授業で学んだ事に限らず、自分の仕事に関わる専門知識など、学んだことがどれだけ定着しているかを判断するのは難しいものです。
知識を問うのであれば、選択問題や記述問題などで確認することも可能ですが、気がつけばテストのために勉強していてテスト後には忘れてしまった。。。
定期試験や受験などでこのような経験をしている人は多いかもしれません。
学んだことを自分の生活や専門分野に活かすことが出来たら、もっと学びたい気持ちが湧いてくるのではないでしょうか?
今回は、学んだことをしっかり身につけて自分の生活や専門分野に活かせる為の学習環境を作る方法についてご紹介します。
学習環境のシリーズ第一弾の記事が気になる方は下記の記事をご確認ください。
もくじ
1: 学習における6つの認知スキル(Bloom’s Taxonomy)
2: 6つの認知スキル:「覚える」から「創造する」まで
3: 学んだ事を日常や専門活動に活かす効果的な学習方法
1: 学習における6つの認知スキル(Bloom’s Taxonomy)
授業を通して生徒が身につけるべき学習能力とは何か?
この課題に対してシカゴ大学のベンジャミン・ブルーム博士は、教師が生徒に授業を通して教えるべき事を6つのカテゴリーとしてまとめており、ブルームの分類体系(Bloom’s Taxonomy)と呼ばれています。
6つのカテゴリーは、知識(Knowledge)、理解(Comprehension)、応用(Application)、分析(Analysis)、統合(Synthesis)、評価(Evaluation)に分類され、授業を通して生徒がこれらの認知スキルを身につけるのが好ましいと説明しています。
この分類体系はその後研究者たちが検討を重ね、カテゴリーを説明する名詞から学習態度に結びつきやすいよう動詞に変えて説明されるようになりました。
それが下記の図になります。

特徴として、図の下に行くほどシンプルな認知スキルで、上に行くほど複雑な認知スキルである位置づけになります。また、下に行くほど実際にやる事が具体的で、上に行くほどやる事が抽象的でもあります。
この分類体系に沿って、「覚える」「理解する」「応用する」「分析する」「評価する」「創造する」の順番で学んでいく事で、学んだ事が定着しやすく実生活や専門活動に活かしやすくなります。
2: 6つの認知スキル:「覚える」から「創造する」まで
それでは、6つに分類された生徒が身につけるべき6つの認知スキルについて、詳しく見ていきましょう。
1. 覚える(Remember)
学んだ事を「覚える」ためには、長期記憶として既に覚えた事を思い出して知識を定着せることが必要です。
覚えた事を思い出すために、覚えようとしている事を知っている事と結びつけたり、それらがどんな理由で繋がっているかを認知出来るような勉強が効果的です。
記事紹介: 記憶のメカニズムに関して知りたい方は下記のブログをご確認ください。
2. 理解する(Understand)
学んだ事を「理解する」ためには、教わった事や学んだ事が何を意味しているかを考える事が大切です。
他の人に説明したり、大事なポイントを要約したりする過程で、学んだ事に対する理解度を測る事が出来ます。
3. 応用する(Apply)
学んだ事を「応用する」とは、知識として頭に留めておくだけでなく、実際に知識を使う事を意味します。
例えば、自分が理解した数学の公式を練習問題で使えるかどうかで、知識を応用出来ているかを確認する事が出来ます。
4. 分析する(Analyze)
「分析する」が意味するのは、問題を細かく分解して、細かく分けた物同士の関係に注目したり、分けた物が問題の全体部分にどう関係しているかを考える作業です。
例としては、数学の文章問題について考える時に、問題文を細かく分けてみて解決口を見つけるようにしたり、細かく分けた事でどんな公式が使えるかが分かるなど、自分が理解しやすい形に小さく分けてみる作業が挙げられます。
5. 評価する(Evaluate)
ここでの「評価する」は、学習者が自分自身の勉強や学んだことを評価する事を指します。
例えば、自分が書いた作文を読み返した時に、文章を書く上での大事なポイントに沿って書けているかどうかを評価するなど、自分の勉強した内容やプロセスに対して評価する事が挙げられます。
6. 創造する(Create)
「創造する」と聞くと、何もないゼロの状態から新しいものを生み出す様子をイメージするかもしれません。
しかし、ここで意味する 「創造する」はこれまで学んだ知識を組み合わせて新しいアイディアを生み出す事を指します。
例としては、「私たちの住んでいる街でもっと農業を盛んにするにはどんな取り組みが必要だろうか?」といった解決策を新しく創る課題が出されたとします。そこで、これまで学んだ地理や現代社会の知識に加えて、理科で学んだ気候の知識などを総動員させて、住んでいる地域に適した野菜を選ぶアイディアを創り出すといった過程が考えられます。
記事紹介: 創造力を活用してアイデアを積み重ねる方法について気になる方は下記のブログをご覧ください。
3: 学んだ事を日常や専門活動に活かす効果的な学習方法
ブルームの分類体系に沿って勉強していくと、より複雑な認知スキルが求められる勉強(評価する、創造するなど)で身につけた知識を使う事になります。このプロセスが、問題解決として活用する練習になり実際に必要な場面で出くわした時に学んだ事を使うことが出来ます。
では、実際にどのような勉強の仕方をすればブルームの分類体系に沿った効率の良い学びを提供できるでしょうか?
ここからは、インストラクショナル・デザイン(指導デザイン)を用いて授業課題や勉強課題を提案する例をご紹介します。
ここで紹介する方法が全てではありませんので、この例を参考にご自身の状況や出来る事に合わせてアレンジしてみて下さい。
ケース:プログラミング言語の習得出来る授業をデザインする
2020年から小学校で、2021年から中学校でプログラミングが必修化されました。
近年のテクノロジー産業の発展を 考えると、プログラミングを学ぶことで将来出来ることを増やしていけそうです。
そこで、「授業だから」とただ受けるだけでなく、学んだプログラミング言語を使いこなすための学び方を考えてみましょう。
解決したい課題:簡単なアプリケーションが作れるようになるくらいの、プログラミング言語を身につけられるようにする
ステップ1:授業での狙いや目指す姿をシラバスとして示す
どのようにしてプログラミング言語を学んでいくかをシラバスで説明していきます。
例えば、
- 基本的なプログラミング言語を覚えて、単元の終わりに思い出してみる
- 覚えた事をクラスメイトに説明できるようにする
- 学んだプログラミング言語を使って、課題の簡単なゲームを作ってみる
- 作ったゲームのバグの原因を分析する
- 出来上がったゲームがいい物かどうかを評価してみる
- 作った経験を活かして、自分で1つゲームを作ってみる
といった具合です。これらは、生徒に目指して欲しい姿であり、「こんな事が出来るようになって欲しい」といった目安とも言えます。
ステップ2:各学習の狙いに対応した課題を考えてみる
次に、上記に示した学習の目的を達成するために取り組んでいく課題を決めていきます。
例を挙げると、
- 授業の最初に簡単に前回の授業で覚えた事をシェアし合うペアワークを行う(覚える、理解する)
- 学んだ知識を使ってテトリスをプログラムする(応用する)
- 予めプログラムの中に仕掛けておいた簡単なバグの原因が何かを、グループで見つけて対処する(分析する)
- 一通り仕上げたテトリスを、動作性とデザインの観点から評価してみる(評価する)
- 期末課題として、自分でパズルゲームを作ってみる(創造する)
といった具合です。
この授業案と生徒のつまづいている様子を照らし合わせることで、それぞれの生徒の現状と足りない物の目処を立てられるようになります。
例えば、覚えた事を説明するのに苦労する生徒は、覚えるべきことを思い出す作業が必要かもしれません。
また、バグの原因をなかなか見つけられない生徒の場合は、問題を細かく分解出来ずに困っているのかもしれません。
このように、ブルームの分類体系に沿って作った学び方と学習課題を作成すると、生徒が何が出来て何が出来ていないかを把握するのに役立ちます。教える側も教える目安や生徒の見るべきポイントもある程度絞る事が出来ます。
また、学習課題を順番にクリアしていく事で、最終的にはプログラミング言語を使ってゲームを作れる実力までは身につけられることが期待出来ます。

ポイント
学んだ内容によっては、私生活や専門活動に活かしにくい物もあるでしょう。例えば、学んだ数学の公式によっては、後に私生活や専門活動にどう活きるかを考えるのが難しい物もあると思います。
そのような場合は、無理に「評価する」や「創造する」に関係する課題に結びつける必要はありません。
この分類体系を使う目的は全てのカテゴリーを網羅する事ではなく、この分類体系を使って少しでも充実した学びを促す事です。
テスト問題や練習問題で使えるかどうか(応用する)や、解いている問題を分析している時に使えることが分かった(分析する)など、評価や創造の手間で終わっても問題ありません。
多くの教科学習や専門知識の学習の場合は、
- 覚えた知識を思い出しながら定着させる
- 覚えた事を人に説明する
- 覚えた事を問題の中で使える
- 問題を解いている中で、学んだことがどう繋がるか分析する
の4つまでで考えると、生徒が目指す姿やそのための課題が決めやすくなると思います。
一方で、「評価する」や「創造する」まで発展するのは、上記でご紹介した専門知識を使って問題を解決する必要がある場面(プログラミング言語を使って簡単なゲームアプリを作る)が多いです。
何かを新しく創る作業は、それだけ高度な認知スキルが求められるため「創造する」まで見越した学習は必要になると思います。
今回ご紹介したブルームの分類体系のように、段階的に勉強する経験や学習課題を施す経験はあまりなかったかもしれません。
このブログを機会に、一度普段の教え方や勉強の仕方を見直してみると、新しい発見があるかもしれません。

参考文献
Forehand, M. (2010). Bloom’s taxonomy. Emerging perspectives on learning, teaching, and technology, 41(4), 47-56.
Krathwohl, D. R. (2002). A revision of Bloom’s taxonomy: An overview. Theory into Practice, 41(4), 212-218.
早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。
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