山田育子
東京都新宿区出身。東京都立大学人文学部卒。
大手IT企業にて社長室秘書課・事業企画推進室を経て、個別指導/集団塾にて教室長を務める。その後 NPO法人Teach For Japanへ入職、フェローシップ・プログラムの地域・学校への導入、フェロー(教員)の研修・支援、各種渉外活動に従事。自治体・企業・Teach For Allネットワークとの連携により、学習支援ほか様々なイベント・事業運営を行った。現在はKatsuiku Academy での活動を通じ、教育・学びと成長を楽しむ環境づくりに励んでいる。

Katsuiku Academy スタッフ インタビュー④【山田育子】

今回Katsuiku Academyのプロジェクトマネージャー山田育子さんにインタビューをしました。大学時代に教育学を学び、そこから一般企業・塾・教育系NPOと活動の場を広げてきた山田さん。小学校の時に受けたいじめをきっかけに学習について向き合ったと言います。現在までの教育のキャリアだけでなく、小学生を育てながら考える教育とは?についてもお伺いしました。

ーKatsuiku Academyでは現在どのようなことに取り組んでいますか?

山田:現在は学校における新規事業や管理職向け事業の運営、ブログ執筆やリサーチ業務を担当しています。1年ほど前にNPOから転職したのですが、Katsuiku Academyでは 1on1 や振り返りミーティングに定期的に時間を取っているので、児童生徒や教員の自己理解を促す教材開発や事業を進めながらも、自分自身の「イキイキ」を問い、自己理解が進むことも感じています。

学ぶ場・学ぶことへの興味から教育学へ

ーKatsuiku Academyではそれぞれがイキイキを追求する上で、それぞれが持っている価値観やストーリーを大切にしていますが、山田さんのストーリーを聞かせてください。

山田:やればやった分成長・変化や成果につながる「学習」が小さい頃から楽しくて、今でも教育に関わっています。

実は小学3年生のとき、クラス内でいじめに遭いました。誰も口をきいてくれなかった時には驚き傷つきました。1年間無視されるいじめが続きましたが、学習が好きだったこともあり学校を休もうと思ったことはなく、おしゃべりできる友達が一人もいなくても授業や先生のお話を楽しんでいました。

なぜそうできたかというと、母にいじめられていることを意を決して打ち明けたときに「あなたにはあなたの価値があって、それは誰にも否定できないもの。家族はみな、あなたの味方だよ」と言ってくれたことがあったから。その言葉で「自分は自分でいいんだ。お友達とのやりとり以外にも周りに楽しめること・学ぶべきことはいろいろある」と思えました。

いじめが始まってからすぐに、いじめをする人の見ている世界・見えていない世界を考えてみていました。いじめる人の世界で、いじめが何か楽しさや満足感を与えるものだったらいじめは続くということを考えました。嫌がったり落ち込んだ姿を見せることでより「楽しい」と思わせるだろうと理解したので、よくあるいじめの対処法だとは思いますが、感情的な表現や過度な反応はしないようにしていました。

学校に行き続けたのは母の言葉もありましたが、要は「動じない自分」を見せたかったんですね(笑)。 同時に、いじめをする人の見えていない世界では、私自身が様々ないじめに関するエッセイや読み物を通して学習し、いじめの対応やどうしたら自分自身が楽しく生きられるかに関する知識をつけていっているんだと自覚していました。

結局学年が上がるという環境の変化でいじめは終わりましたが、いじめられている間に、上記のようなことをいろいろ考えました。自分が生きている限り学習があると気づき、あれこれと考えながら経験を知識に変えられる学習が、本当に楽しいと思いました。学習は1人でもできますが、学校でするような、知識や経験を共有・交流することも楽しい学習だと思いました。学習すればするほど、直接触れ得ない世界のことも知れ、自分が至らないことも知って進めることに、純粋に楽しくワクワクするのです。

「何から学ぶか・何を学ぶか」は自分で決められます。学校のような学習の場や、1人でも進められる学習そのものの可能性・自由さ、視点や考え方を広げてくれるところが本当に面白いと思って、ずっと教育に関わっています。

また3人兄弟の真ん中で、両親はそれぞれの得意なものを進めようと、習い事も自由にさせてくれていました。兄は科学教室に参加し数学やゲームが得意で、新卒で鉄道会社に就職しました。妹は柔道・そろばんを続け、体力と数学を活かしてエンジニアとなりました。それぞれ性格も強みも違うんだということを、肌身に感じて育ちました

私は水泳・書道・英語を数年続けて、中でも英語は英会話教室が楽しく、小学5年生から「NHKラジオ基礎英語」を母から勧めてもらいハマりました。ラジオ英会話はプログラムを変えながら10年続けて、生活の一部になっていました。おかげで英語力が身についたことは本当にありがたかったです。今はコロナ禍で韓国ドラマを見て「韓国語ができるようになりたい!」と思い、アプリで韓国語学習を進めています。

教育に関わるようになったきっかけは何ですか?

山田:前述した学習の場・学習そのものの可能性への興味に加え、もともと教えることが好きでした。小中学校で友達から質問されて教えて「わかった!」と笑顔をみせてもらうと、本当に嬉しい気持ちになりました。

ただ大学受験では英語を活用して国際協力や国際交流に携わりたいと思っていて、教育学部を進路に選ぶことはしませんでした。当時進学した東京都立大学人文学部では、2年次に進路振り分けの制度があり、1年次に社会学や心理学・語学などを汎用的に学んだ後で専攻を決めるタイミングがありました。1年生から国際交流のボランティアに関わりながら進路について悩んでいた中で「ユニセフ子ども白書」を読む機会があり、その時の白書のテーマが「教育」でした。

進路選択に関して、VUCAの時代を背景に企業の採用基準なども変化しています。詳しくは下記ブログから読めます。


日本では皆文字が読めることが当たり前で識字率など話題にもならないのに、発展途上国では識字率が4割に満たない国があることや、通学や高等教育に関する教育機会の様子、教育によって様々な機会が拓かれることなどが書かれている白書を読み進むにつれて、教育を学問として学ぶことに惹かれ、教育学専攻に進みました。

教育学専攻では1学年8-15人の少数で、教職課程を取得する人も私の学年では2人のみでした。教育心理学や教育社会学のゼミに属して学びを深めていきました。ゼミも少人数で教授・先輩との距離も近く、洋書や海外論文の輪読・フィールドワークなど楽しく学べて有意義な学生生活でした。

IT x 教育~デジタルで個に合った教育を:IT企業・塾での経験

最初の職業が教育ではなくIT業界だったのは理由があるのでしょうか?

山田:年代が知れてしまいますが(笑)、私が大学入学する時に携帯電話が普及し始め、授業の課題などもパソコン・メールで作成・提出するようになりました。私自身が小~高校まで受けてきた教育はチョーク・トーク・テキストの「アナログ」でしたが、デジタルの時代になる、もうデジタルの時代は来ていると思い、一般企業の働き方や企業内教育・研修に関心を持ちました。今後は「IT x 教育」でデータや検索を活用した教育や、デジタルを活用した個に応じた教育が進むと考えていました。

そこで、新卒総合職としてIT企業に入社しました。直属の上司と先輩が本当に素晴らしい方で、メンタリングやコーチングが日常的にある職場でした。またマナーや対応の基本、BS/PLの経営数値の見方などもOJTを通じて叩き込まれ、充実した日々を過ごしていました。入社半年後からは研修開発部のお手伝いなどもさせていただく中、2年目から社長室に異動となり業務も少し変化して、やはり子どもの可能性を拓く教育に携わっていたいと思い、塾に転職を決意しました。

その後の塾でのご経験はどのようなものでしたか?

山田:転職先の塾はやる気スイッチグループというところで、生徒が入塾する際と半年ごとに性格診断と学習診断を行い、お子さんに合ったカリキュラムを提案することができました。自分で考えていた「IT x 教育」のあり方が体現されている職場でもありました。生徒や講師の方の頑張りもあり、協働して成績を伸ばすことに注力でき、やりがいがありました。

ただ、勤務していた教室が教育熱がとても高い地域にあり、親に引きずられるようにして塾に来る小中学生や疲労困憊しながら机に向かっている生徒を見ながら、違和感も感じていました。成績や偏差値だけを追うようにして勉強することでいいのか?、学習は「やらされる」ものではなく、主体的にやることで「学ぶ楽しさ」「学ぶ意義」を感じて欲しい、そのような教育とは?と考え始めている自分がいました。

「学ぶ意義」を追求し、海外進学を決めた矢島美尋さんへのインタビューが下記リンク先から読めます。


そのころ妊娠が判明し、上司や同僚に支えられながら産休・育休を経て職場復帰しました。学力を上げることはわかりやすく、またそのことで自信や自己肯定感を育めるものでもあるとも理解しながらも、娘を育てる中で学力や偏差値偏重の教育への疑問がぬぐえなくなっていきました

ある日、小学2年生の生徒が「僕はバカだから。勉強しても頭に入らない」と泣きながら私に駆け寄ってきました。「練習すればできるようになるよ、一緒に練習しよう、勉強しよう」と声をかけつつも、学力一辺倒のものさしが子どもを生きにくくさせているのではないかと、頭を殴られたような気持ちになりました。

今後のあるべき教育の姿と自分自身のキャリアの両方を模索する中で出会ったのが、前職 Teach For Japan 創業者の松田悠介さんの著書『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』でした。

興味と得意に寄り添い、子どもを伸ばす:Teach For Japanでの経験

ー教育系NPOであるTeach For Japan(TFJ)ではどのような活動をされましたか?

山田:TFJは「教室から世界を変える」をスローガンに、独自に選考した人材に研修を行った上で教師として2年間学校に配置する「フェローシップ・プログラム」を運営しています。松田さんの本を読んで、教員をはじめとする周りの大人が、子どもをみるものさしを「学力だけ」にしなければ、もっと子どもはイキイキと生きられるのではないかという切迫した想いでTFJに連絡しました。

その時TFJに出向していたTeach For Allの職員と面談を行い、ボランティアとして半年業務に携わらせていただいたあと、職員として入職しました。

TFJでは主に研修開発に携わりながら、フェロー採用基準の策定や資金調達・行政連携まで様々な業務をさせていただきました。フェローの研修開発の際に心を砕いたのは「子ども理解」のコンテンツです。学力だけでないアプローチのために、子どもを様々な視点から理解し伸ばしていく方策を、国内外の事例をリサーチし研修に活用しました。国内の素晴らしい実践家による研修をはじめ、Teach For All の特別支援に携わる職員による研修や、教員自身の振り返りに使えるルーブリックを取り入れるなど、日本の良い実践と60ヶ国にのぼる Teach For All ネットワークの事例や実践を活用できたのは、かけがえのない経験でした。

また Teach For America が開発した「Teaching As Leadership」のコンセプトに触れ、マインドセットの重要性にも気付かされました。フェローシップ・プログラムにおける研修では「教えること・教師であることはリーダーシップを発揮することだ」というマインドセットの醸成に取り組みました。

リーダーシップはいわゆる「リーダーである」ということだけでなく「主体的に選択して行動する」ということ。自分の強みを活かすことや相手に応じてフォロワーとなることも含みます。そのようなマインドセットを自分も持ち、フェローの先生方にも持っていただくことに、尽力し駆け抜けた7年間でした。

イキイキすることは何ですか?と問い続け、チャレンジする

ーKatsuiku Academyに参画されたのはなぜですか?

山田:2015年夏に、TFJでライキさん・カズさん(スタッフの町田・下島)にフェロー対象の研修を実施していただきました。そのときのワークショップが「体を使って気づく・腑に落ちる」もので、今まで私が慣れ親しんできた「言葉を使う・頭を使う」こととまったく違ってとても面白かったのです。自ら動いてマインドセットを醸成する、この教育はすごい!!と衝撃を受けました。

いつかご一緒できることがあればと思っていた中、一昨年に友人が Katsuiku Academy がスタッフを募集していることを私に伝えてくれ、面接を経て参画しました。

面接時からスタッフになった今でも、Katsuiku Academyでは「あなたがイキイキすることは何ですか」「何に課題を感じていますか」と問われます。自分軸を持つことを本当に大事にし、フィードバックや振り返りを定期的に行っています。

これは良い!と思い、娘とも定期的に振り返りをし、自分が何を感じ何を学んだのかを言語化し共有するようになりました。それによってお互いが大切にしていることに気づけ、励ましサポートすることができるのを感じています。まさに学力だけでない子どもの見方をアップデートし、試行錯誤しています。

成長を促すフィードバックとは?その良い方法とタイミングについて下記から詳しく読めます。

これからも身の回りや研修・キャンプを通じてお会いする方々と、イキイキ生きられる教育と社会を創造するために、協働していこうと思います。

ー最後に中高生の方に向けて一言お願いいたします。

山田: 「あなたにはあなたの価値があって、それは誰にも否定できないもの。」母が小学生の私にくれた言葉でした。学力はわかりやすいけれど、学力だけが自分を測るものさしではないので、自分の心の赴くことにチャレンジしてみてほしいと思います。

実は私が中高のときとてもしたかったことで、そして今でもできていないことがあります。留学です。英語が得意で、海外で学んで・暮らしてみたかった。しかし服部くん事件 (ハロウィーンの日に ”Freeze!(止まれ!)” が聞き取れず日本人留学生が射殺された事件) を理由に、親の猛烈な反対にあいました。いま親の立場になって娘の命を考えた時に、反対されたことに納得しています。ただ、私はまだ諦めていません(笑) !

チャレンジはいつからでも、いったん挫折しても、いつかのタイミングでもできるものです。私は数年後、家族と一緒に留学する未来を描きつつ、仕事に子育てに邁進しています。いまできること・未来にできることを考えながら、一緒にチャレンジし続けましょう。

■ 参考リソース

・いじめと君 – 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/topics/word/%E3%81%84%E3%81%98%E3%82%81%E3%81%A8%E5%90%9B.html

・おうちで英語学習2021 – NHKラジオ
https://www2.nhk.or.jp/gogaku/homestudy2021/

・Duolingo – 韓国語学習に使っているアプリ。英語をはじめ23カ国の語学学習が可能。ゲーミフィケーションの工夫がふんだんにあり継続学習しやすいとのことです
https://www.duolingo.com/

・ユニセフ世界子ども白書
https://www.unicef.or.jp/library/sowc/archive.html

・Teach For Japan
https://teachforjapan.org/

・ミドルリーダー先生必見!「今ドキ」新人の育て方 – Teaching As LeadershipをはじめとしたTFJの研修に関して山田さんが寄稿した記事
https://www.meijitosho.co.jp/eduzine/opinion/?id=20180270