「ありがとう」という言葉には不思議な力があるのかもしれません。

お礼を言ってみたり、言われたりすることで温かい気持ちで1日を過ごせた経験はありませんか?

仲の良い友達から伝えられた「ありがとう」

仕事のお客様から頂いた「ありがとう」

大切な家族に言われた「ありがとう」

「感謝」がどのように人々の生活に影響を与えているのかという研究が世界中で行われています。まだまだ研究が浅い段階ではありますが健康状態や幸福感と感謝についての研究を紐解きながら、感謝について科学的な観点から私たちの生活との関わりを見ていきます。

もくじ
1. 感謝とは?
2. 感謝は遺伝的に仕組まれている
3. 感謝が個人に与える影響
4. 感謝が社会に与える影響
5. 感謝する力を上げる具体的な方法
まとめ

1.感謝とは?感謝の気持ち

感謝を明確に定義するのは意外と難しい概念とも言われています。

感謝を研究する上で研究者たちはいくつかの定義を活用しています。感謝に関して多くの研究を行っている米国のEmmons教授とMcCullough教授は感謝は2つのステップを含めたプロセスであると定義しています。

1、何かしらポジティブな結果を入手したことを認識する

2、1のポジティブな結果が外的な要因によって引き起こされたことを認識する

多くの場合は外的要因が自分の周りにいる他者になりますが、外的要因は人に限ったことではなく、その対象は周りの環境や自然、もしくは神に対しての感謝の気持ちも含まれています。

また研究者によっては感謝を3つのカテゴリーで考えている方もいます。

1:性質としての感謝:各個人が性質として持っている感謝の度合い
2:気分としての感謝:各個人の中で日々変動する感謝
3:感情としての感謝:各個人が感謝したり、されたりした際に感じる気持ちとしての感謝

現在の多くの研究は性質としての感謝と感情としての感謝に焦点を当てています。

2. 感謝は遺伝的に仕組まれている

感謝するというのは人類の文化的な要素だけではなく、遺伝的な要素があり、進化の過程で遺伝子レベルで組み込まれているという考え方があります。

魚や鳥や哺乳類など多様な生物でも「感謝の行動」と見受けられる事例が存在します。科学的には「利他的行動」と言われる行動ですが、自分の仲間を助けるために自らの命や損失を顧みずに行う行動のことを指します。

この行動を行うことで手伝った相手が将来自分のことを助けてくれる可能性が高まると言われており、助けてもらった側が行動を通して恩返しすることを「感謝の行動」と捉える科学者も少なくありません。

例えば、チンパンジーを対象にした研究では過去に毛繕いしてもらったことがあったり、手伝ってもらったことがある相手に対しては他の関わりがない個体に比べて食べ物を共有する可能性が高いことが見受けられました。

動物の利他的行動や人がなぜ助け合うのかについて詳細が気になる方はこちらをご覧ください。

では人の場合、感謝の行動はどのような影響を与えるのでしょうか。

3. 感謝が個人に与える影響

感謝は個人にとって多くのポジティブな効用があるかもしれないことが研究結果で発表されています。

心身両面の健康状態の向上や人生に対する満足感や幸福感への影響も見受けられます。

感謝を意識することで、健康的な習慣や健康状態に好影響を与えられる可能性があるかもしれません。

米国のEmmons教授とMcCullough教授が行った研究では大学生を対象に一つのグループには毎週自分が感謝していることを5つ書き出すことを10週間続けてもらいました。一方でもう一つのグループには5つの日々の出来事や5つの大変だった出来事を書いてもらいました。

感謝を毎週書き留めたグループは他のグループに比べて、運動を行っている時間が多くなる傾向があり、他のグループに比べて身体的に不満を持っていることが少ないことが見受けられました。*1

また人生に対する満足度や幸福感という観点で、12,439人の米国人を対象にした研究ではそれぞれが持ち合わせている性質と人生の満足度の関連性を見ていきました。人生に対する満足度が高い人は感謝する性質も高いレベルで持っていることが見られました。*2

また小中学生を対象にした研究でも感謝することでポジティブな影響が見受けられました。

7歳から11歳を対象にした研究では、今日学校で自分が感謝していることを2-3個書くという課題を行った生徒は他の課題が与えられた生徒に比べて、感謝の気持ちが高まっており、学校に対するポジティブな気持ち、自分が学校コミュニティに属しているという気持ちが高まったという結果が出ています。*3

また感謝の気持ちを持つことと利他的行動、つまり他の誰かのためになる行動を行う傾向は関連性があることが研究でも見受けられました。若者(10-14歳)を4年間追った研究では、感謝の気持ちが高まることで周りのためになる利他的行動を行う傾向が高まることが見受けられ、またその逆に利他的行動を行うことで感謝の気持ちも高まるという相互的に影響を与えていることがわかりました。*4

感謝することでお互いを助け合う行動も増え、人生に対する満足度も上がるなど個人にとってのポジティブな影響があると主張する研究もあります。ただまだ研究結果が少ないため今後もさらなる研究が求められています。

感謝を含めた振り返りとその効果的なやり方については、下記のブログを確認ください。

4. 感謝が社会に与える影響

冒頭でも記載した通り、感謝することは外的要因を認識することでもあるため、個人だけではなく社会全体にも影響を及ぼす可能性があります。

感謝と利他的な行動の関連性の研究からもわかる通り、感謝する気持ちが高まることで周りの人を助けてみようという傾向が高まります。

皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか。

優しい行為が感謝されている場面をみて、自分自身が温かい気持ちになり、自分も困っている人を見たら助けてみよう!と思ったことはないでしょうか。

幸福学の先駆者である慶應義塾大学の前野教授は長続きする幸せには4つの因子があると発表しています。「自己実現と成長」、「前向きと楽観」、「独立とマイペース」、「つながりと感謝」の4つの因子ですが、「つながりと感謝」では人を喜ばせること、愛情に満ちた関係や親切な行為が持続的な幸福にとって大事な要因であると話しています。

自己実現と成長に必要なマインドセットに関して詳しく知りたい方は下記のブログをご参照ください。

米国のAlgoe准教授が発表している感謝のFind-Remind-and-bind理論も社会と個人の繋がりについて言及しています。

彼女は研究を通して、人がお互いに大切な関係性を築く上では感謝はとても重要な役割を果たしていると論じています。

① Find:感謝の行動をしている人を見ることで大切な関係性を築きたいと思える候補者をFindする(見つける)ことができます。
② Remind:感謝を通して、関係をすでに築いている相手との関係性がどれだけ自分にとって大切なものなのかをRemindする(思い出させる)ことができます。
③ Bind:感謝することやされることを通して、関係性を築いている仲間のことをより大切にしたいという思いが芽生え、よりbindする(繋がりを強くする)ことができます。

感謝は個人としてポジティブな影響を与えるだけではなく、人との繋がりと深い関係があることが感じられます。

5. 感謝する力を上げる具体的な方法

感謝することがどのような影響を与えるのかを研究を通して見てきましたが、個人として感謝する力を上げる方法をご紹介します。

ポジティブ心理学の父として有名なMartin Seligman教授は2005年に感謝する力、ポジティブな傾向を高めるために研究を通して下記のアクティビティを提案しています。

「Three Good Things:3つのいいこと」と題したこのアクティビティでは最低一週間を目標として、毎日その日に起きた3つのいいことを書き留めていきます。頭の中で思い浮かべるだけではなく、書き留めることが重要です。

ただの出来事として3つのことを書くのではなく、なぜそれらの出来事が起きたのかなどの詳細までを書くことが重要です。

気になっている方は下記のステップを活用してください。

1:出来事に対してタイトルをつけて書き留める。例「同僚から頑張っていた仕事を褒められた」
2:その出来事の詳細を可能な限り書き留める。どのような状況・環境だったのか?自分や相手がとった詳細の言動は?
3:この出来事が起きた時にどのような気持ちになったのかを書き留める。また出来事が起きて時間が経ったあとにもどんな気持ちになったのか書き留める。
4:この出来事がなぜ起きたのか?その理由を考えて書き留める。
5:文法や文章としての正しさは考えずにとりあえずなるべく詳細を書くことに集中してみてください。
6:もしネガティブな面に焦点を当ててしまっている自分に気づいたら一旦止めて、よかった側面やその良かった出来事によって引き起こされたポジティブな気持ちに焦点を戻してください。

自分に起こったいいことに焦点を当てることやその要因までを考えることで周りへの感謝の気持ちが高まります。

人によってはこのアクティビティを行うのが難しいと感じる方もいるかもしれません。日々の練習を重ねることでより自然に自分に起こったいいことやそれらの要因を紐解くスキルが上がっていくことも実感できると思います。

ポジティブ心理学に関するTed Talkが2000万回以上再生されているShawn Achorさんが話している通り、このようなアクティビティを行うことで、自分の脳の回路を再構築することが可能です。世の中のネガティブな部分にばかり焦点を当てるのではなく、感謝できることであったり、ポジティブな部分に気付ける回路を強くすることで、自分の周りに起きているポジティブな出来事を探す力が強まっていきます。

ネガティブなことばかりに目がいってしまうと世の中は危ない、面白くない、優しくない場所になってしまいますが、ポジティブな面にも目を向けられたらより面白い、優しい世界が見えてくるかもしれません。あなたの現実を作っているのはあなたの周りの出来事だけではなく、どのような色眼鏡をつけてあなたが世の中を見渡しているのかが大きな要因なのかもしれません。

不安な感情の多くは実は取り越し苦労だという研究もありますので、気になる方は下記のブログをご覧ください。

感謝の力を活用して、よりポジティブな出来事を見つける力を育んでみるのはいかがでしょうか。

まとめ

今回の記事では感謝の力に関して研究や理論を紐解きながら紹介してきました。個人としての人生の満足度の向上や感謝と利他的行動の関連性など感謝が引き起こすポジティブな結果が研究では見受けられます。

まだまだ研究結果の数が少なく、発展途上の研究テーマですが、今後もより深い研究が必要とされています。

ただ、さらなる研究結果を待たなくても、感謝されたり、感謝した時のポジティブな感情を実感したことがある方も多いのではないでしょうか。

ぜひこの記事を読んでいただいた皆さんが素敵な1日を過ごされることを願って、記事を読んでいただいたことに感謝をお伝えできればと思います!

「ありがとうございました!皆さんの1日が素敵な日でありますように」

◆参考リソース:

*1:Emmons, R. A., & McCullough, M. E. (2003). Counting blessings versus burdens: An experimental investigation of gratitude and subjective well-being in daily life. Journal of Personality and Social Psychology, 84(2), 377–389. https://doi.org/10.1037/0022-3514.84.2.377

*2:Peterson, C., Ruch, W., Beermann, U., Park, N., & Seligman, M. E. P. (2007). Strengths of character, orientations to happiness, and life satisfaction. The Journal of Positive Psychology, 2(3), 149–156. https://doi.org/10.1080/17439760701228938

*3:Diebel, T., Woodcock, C., Cooper, C., & Brignell, C. (2016). Establishing the effectiveness of a gratitude diary intervention on children’s sense of school belonging. Educational and Child Psychology, 33(2), 117–129.

*4:Bono, G., Froh, J. J., Disabato, D. J., Blalock, D., McKnight, P., & Bausert, S. (2017). Gratitude’s role in adolescent antisocial and prosocial behavior: A 4-year longitudinal investigation. The Journal of Positive Psychology, 9760(December), 1–13. https://doi.org/10.1080/17439760 .2017.1402078