニケーションを豊かにする方法を考えていきます。
学習環境シリーズ第三弾「活発な発言が生まれるグループディスカッションができるようにするには?」の記事を読みたい方は、下記リンク先をご確認ください。
もくじ 社会心理学では、私たちがコミュニケーションを取るのは「お互いの考え、気持ち、感覚といった情報を伝え合うための社会的な交流」と説明されています。 このような情報を伝え合う時には、必ず話し手と受け手がいて、両者の間を情報が行き交っています。しかし、コミュニケーションを取り合っている両者は話し手でもあり聞き手でもあります。 教育場面で一番よく見られる先生と生徒の間でのやりとりを取り上げてみても、「先生が生徒に必要な情報を伝える」、「生徒が分からないことを質問する」、「生徒の質問に先生が答える」など、場面場面で目まぐるしくコミュニケーションの形が変わっているのが分かると思います。 この「自分は話し手であり、聞き手である」という目線で考えると、コミュニケーションスキルは話すスキルと聞くスキルの両方が大切になってきます。 ここからは、どちらかと言えば見落とされがちな「聴くスキル」に注目して、聴くスキルを使ってコミュニケーションを取る人同士が心地よい関係性を築く方法について説明していきます。 具体的な内容に進む前に、ぜひ下記のことを一度試してみて下さい。 実際にやってみてどうでしたか?おそらく、すごく話しにくかったのではないでしょうか? 聞き手の態度としては少し大袈裟だったかもしれませんが、聞き手が反応してくれないと非常に話しにくいことを実感してもらうのが、このアクティビティの狙いです。 ここまで大袈裟な態度でなくても、聞き手が話し手の目を逸らしているだけでも話しにくさや居心地の悪さを感じると思います。 1人の聞き手に聞いてもらえないと感じるだけで、話しにくさを感じるということは、大人数に聞いてもらえないと感じたら、更に話しにくさを感じてしまうのが想像できるでしょう。 この事からも、聞き手がどのように話し手の話を聞くかによってグループ内での話しやすさに影響してくるのが分かると思います。 話し手が話しやすい空間を聞き手が作り出すには、アクティブリスニングスキルを活用するのが効果的です。 アクティブリスニングとは能動的に話を聴くスキルと説明されており、相手の話を聴くための具体的な行動や取り組みとして紹介されています。 過去の研究で紹介されているアクティブリスニングスキルは様々であり、相手の話を聞いている時の具体的な聴き手の行動をまとめた物や、アクティブリスニングを実践するための会話の最中のステップなど幅があります。 そのため、アクティブリスニングスキルと呼ばれる物も色々な種類があるため、紹介されているいくつかの方法を組み合わせたり、自分に合う形で取り入れるのが効果的な使い方と言えます。 そこで、ここからは過去に行われた研究をいくつかピックアップして、それぞれの研究で検証されたアクティブリスニングを紹介していきます。 1)共感を示すように反応する この研究で紹介されているアクティブリスニングスキルは、比較的具体的な行動や態度が紹介されているのが特徴です。 上記を実践することで、話し手が聞いてもらえている実感を持ちやすくなり、話しやすい関係性を話し手と築くことができます。 しかし、ただ「意識して練習する」だけではどうしても行き当たりばったりになってしまったり、系統的に練習しているとは言えず定着度合いを測るのも簡単ではありません。 そこで、SpataroとBlochの研究が参考になります。 2018年にSpataroとBlochが行った研究では、アクティブリスニングスキルを身につけるためのエクササイズの効果を検証しています。 このエクササイズ方法は、具体的なアクティブリスニングの行動や取り組みを身につけるための枠組みですので、前述のHuerta-WongとSchoechのアクティブリスニングスキルを身につける想定で話を進めていきます。 この研究では、次の3つの学習の目安を参考にして上達度を測り、意図的に必要なアクティブリスニングスキルを身につけていく枠組みが紹介されています。 1)アクティブリスニングに関係する具体的な行動を説明できる 1)では、前述のHuerta-WongとSchoechのアクティブリスニングスキルがどの程度説明出来るかどうかで理解度を判断します。ここでは便宜上Huerta-WongとSchoechアクティブリスニングスキルを例に挙げていますが、他の資料などで見つけたアクティブリスニングスキルでも構いません。 2)では、学んだアクティブリスニングスキルが使えそうな場面が理解できているかどうか、アクティブリスニングスキルの使い方が適切かどうかの2点から判断します。教育場面であれば、「授業中の質疑応答」や「グループディスカッションでのコミュニケーション」などが考えられます。 3)では、今後どのように学んだアクティブリスニングスキルを使えるかを説明できるか、使い続けられる自信や感覚があるかどうかで評価していきます。アクティブリスニングスキルも後天的に身につけられるスキルですので、実践した時の様子を振り返って進展を確認することで、練習したスキルに対して自信を持てるようになってきます。 ステージが進むほどアクティブリスニングスキルが身に付いていると考えられるので、説明できるようになり、実際に使えるようになり、今後も使えるようにしていく、という順を追って身につけていくイメージを持つといいでしょう。 2007年にMcNaughtonらが検証したアクティブリスニングを実践するための4つのステップでは、特に問題解決を目的にしたコミュニケーションのステップを紹介しています。 ステップ1:「注意深く相手の話を聞く」 話を聞いている時は、相手の伝えようとしている意図や内容を理解するのがポイントです。そして、話を聴いて話している内容を理解していることを相槌やジェスチャーで示します。 気をつけるポイントは、話し手の意見に同意かそうでないかを伝えるのではなく、あくまで相手が意図して伝えようとしている事を理解することです。 まずは一度相手の意見を自分の中に受け入れることで、相手の意図を汲み取った上で質問をすることができます。 もう1つ気をつけたいのは、無意識にやってしまいがちな聴いているうちに相手の伝えようとしていることを先回りして考えてしまうことです。 先回りして次の話を考えていると相手の話に注意が向かなくなってしまい、考えている間に相手が話した内容が抜け落ちてしまっていることはよくあります。 相手の話がひと区切りするまでは相手の伝えようとしているメッセージに注意を向けて、意見を引き出すサポートに徹しましょう。 相手の話を先回りしてしまったり物事を推論してしまう傾向について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。 ステップ2:「話し手に質問する」 問いかけの形式は、一通り聞いた後に気になった点について質問する以外にも、聞いた内容を要約したもので正しく理解しているかを確認することも含まれます。 「つまり〜〜ということですか?」といった具合に自分が理解している内容を相手に伝えることで、仮に解釈がずれていた場合には話し手が補足を加えることができます。 ステップ3:「問題点や課題に注目する」 このステップでは、これまでのやり取りを通して分かってきた話し手が解決したい問題の核となる部分に注意を向けていきます。 ここでも「この点を解決していくのが良さそうだけどどう思う?」と問いかけながら課題を確認していくことが大切です。 課題点を明らかにする時は、悪い箇所の指摘ではなく、あくまで「ここを直せば良くなる」といった具合に前向き・発展的な表現を使うように心がけましょう。 ステップ4:課題解決の方法を決める このステップでは、問題点をお互いに確認した上でこの問題を解決するためにできることを決めていきます。 特に意識すべきことは、「自分の手で解決できる」と感じられるような取り組みを決める事です。 そのため、大掛かりな手段や計画である必要はありません。話し手が「これなら出来そうだ」と思えるような手軽さに加えて「これをやれば問題解決出来そうだ」と実感できるような内容である必要があります。 具体的な方法が思いつかない時は、一緒にブレインストーミングをしながらアイディアを出すのも方法です。 アイデアを出す方法について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。 今回は聴くスキルとしてのアクティブリスニングスキルを紹介してきました。 学習環境の観点から、話し手が安心して話せる空間を作るのには聞き手がどのように話を聞いてくれるかが重要になってきます。 そこで、具体的なアクティブリスニングスキルの行動、アクティブリスニングスキルのエクササイズ方法、問題解決を円滑に進めるために聞き手が出来る4つのステップを紹介しました。 今回ご紹介した研究や方法以外にも、様々なアクティブリスニングスキルは紹介されていますが、総じて言えることはアクティブリスニングは、相手の話を理解して相手を理解するために使われていることです。 話し手は理解してもらえていると感じたら安心して話せますし、聞き手は相手のことが理解出来たらより的確に相手が求めていることを伝えられます。 ぜひ、身近でアクティブリスニングスキルが使える場面を見つけて、今回ご紹介した内容を試してみて下さい。 参考文献 McNaughton, D., Hamlin, D., McCarthy, J., Head-Reeves, D., & Schreiner, M. (2008). Learning to listen: Teaching an active listening strategy to preservice education professionals. Topics in Early Childhood Special Education, 27(4), 223-231. Hogg, M. A., & Vaughan, G. M. (2018). Social Psychology: Eighth edition, Pearson. Huerta-Wong, J. E., & Schoech, R. (2010). Experiential learning and learning environments: The case of active listening skills. Journal of Social Work Education, 46(1), 85-101. Spataro, S. E., & Bloch, J. (2018). “Can you repeat that?” Teaching active listening in management education. Journal of Management Education, 42(2), 168-198. 早川 琢也 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。
1: コミュニケーションとは?話すスキルと聞くスキル
2: 傾聴力がない人とのコミュニケーション
3: 傾聴力を高める具体的な4つの方法
4: まとめ
1: コミュニケーションとは?話すスキルと聞くスキル
2: 傾聴力がない人とのコミュニケーション
3: 傾聴力を高める具体的な4つの方法
2)自己開示をする
3)ポジティブなフィードバックをする
4)相手の話した内容を要約して反応する
5)自分の感情を表に出して相手に示す
6)相手の話した内容を別の言葉で言い換える
7)ノンバーバル(非言語)コミュニケーションを多く使う
8)アイコンタクトをする
9)励ましや勇気づけの声をかける
2)アクティブリスニングスキルが使える場面と、適切に使えている様子が認識できている
3)今後もアクティブリスニングスキルを使い続けられる自信や感覚を持っている 4: まとめ
Next Education Awardという教育者を表彰するアワードを設立しました。
第一回目となるアワードに関する詳細を知りたい方は下記をご覧ください。