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「目標設定」のコツ:心理学研究とリーダーシップを利用した方法

Setting Goals

新年や仕事・プライベートの区切りで目標を掲げ、行動に活用することは今や普通のこととなっています。

「目標設定 (Goal setting theory) 」の歴史をざっとひもとくと、ハーバード大学卒・メリーランド大学経営学部名誉教授で心理学者のエドウィン・ロック氏(Edwin A. Locke)を中心とするチームが1960年代に研究を開始し、「より具体的で野心的な目標が、簡単でよくある目標よりも、より効果や成長を促すことができる」と発表したところから、現在に至る流れができたと考えられています。

「現代経営学の祖」と呼ばれるP.F.ドラッカー(Peter Drucker)氏が著書「マネジメント」等で目標管理の手法を説いてから、日本では1990年代に企業経営に多く取り入れられ、そこから自己成長の方法としても広く普及してきました。

今回は、目標設定から実践までのコツについて、読みやすくまとめます。ぜひ活用してみてください。

もくじ
1: 目標設定のコツ:目標設定をする意味・重要性・効果的な方法とは?
  1-1: 目標設定理論研究の現在までの結論
  1-2: 新「SMART」の法則:自分にとって本当に意味のある目標にする
2: 目標実践のコツ:達成マインドとプランニング・書くことの活用
  2-1: 達成マインドとは?:「半年半歩」箱根駅伝で活躍する青学大・原晋監督の考え方
  2-2: if thenプランニングでタイミングや息抜きも計画し、実行率を向上させる
  2-3: 潜在意識・プライミング効果を活用して「目標を書き・持ち歩くこと」をしよう
3: おわりに:マット・カッツ氏の30日間チャレンジ

1.目標設定のコツ:目標設定をする意味・重要性・効果的な方法とは?

ロック教授らのグループは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの「目的が行動を引き起こす可能性がある」という言説から、目標が人間の活動に与える影響の調査を始めました。ロック教授は1968年に「タスクの動機付けとインセンティブの理論に向けて」という論文を発表し、そこで設定する目標について

具体的であること:Specific
期限があること:Time constrained
困難であること:Difficult

というポイントがあることを挙げました。

ロック教授の「目標設定理論」の柱は、下記4点であると言われています。

1. 困難で具体的な目標は、簡単な目標や目標を持たない場合、または「人々に最善を尽くすように促す」などの抽象的な目標設定よりも、大幅に高い成果につながる
2. これは「動機づけの理論でもあり、目標へのコミットメントがあることを考えると、能力を一定に保ち、目標が高いほど、高い成果となる。
3. 賞賛、フィードバック、または意思決定への人々の関与などの変数は、具体的で困難な目標の設定とコミットメントにつながる範囲でのみ、行動に影響を与えうる。
4. 目標設定は、動機付けの3つのメカニズム、つまり①選択、②努力、③持続性に影響を与えることに加え、認知的利益ももたらす可能性がある。つまり、目標を達成する方法を発見するための選択、努力、および持続性に影響を与える可能性がある。

動機づけ理論の大切なポイントである「内的動機づけ」については、ぜひ下記のブログを確認してみてください。

1-1:目標設定理論研究の現在までの結論

ロック教授らは1960年半ばから現在にわたるまで30年あまり研究を続けています。個人が目標を受け入れ、それを達成する能力を持ち矛盾する目標を持っていない限り目標の難易度とタスクの成果の間には正の相関関係があることを、研究によって示しました。

また今では、設定する目標のポイントについて上記に加えて

目標を数値化すること … たとえば「生産性を向上させる」でなく「生産性を50%向上させる」というように設定する
目標を定義するだけでなく、目標を達成するために完了する必要のあるタスクを定義するなどして列挙しておくこと … たとえばタスクリストを作る

の2点も記されています。

ロック教授は動機づけと目標設定について、下記のようにも語っています。

「100%成し遂げられると確信をもてないことに取り組むことは、自分のモチベーションを高める良い方法なのです。挑戦的な目標に取り組むことで、頑張れたり、スキルを高められたり、ポジティブなフィードバックや達成を得られたりする訳です。またマネジャーは「一見不可能な」目標を活用して、創造力を高めることもできます。」

挑戦的な目標に関して興味がある方は、Googleでも活用されている「ムーンショット目標」のブログもご覧ください。

1-2:新「SMART」の法則:自分にとって本当に意味のある目標にする

1970年に米国の心理学研究のなかで生まれた神経言語プログラミング(Neuro Linguistic Programming : NLP)は、脳科学も活用し現在セラピースキルとして体系化されています。NLPの中で開発された以下の目標設定に関する「SMARTの法則」は皆さんも聞いたことがあるかもしれません。

目標設定におけるSMARTの法則
Specific:具体的で
Measurable:測定可能かつ
Achievable:達成可能で
Realistic:現実的な
Time-bound:期限付きの

また現在ではこれを発展させ、上記に1語程度ずつ加えて、10または11つの単語からなる「新・SMARTの法則」が活用されるようになっています。周囲への影響を鑑みた俯瞰的・包括的な視点や、目標達成の意味や意義を見出す内的動機づけに関わる視点が加わっていますので、ぜひ目標設定に活用してはいかがでしょうか。

新・SMARTの法則
Specific:具体的で、Simple:簡潔な
Measurable:測定可能かつ、Meaningful to you:自分にとって意義のある
Achievable:達成可能で、As if now:現在進行形のような /
  All areas of your life:自らの人生すべての領域に適応するような
Realistic:現実的な、Responsible:自分の責任の範囲で
Time-bound:期限付きの、Toward what you want:自らが望むものに向かうような

2:目標実践のコツ:達成マインドとプランニング・書くことの活用

目標設定については、新・SMARTの法則などを活用した目標のリストとタスクのリストを用意するのが効果的であることが理解できたと思います。ただ、目標は設定しただけでは達成されることはありません。目標を設定した後の実践のポイントについても下述します。

2-1:達成マインドとは?:「半年半歩」箱根駅伝で活躍する青学大・原晋監督の考え方

2015年から2018年の間、箱根駅伝4連覇を成し遂げた青山学院大学陸上競技部の原晋監督。常勝の理由を聞かれた2018年には、下記のコメントをされました。

「ある年に猛暑でビールがすごく売れても、次の年寒かったら売れるわけがない。にもかかわらず、目標を前年から上げるのはダメダメ管理職。陸上も同じ。目標を常に自分の最高点、他人と比較して決めがちだけどそうじゃない。条件、調子など勘案し、自分の位置を理解し、半歩先に置く。ビジネスストーリーをスポーツに置き換えてやっているだけです」

自己理解と現在の状況に配慮した上で、半年で今の自分の「半歩先」を達成する目標を立て、淡々とこなすことを繰り返して達成・成功をたぐり寄せる。
監督就任5年で青学大を33年ぶりに箱根駅伝に出場させ、10年目に総合優勝を成し遂げそこから4連覇した原監督のリーダーシップと目標設定・達成に向けての大切なマインドが、コメントから読み取れます。

自分のことを知るのはセルフマネジメントでも重要な点です。セルフマネジメント についてもっと知りたい方はこちらのブログをご覧ください。

2-2:「if thenプランニング」でタイミングや息抜きも計画し、実行率を向上させる

コロンビア大学ビジネススクールのモチベーション・サイエンス・センター副所長を務める社会心理学者のハイディ・グラント(Heidi Grant)博士は、目標達成のための手法の1つとして「if thenプランニング」を推奨しています。これは「もしXしたら、Yをする」とシンプルなタスクを決めておくというもの。

グラント博士が挙げているif thenプランニングの例:

脳が反応しやすいよう時間・場所・状況をできる限り具体的に設定しておくことで、脳が「XならばYを実行する」という命令に意識を向けることができるといいます。

実際にグラント博士は「定期的な運動をする」という目標を持った調査対象の半数に if thenプランニングをさせ、半数にプランニングをさせなかったところ、結果は

となったそうです。

if thenプランニングを活用すると、「やりたいと思うけれど実行に移せない」という状況が続くことを圧倒的に回避できます。またifに息抜きやチートデイ(この日だけは好きなことをして良い、休んで良いなど)を入れておくことで、長期の目標等に対しても活用できます。

2-3:潜在意識・プライミング効果を活用して「目標を書き・持ち歩くこと」をしよう

グラント博士はif thenプランニングが効果的な理由として、「不測の事態に対する行動のガイド」に脳が反応・認識しやすいことを挙げています。人が一度if thenプランニングを作ると、無意識下で「ifの状況を探す」ことが始まり、たとえ他のことで忙しくても、ifの状況を見つけると”行動の時”だと教えてくれると言います。

人間の「意志の力」である顕在意識は3%と言われています。残り97%の潜在意識・無意識の活用としては心理学で「プライミング効果」もあり、これは目標を紙に書くことの効果を証明するものでもあります。

プライミング効果」とは、Prime(1次情報)を与えることで、人がその情報をもとに行動を起こすというものです。漫画などでもよく見る「xx大学合格!」や目標を書いた紙やキャンパス・なりたい姿の写真を部屋の壁に貼ることなどで、プライミングを行うことができるとされています。
プライミング効果を活用し目標を目につくようにすることで、無意識でも行動が目標達成に向かうようになり、また自分が何のために集中すべきか忘れなくなります。

3: おわりに:マット・カッツ氏の30日間チャレンジ

ここまで目標設定・達成のコツについて書いてきましたが、一体何をしようかな?と思っている人もいるかもしれません。最後にTED talkで話題となったマット・カッツ(Matthew Cutts)氏の「30日間チャレンジ」について紹介します。

マット・カッツ氏は米国デジタルサービス省のソフトウェア・エンジニアで、以前はGoogle社でセーフサーチやスパムチームのリーダーをしていました。2011年のTED talkでカッツ氏は「30日で、新しい習慣を身につけること・今までの習慣を断つことができる」と主張しました。また30日間チャレンジを通して、日々の出来事が印象的に記憶されること、自分に対する自信がつくことを挙げています。

より良い時間・1年にするために、私たち1人ひとり何かできるはず。カッツ氏はTEDでこう語りかけました。

ずっとするつもりでいたこと、したいと思っていたことなのに、なかなかやれないでいることはありませんか? 試しに30日間だけやってみては?

◆参考リソース:

・Heroes of Employee Engagement: No.4 Edwin A. Locke – Peacon.comhttps://peakon.com/us/blog/future-work/edwin-locke-goal-setting-theory/

・Goal Setting Part 1 – Coaching with NLP
https://www.coachingwithnlp.co/goal-setting-part-1/

・青学大・原監督「目標は半歩先」/名珍言 指揮官編 – 日刊スポーツhttps://www.nikkansports.com/sports/athletics/news/201812300000125.html

・Nine Things Successful People Do Differently by Heidi Grant Halvorson – Edutopia
https://www.edutopia.org/blog/traits-successful-if-then-heidi-grant-halvorson

・マット・カッツの30日間チャレンジ -TED
https://www.ted.com/talks/matt_cutts_try_something_new_for_30_days?language=ja

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