自分は何者なのだろうか?
自分ってこのままでもいいのか?

進学、受験や就職・転職活動などの人生の分岐点でこのような漠然とした大きな問いを抱えたことがある方も多いのではないでしょうか。

今回の記事ではアイデンティティという概念を紐解いていきたいと思います。また上記の質問とも向き合う具体的な方法も紹介していきます。

アイデンティティとは?(Identity)

アイデンティティとは英単語のIdentityという言葉からきています。日本語訳すると「同一性」や「本人であること」と訳されます。

活用される分野において言葉の意味合いが多少変わりますが、今回の記事では心理学や社会学においてのアイデンティティに注目します。

心理学や社会学でアイデンティティとは「自己同一性」という言葉が用いられます。自己同一性とは状況や環境に限らず、「自分は自分である」という自らの認識です。

アイデンティティの提唱者のエリクソン氏

アイデンティティは米国の発達心理学者のエリク・ホーンブルガー・エリクソン(Erik Homburger Erikson)が提唱した概念です。

イェール大学やハーバード大学でも教員を務めた発達心理学者のエリクソン氏は幼児の心理の研究から始め、より幅広い年代の心理的課題に取り組んでいきました。

エリクソンの8つの発達段階と心理的課題

エリクソン氏は自我発達を8つの段階に区分し、それぞれの段階において生じる心理的課題について一つの理論としてまとめていきました。

エリクソンの8つの心理段階

発達段階

時期

心理社会的危機(段階別の発達課題)

発達段階1

乳児期(infancy)

信頼感 vs 不信感

発達段階3

幼児前期(early childhood)

自主性 vs 羞恥心

発達段階3

幼児後期(play age)

自発性 vs 罪悪感

発達段階4

学童期(school age)

勤勉性 vs 劣等感

発達段階5

思春期(adolescence)

アイデンティティ vs

アイデンティティの混乱

発達段階6

初期成人期(young adult)

親密性 vs 孤立・孤独

発達段階7

壮年期(adulthood)

生殖 vs 停滞感

発達段階8

老年期(mature age)

自己統合 vs 絶望

 

自分とは何者なのか、また世界との関係性についてそれぞれの8つのステージにおいて考え続けるエリクソンの心理社会的発達理論ではアイデンティティの形成についても触れています。

エリクソン氏はアイデンティティに対して明確な定義をしておらず、彼自身もアイデンティティを多角的なものであり、また一つの定義におさまらない動的なものであると考えていたと言われています。

アイデンティティという概念と紐付けて、アイデンティティ危機(Identity crisis)という言葉を広めたのもエリクソン氏だと言われています。

アイデンティティ危機:Identity crisis

エリクソン氏が広めた考えでアイデンティティ危機(Identity crisis)という単語があります。これは彼が考えた8つの自我発達の段階で特に思春期(12-18歳)に訪れると言われています。

親との関わり方で形成される幼児後期(1歳半-5歳)や地域学校との関係性で出てくる学童期(5-12歳)の次にくるのが思春期です。

自分とは何者なのか?人は生まれてから関わっていく人たちが増える中で世界が広がっていき、この時期に至るまでにたくさんのアイデンティティを形成してきています。

ただ、この時期はこれまでに形成してきたアイデンティティでは物足りなく感じます。

これ以前の段階でもそれぞれにおいての「危機」は存在するのですが、子どもから大人へと変わっていくこの時期では特に自分自身の再定義が行われる時期となります。

今までよりも社会のことが分かってきており、客観的に自分のことを見つめることができるからこそ、自分の長所や短所などが見えはじめてきます。

自分らしさとは何なのか?自分の生きがいは何なのか?など自分を確立して生きていくために考える時期となり、理想的にはアイデンティティを確立し、自分の人生の指針を見つける期間となります。

ただ、アイデンティティを確立できないままでいると、自信を失い、自己嫌悪感や無力感に陥り、自分自身で物事を主体的に選択することができなくなります。自分らしさや自己の確立ができないことをアイデンティティ危機状態といいます。

この時期が大きな分岐点となる理由としては、「今まで形成してきた自分」と「社会から期待されている、なるべき今後の自分」との和解が求められるからです。

例えば、小さい頃に描いていたプロ野球選手の夢やケーキ屋さんなどの夢よりも自分自身の特徴や社会に求められていることを考えた上で、より具体的な将来像を描き始めるのもこの時期です。

世界や社会との関係性において、個人としての在り方を再確立する必要性に迫られる時期です。

エリクソン氏はこの時期に関して、この年代の人たちには思春期を通して自分自身を見つけ、再定義するための時間が必要だと社会が認識しているため、その猶予が与えられているとしています。その時期を彼は「心理社会的モラトリアム」と定義しています。

これ以前の段階でもそれぞれにおいての「危機」は存在するのですが、子どもから大人へと変わっていくこの時期では特に自分自身の再定義が行われる時期となります。

モラトリアム:自分自身を見つけるための時間

エリクソン氏が定義しているモラトリアムとは心理的に十分な時間と空間が与えられている状態だとしています。

十分な時間と空間を通して個人が自由に実験や探求することが可能となります。

その実験や探究を通して、自分とは何者なのかという問いに対してより深い理解を持ってより確立したアイデンティティが形成されます。

例えば、米国では高校卒業後、大学入学を一年程遅らせて「ギャップイヤー」をとることがあります。入学許可が下りた後に半年から2年間の入学延期を申請し、旅行やインターンシップなどを通じて自分と向き合ったり、今まで経験したことのないことにチャレンジしたりします。ギャップイヤーの間に、アイデンティティを確立していくわけです。

モラトリアムの時間に関してエリクソン氏は必ずしも年齢で区切られるものではないとしています。

思春期として12-19歳が挙げられていますが、これはあくまでも目安であり、個人によってそれぞれがアイデンティティをより強く形成するには時間がかかるとも考えています。例えば、エリクソン氏がガンジー氏についてまとめた本では、ガンジー氏はこの危機を乗り越えたのが30歳あたりだとしています。

自分のアイデンティティを考える具体的な方法

自分とは何者なのか、自らのアイデンティティと向き合うためにはエリクソン氏が提唱しているようにいろいろなことを試したり、探求する時間と機会がとても重要になってきます。

様々なことに挑戦しながら自分自身と向き合い自分とは何者なのかについて考えるためにいくつかの具体的な方法を紹介します。

自分の行動を振り返る

自分のことを知るためには実験や探求が大切だと言及しましたが、ただ単に行動し続けるだけでは自分自身のことをより深く知ることは難しくなってしまいます。

探求や実験をさらに深めてくれるのが自分自身の言動や傾向を客観的に捉える行動です。

これを振り返り、英語ではリフレクション(reflection)と呼んでいます。

マネージメント研究の第一人者のピーター・ドラッカー氏も述べているように振り返りを行うことによってより効果的な行動が見えてきます。

「効果的な行動のあとには静かな振り返りを行おう。その静かな振り返りからより効果的な行動がうまれる」

“Follow effective action with quiet reflection. From the quiet reflection will come even more effective action.” – Peter Drucker

単なる行動の改善などに限らず、振り返ることによってなぜ自分はそのような行動をとるのか、自分の中で動いている感情などに目を向けることで自分自身のことをより深く理解することができます。

自分の価値観を知る

自らの言動や行動を振り返ることによって、自らの価値観についても知ることができます。

どのような状況で感情が動くのか?

何に対して怒りを感じるのか?

何に対して喜びを感じるのか?

これらを振り返っていく中で自分が大切にしていることが見えてきます。

自分が大切にしたいこと、すなわち自らの価値観がわかることによって自分の今後の人としてのあり方や今後のふるまいが変わってくるかもしれません。

例えば、誠実さを大切にしたいと思っている自分がいたとした場合、その価値観を自分自身や周りの人たちに体現するにはどのような行動が必要になってくるのかを次のステップとして考えることができます。

場合によっては、自分が大切にしていることと現在の言動が異なってしまっていることもあるかもしれません。

これに対して落胆する必要はなく、むしろ大きな機会として捉えてみてください。

振り返りや価値観を探求することで見えてきた乖離などを一致させていき、求めている自分の価値観を体現し続けることで、自分のアイデンティティを自ら形成していくことができます。

アイデンティティという抽象的な概念についてその背景を含めて、紐解いてきました。

エリクソン氏が言及しているようにアイデンティティは動的で、自己認識は変化するため、それぞれが生涯をかけて考えていく大きなテーマなのかもしれません。

ぜひ皆様も日々の言動を通して自分とは何者なのか?またそれを体現できているのかなどを振り返ってみてはいかがでしょうか。