
黒井 憲
市立札幌開成中等教育学校教諭。北海道名寄市出身。
外部連携を軸としたキャリア教育プログラムを主に担当してきた。「農業×教育」をテーマに高校生と生産者をつなぐ「アニマドーレプロジェクト」や進路探究プログラム「Future Job Session」など、生徒がイキイキと学び、考え、体験できる教育プログラムを日々探究している。現在は中学3年生、高校1年生の主任を務める。
ファシリテーションスキル研修参加者インタビュー①~黒井憲さん~
平成 31 年度の未来の教室の実施事業者に一般財団法人活育教育財団が採択され、実施された「ファシリテーションスキル研修」(2019年12月~2020年2月)には、全国から教育関係者48名の方が参加してくださいました。今回は札幌から参加してくださった黒井先生にファシリテーションスキル研修を通して学んだことを語っていただきました。
【ファシリテーションスキル研修とは】
今後ますます多様化、ITの進化、グローバル化が進み、社会の急速な変化による新たなニーズや課題に応えられる人材を育成するための新たな教育を身に着ける研修です。
具体的には自律性、協働性、多様性理解などのグローバルスキルをテーマとしたPBL型のワークショップをデザインする方法と、実施するノウハウを身に付けていきます。
研修を終えた後、参加者の皆様が学校の授業やワークショップの形を進化させ、グローバルな環境下で複雑な課題解決ができる変革型人材の輩出ができるようになることを目指しています。
詳細はこちらからご確認ください。
対話の中から生徒の想いを引き出す
ーファシリテーションスキル研修に参加しようと思ったきっかけについて教えてください。
黒井:一言でいうと今の自分のスキルに限界を感じていたからです。私は教員になる前は塾の講師をしていました。そこで「教える」というTeachingスキルはある程度身に着けることができました。
しかしこのスキルだけではいけないと、教員3年目で行き詰まりを感じ始めたんです。どういうことかというと、生徒達が本当に学びたいことを学ぶには、それが何なのかを「対話」をして、「引き出す」というスキルが必要だと感じるようになっていたんです。
ただ、対話をして生徒自身からやりたいこと、学びたいことを引き出していくには、教師自身がどのようなマインドやスキルを持っていればいいのか、どのように身に着けたらいいのか分かりませんでした。
そんな時に、Katsuiku Academyのファシリテーションスキル研修の存在を知り、すぐに応募させていただきました。北海道は東京と比べてこのような教育研修が少ないので、参加した後は自分が学んだ事を他の先生方にお伝えできればと思っていました。
ありのままを観察することで、 共感・思いやりのある繋がりへ
ーファシリテーションスキル研修に参加してみて、大きな気づき・学びは何でしたか?
黒井:学んだことはたくさんあるのですが、その中で大きな学びの1つは「観察する」ということですね。私は人や感情だけではなく、今自分がいる「場そのもの」を良い、悪いの判断をすることなく、じっくりそのままを見つめられるようになりました。
今までの自分だったら、その場に怒っている人がいると、その人やそれを引き起こした事象に対して無意識に感情的になり、自分や他人を責めていました。しかし研修を通して「今なぜこのような雰囲気になっているのか?」「自分はこの場でどう感じているのか」を冷静に見つめられるようになりました。
その成果として、教室でも生徒に対して反射的な反応をしなくなっています。「なぜこの子はこのようなことをするのか」「この子がこのように言う背景は何だろうか」と冷静に観察して、確認ができるようになりました。自分自身でも感じる変化なのですが、以前よりも生徒に対して積極的に関わろうとするようになりました。それに呼応するかのように、生徒自身も私に関わろうとしてくれるようになりました。
先生と生徒という関係性での繋がりではなく、共感や思いやりのある繋がりに変化してきているのを強く感じています。今、生徒と一緒に授業を作ることが、とても楽しくて、以前よりもはるかに喜びを感じられるようになりました。
もう一つの大きな学びは、「グロースマインド」の考え方ですね。
Katsuiku Academyの研修では、理論やノウハウ等のHow to ではなく、実践する人自身の在り方がどうなのか?ということを常に問われます。生徒には「成長することは大切だ」というものの、じゃあ教師自身は常に成長を意識して行動しているのか?
私自身が、グロースマインドを持って日々実践していくこと、そしてその姿勢を行動で示していくことが非常に大切だということを学ぶことができました。研修が終わった後も「自分自身が体現者である」ということを常に意識して行動しています。
デザイン思考を活用し、校内をオンライン化
ー研修参加後どのように職場等で学びが活かされていますか
黒井:研修で学んだことを職場で意識的に行ったことは、コロナ対応でした。コロナの感染拡大によって学校は休校となったのですが、生徒一人一人にタブレットが配布されているものの、当時は全ての先生が授業の中で効果的に活用できていなく、休校時にオンライン対応(本校ではiTunesUを利用していました。)ができていない状況でした。
研修の中では「デザイン思考」のことも勉強していたので、学んだことをオンライン化に向けてフル活用しようと決めました。
まずオンライン化するにあたり、問題が何なのかをじっくり観察して考え、チーム(オンライン化するにあたり協力してくれる教員チームを作りました。)で集まり、どういうものが必要なのか、アイディア出しを行いました。
アイディアを出しては、絞り込んでという拡散と収束を繰り返し、それをまず形にしてみる。完璧なものを1つ作り出すのではなく、不完全なものでもいいので、まずは形にして、試してみる。そこから実際に使ってみて、フィードバックをもらいながら、より良くしていくことを目指しました。
また今回オンライン化をするにあたり、教員の方の中にはオンラインへの苦手意識を持たれている方もいらっしゃいました。そこで私は、オンラインを使用する際の手順やルールを整理しました。その上で、サンプルのコースを作り、教員の方に登録してもらい、実際に使ってもらうことを始めました。
その上で、何ができて何ができないのか、チームのメンバー全員で検討しました。それを徐々に大きくしていき、モデル講座を各学年で作り、実際に生徒にも入ってもらって使用感を確認しました。エラーや修正事項は沢山出てくるのですが、その都度軌道修正してより良くなっていきました。
この時自分が気を付けたことは、このオンライン化への取り組みをメンバー全員で作り上げたという実感を各自が持てるようにすることでした。それは今後もこのオンライン化を学校全体の文化として残していくときに、一人一人にオーナーシップがないと消えてしまうと考えたからです。そのおかげで、トラブルが出てきた際も、先生方一人一人がオーナーシップを持って対応してくださいました。
結果としては、オンライン化は大成功で、タブレットも学校全体で効果的に使いこなせるようになり、文化として定着させることができました。今では各教員がオンラインで自分のコースを自由に設定して授業を進めたり、情報共有をしたりと、選択の幅が広がってきています。
ファシリテーターとしての参加
ーKatsuiku Academyのファシリテーションスキル研修は他の研修と比べてどのような点が良かったでしょうか。
黒井:良かった点はたくさんあるのですが、一番インパクトがあったのが「ファシリテーター」として研修に参加できたということです。
研修に参加するという意識でいると、ついつい受講者となり、教えられることをただ受け取るという受け身な姿勢になりがちです。
しかし、Katsuiku Academyの研修は、研修の参加者ではなく、この場を作りあげる一員として、ファシリテーターとして参加することを強く求められます。
それはファシリテーターとして、この研修の場が今どんな空気になっているのか、参加者一人一人がどんなことを考えていて、どんな気持ちになっているのか。そして自分自身は、この研修の場をどのようにしていきたいのか、どう貢献していきたいのか、そしてそれを実践できたのかどうか。常に問われます。
研修は全5回あったのですが、各回の終わりには、振り返りの時間が設けられており、参加者としてではなく、ファシリテーターとして今日の自分がどうだったのかを振返ることができました。おかげでファシリテーターとしてどうすべきか、何ができるかを常に意識して参加することができました。これは回を追うごとに自分はファシリテーターであるという意識が強くなりました。
ー今挑戦していること、またこれからどんなことに挑戦していきたいですか?
黒井:今挑戦したいことは、Katsuiku Academyのファシリテーションスキル研修で学んだことを多くの先生方に伝えていくことです。この研修では本当に多くのことを学び、かつ実践を通して、私自身が一番成長、変化できたことを実感しています。
北海道ではまだまだこういった研修を受けられる場が少ないので、自分が学んだことを少しでも多くの先生方に伝え、ファシリテーションスキルについて広めていきたいと思っています。
教育はあくまで子ども、生徒達が主役であり、彼ら自身にオーナーシップをもってもらいたいと思っています。自らの人生を自身で切り開いていくオーナーシップを持ち、本当に好きなことをやり、学びたい事を学ぶ生徒達のサポートを私は今後もしていきたいです。
まとめ
全5回のファシリテーションスキル研修(2019年12月~2020年2月)に毎回札幌から東京まで通っていただきましてありがとうございました。黒井先生は、Katsuiku Academyが本当に伝えたかったことを積極的に学校現場で体現してくださいました。コロナ禍による休校時の対応も、デザイン思考を使ってオンライン化の流れを作り、文化として定着させることに成功されました。教師自身がグロースマインドを持って、どんなことにも挑戦していく姿勢を見せることが大切だと改めて感じました。
黒井先生、インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。