昨今、不登校や引きこもりの児童生徒が増える中、様々な学校やフリースクールの在り方が模索されています。そこで2回に分けて不登校に関する情報をお届けしたいと思います。

今回は不登校シリーズ第二弾として、不登校特例校である岐阜市立草潤中学校の視察レポートをお届けします。
草潤中学校は、2021年4月に開校し、東海3県では初の公立不登校特例校となりました。非常に先進的な取り組みをされている公立中学校なので、本レポートを是非ご一読ください。

第一弾の記事「顕在化してきた不登校・不登校傾向にある子ども達の実態」はこちらでご確認ください。

もくじ
1. 不登校特例校とは
2.岐阜市立草潤中学校~「ありのままの君を受け入れる」新たな形の学校
3.視察後の感想

1.不登校特例校とは

「不登校特例校」とは、学習指導要領を縮減し、弾力的運用を図ることができる、不登校生の実態に配慮した特別な教育課程をもつ学校のことです。

正式名は「不登校児童生徒を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校」で、文部科学大臣が指定します。構造改革特区での規制緩和の一環として、2004年に東京都八王子市の高尾山学園(不登校児童生徒のための市立小中一貫校)に初めて導入され、2005年に学校教育法施行規則改正で制度化されて全国に広がりました。

不登校特例校の多くは、少人数指導や特色ある教育、個に応じた学習・体験が可能となり、2021年6月時点では、全国で17校(内、公立学校8校、私立学校9校)が指定を受けています。(17校の詳細はこちらをご確認ください。)

特色のある教育を行っているフリースクールに関して気になる方は下記の記事をご覧ください

一般の中学校標準授業時数は、年間で1015時間となっていますが、特例校の中学校の場合、年間で750から770時間ほどで、約2割の時間を削減することもできます。

そのため、不登校の児童・生徒の要望やニーズに合わせたカリキュラムを整えることが可能になっているのです。

例えば以下のような柔軟な対応をとる特例校が多いのが特徴です。

・生徒の習熟度に合わせ、学年の枠を超えたクラス編成をすること
・体験型学習、校外学習、ボランティア活動
・教室に入るのが苦手な子供に適した小グループ指導や個別学習の時間を設けること
・専任教員の増員やスクールカウンセラーを設置すること

Katsuiku Academyは不登校特例校の実態をリサーチするべく、草潤中学校設立の立役者である早川三根夫前・岐阜市教育長にヒアリングをさせていただく機会を得て、草潤中学校に実際に視察に伺わせていただくことができました。

2.岐阜市立草潤中学校~「ありのままの君を受け入れる」新たな形の学校

■東海3県初!公立の不登校特例校が誕生。ユニークな学校方針とは

2021年4月に岐阜市に不登校生徒のための草潤中学校が開校されました。東海三県としては初の公立不登校特例校で、全学年合わせて40名が定員となっています。

説明会には岐阜県内外から222家族、400名以上の方が参加したという事実からも、都会だけではなく、地方においても不登校という問題が徐々に顕在化してきている証拠です。

草潤中学校の方針は非常にユニークです!

「すべての授業はオンラインも併用のため通学してもしなくてもOK」
「担任教師は生徒側の選択制」
「その日の時間割は教師と生徒が相談しながら一緒に決める(義務教育としてはきわめて異例)」
「成績表の形式は生徒・保護者が決める」
「職員室・校長室は生徒に開放する」
「開校時の先生は異動でなく手上げ方式」
「制服や給食はなく、部活や行事もない。」

制服・給食・部活・行事など一般的にはあるものが、草潤中学校にはありません。これらが「ない」ことに関しては、「ない」ことが正しいのではなく、生徒たちが必要だ思った時に自分たちで提案し議論して必要であれば「自分たちで作ろう!」という自主性を尊重しているのです。

また、2021年3月の開校内覧会で京都大学総合博物館准教授、塩瀬隆之氏が行ったスピーチが大きな話題になりました。ご関心のある方はこちらの記事をお読みください。

塩瀬先生のスピーチの中で印象的だったフレーズは、

「重要なのは学びの選択肢がたくさんあること~中略~好きな場所で学ぶことができたり、好きなことを学ぶことができたり、学ぶ内容を選べたり、さらには学びの設計図である「時間割」を先生と一緒につくることができる学校こそが、子どもたちにとって本当によい学校なのではないか、と思うようになりました。」

「子どもたちにあるのは「義務」ではない、学習「権」です。学びたいと考えたときに、学んでいいという権利です。義務を負っているのは大人で、その子どもたちが学びたいと言ったときに、学ぶ方法すべてを提供しなければなりません。」

まさにこのような想いを体現した学校が誕生したのです。

個に応じた指導に興味がある方はこちらの記事をご覧ください

■草潤中学校設立までのヒストリーと校舎や教室名に込められた想い

草潤中学校は、当時教育長であった早川三根夫氏の「不登校児童が学び続けられる学校を作りたい!」という熱い想いから構想がスタートしました。

広がる構想をもとに、早川氏は早速、教育委員会内部に5人体制の準備室を作りました。

さらに、積極的に外部の教育関係者(開校内覧会でスピーチをされた京都大学の塩瀬先生、東京大学の牧野先生、ベネッセ教育総合研究所の谷山所長、カタリバの今村久美さんなど)とディスカッションを行い、本当に作りたい学校がどのようなものなのか、構想を固めていきました。

「不登校になってよかったね!と言える学校」
「不登校の学校でなく、未来の学校だね!」
「学校に合わせなくても、学校が自分に合わせてくれる!」

そういってもらえるような学校を作ろう!と大きなビジョンが出来上がってきました。

草潤中学校の校舎は、2017年3月末に閉校した徹明小学校の校舎を使用しています。リフォーム費用は、約3000万と低価格で実現しており、特に力を入れて改修したのが水回り、トイレでした。

トイレの改修に力を入れた理由は、トイレの汚さが理由で学校に来なくなる子を一人でも減らすためです。実際に伺い、確認すると床が黒の大理石柄になっており、ホテルのような綺麗なトイレでした。

また今回お伺いして特徴的だったのは、生徒の願いをかなえる費用として、個人からの寄付や「ふるさと納税」を活用されていた点でした。応援してくださった方々には、すべてお礼状を書き、内覧会にお招きして、草潤サポーターズに入っていただいたとのことでした。

他には、他校の学校校務員の方や地元の方の協力で、修繕をされたり、手作り感いっぱいの校舎で、地元の市民の方達から応援をされていることが伝わってきました。

各部屋にはその部屋が何に使われているかを示す看板が掲げられているのですが、これは校長自らがデザインし、制作されたとのことでした。名前も学校らしさを出さないように、オリジナルのルーム名になっていました。

・「保健室」→「ヘルスルーム」
・「職員室」→「スタッフルーム」
・「理科室」→「STEM+Art」

選べるコースとカリキュラム

草潤中学校は、定員が40名で、岐阜市内全域から通学が可能となっています。(市立小学校からの入学、市立中学校からの転校が可能)

毎日登校する必要はなく、以下のようにいろんなパターンで学びを進めます。一人1台タブレットが用意され、その時々の状況に応じて柔軟に学び場を持てる設計になっています。

①家庭での学習を基本にして学習を進める生徒
②家庭で学習して、週に数日登校する生徒
③毎日登校する生徒

草潤中学校のHP参照

草潤中学校では朝の会をウォームアップ、帰りの会をクールダウンと呼んでいます。

①、②のスタイルをとる生徒の中には、この10分程度の時間で先生と1対1で話し合えることを楽しみにしている子が多くいます。

草潤中学校の定員は40名なのですが、定員を大幅に上回る申込があったため、急遽在籍校に在学したまま、週1回登校して、50分個別に支援するコースや、週1-2回オンラインで支援するコースを作りました。現在それぞれ約20名がこちらのコースを利用しています。

生徒たちのニーズは様々で、在籍校に仲のいい友達がいるので、転校はしたくないけれど、オンラインで授業を受けたいので、草潤中学校のオンラインコースに通う子などもいます。

担任の先生は生徒が決める

草潤中学校は、40人の生徒に対して、9人の担当教員がいるため、一人一人のケアやサポートが万全の体制でできるようになっています。

大きな特徴の1つが、生徒が担任の先生を自由に選ぶことができる点です。

4月に開校して以降、生徒たちは色々な先生と接する中で自分に合う先生が誰かを見極めます。

5月の半ばに希望を聞いて担任を決めるのですが、出てきた結果は非常に面白いものになりました。個人名で希望を出す子もいれば、「受け持つ生徒の数が少ない先生がいい!」という要望を出す子もいました。

個人の相性よりも、受け持つ数が少なく、自分とじっくりと向き合ってくれる先生がよいという選択をする子も一定数いたのです。

担任の選択は初めての試みでしたが、バランスのよい形で無事に決まりました。(5~6名の生徒の担任になる方もいれば、2名だけの担当になる先生もいます。)

■成績表の形式は生徒が決める

草潤中学校では、学期ごとの定期テストを一斉に実施することがありません。

また成績表の形式は、生徒自身が保護者とも相談して決めるという特徴があります。

40人の生徒には、40通りの頑張り方があるため、それを1つの指標から推し量ることはできないからという理由です。

例えば、読書好きな生徒が、読書をしたことに対して評価をしてほしいという要望があれば、読書を中心とした成績表を作ることを考えています。こちらも担任の先生と相談しながら作っていくことになります。また指導要録の作成は別途行っています。

学ぶ場所は生徒が決める

草潤中学校では登校したとしても、自由に学ぶ場所を選んで学習をすることができます。

授業は全てオンライン配信をされているので、タブレットさえあれば、どこでも学ぶことが可能な仕組みになっています。

教室で学ぶ子もいれば、自習室で学ぶ子もいます。自習室は、パーテーションで区切られており、プライバシーを守りながら学ぶことができます。

図書室には、緑のカーペットや、テント、クッション、ソファーが置かれており、自由にリラックスして過ごすことができます。

他にも、生徒の趣味嗜好に合わせた様々な部屋がありました。視察した際には、ミュージックルームで音楽を聞いていたり、卓球をして遊んでいる子、壁の塗り絵で遊んでいる子など、思い思いに時間を過ごしていました。

■ 「イマここボード」の活用~生徒の在室・状況確認

40人の生徒の所在確認、体調等の確認を行うため、岐阜大学工学部の協力を得て準備したシステムを使用しています。生徒は朝登校すると、写真の機械の前に立ち、登校の登録を行います。

オンラインで授業に参加する生徒は、オンライン上で出席登録を行います。

そしてその後は、生徒たちは自由に場所を選んで学ぶことができるのですが、教員が授業時間は校舎全体を巡回し、生徒一人一人がいまどこにいるのかを把握しています。

生徒は、自分の居場所を自分で決めて「イマここボード」に居所を貼り付けていきます。また、巡回教員が生徒の居場所を確認し、イマここボード修正していくので、他の教員もどこに誰がいるのか把握できる仕組みになっています。

3.視察後の感想

初めて不登校専門の特例校に視察をさせていただきました。

草潤中学校設立までに様々な課題があり、その一つ一つを乗り越えて作られている関係者の皆様の熱い想いが伝わってきた視察でした。

井上校長は生徒40名の顔と名前を覚えて開校式に臨まれており、生徒一人一人を大切にする温かさが伝わってきました。
また早川前教育長の「子供の持つ違和感にこそ未来がある」という言葉が非常に印象的でした。

子ども達全員が、学校という環境に馴染めるわけではなく、「何かが違う」というような違和感を感じた時に、それが何なのか、自分にとっての心地よさ、学びたいこと、好きなこと、それを追求することが生徒一人一人のオリジナリティを育む上で非常に大切だと感じました。

40万人の岐阜市という地方都市においても、不登校が問題になっている現状から、多くの都市でも同様のことが起きていると想定されます。

不登校自体は問題ではなく、大きな問題なのは、生徒が学ぶ機会を失ってしまうことです。どのような事情や背景があったとしても、子ども達が探究し続けられる場を作ることの大切さを感じました。

この視察にご協力をいただきました、早川前教育長、井上校長、そしてお繋ぎいただきましたカタリバの今村さんに心から感謝いたします。

左上から井上校長、早川前教育長、カタリバ今村さん、左下からKatsuiku Academyの福井、野崎

前岐阜市教育長 早川 三根夫

1954年岐阜市出身 横浜国立大学卒。小中学校教諭、校長、県教委教職員課教育主管、義務教育総括監等を経て、2012年4月からから2021年3月まで岐阜市教育長。第7期中教審委員、全国中核市教育長会長等を歴任。現在岐阜大学客員教授等。草潤中学校設立を主導。

草潤中学校校長 井上博詞

1963年岐阜市出身、岐阜大学卒。中学校英語教諭としてキャリアをスタート。2007年以降、岐阜市教育委員会・岐阜県教育委員会等の行政職10年間、教頭・校長を経験し、現職(草潤中学校校長)。2021年4月現在の義務教育の在り方に一石を投じる未来の学校である草潤中学校校長として「ありのままの君を受け入れる新たな形」を求めて、生徒とともに手作りの学校を創る。