中学・高校に入学したときに部活を選んでいて「運動部が多いな」と感じたことはありませんでしたか?集まる部員がいるから・指導する教員やコーチの先生がいるからという理由もありますが、実は中高生年代における運動による脳への影響・効果のためや運動習慣をつけるためという理由もあります。

幼少時における運動が、その後の人生に影響を与えるという事例や研究も、この20年ほどで様々発表されました。日本では厚生労働省による研究で、定期的に運動を行った軽度の認知症グループが、10ヵ月後には認知機能が明らかに回復したという報告もあります。年齢を問わず、運動には効果があるのです。

運動は食事と同じく、身体や心に影響を与え、健康に過ごすために欠かせないものです。このブログでは、その根拠となる研究や事例を紐解いていきます。

もくじ
1: 運動する意味・意義とは?
2: 中高生と運動:運動が脳・活動に与える影響
3: 大人も実践できる:日常の運動効果
4: おわりに

1. 運動する意味・意義とは?

運動をすることで、身体や気持ちがすっきりする経験をしたことはありませんか?
運動の意義・効用については、身体面・医学的効用だけでなく、精神的・心理的効用、社会的効用もあると言われており、下記については科学的根拠が認められています。(*1)

身体的効用医学的効用精神的・心理的効用、社会的効用
・ 体脂肪減、体重のコントロールに有効
・ 筋力増、身体活動の予備力向上
・ 筋力・バランス力増、転倒の危険性減少



・動脈硬化性の病気、特に心筋梗塞の危険性減少
・高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロームの予防・改善に有効
・骨粗鬆症による骨折の危険性を減少
・乳がんと結腸がんの危険性を減少
・認知症の予防・改善に有効
・睡眠障害の改善

・ストレスの解消、うつ病の予防・改善に有効
・シェイプアップにより、自己イメージが改善
・家族や友人と身体活動の時間を共有し関係向上
・良い生活習慣が身につき、悪い生活習慣を止めるのに有効
・老化の進行防止、QOL(生活の質)の改善に有効


身体的効用や医学的効用はある程度イメージしやすい一方、家族・友人との関係向上や生活の質の改善や生活習慣にも良い効果があることはそこまで実感することは少ないかも知れません。次章以降で、詳しく身体や脳・活動に与える影響を見ていきます。

2: 中高生と運動:運動が脳・活動に与える影響

中高生は特に実感しているかもしれませんが、運動には身長を伸ばすことや身体発達に対しても効果があります。身長を伸ばすには、①体重を増やしカルシウムを摂取すること、②適度な運動をすることが欠かせないとされています。

第二次性徴(=思春期)は「成長スパート」とも呼ばれ、この時期に運動することで骨に刺激を与えると、身長が伸びることがわかっています。思春期は個人差がありますが男子が12~17歳、女子が10~15歳と言われており、特に「思春期前」の小学校中~高学年で定期的に運動することで骨や筋肉・結合組織に刺激が加わり、「成長スパート」により高い効果があるといわれています。

思春期の運動の目安として、縄跳びや鬼ごっこの遊び・部活での運動など1日を通して60分以上の運動をすることが挙げられています。(*2)

また、運動は特に脳に良い影響を与えることがわかっています。運動が脳に与える効果は主に3つあります。

● 神経の活動を高める
● 脳細胞を増やす
● すでにある1000億個の脳細胞が活性化され、運動によって増える成長因子によってさらに脳細胞を成長させる


この「神経の活動を高める」ことを実証したのが、米国イリノイ州にあるネイパービル高校 (Naperville High School) の「ゼロ時間目体育」プログラムです。ネイパービル高校では、授業の前にフィットネスバイクやランニングマシンなどの運動器具を使って運動し、その後1時間目の授業を始めるようにしました。

この「ゼロ時間目体育」プログラムを始めてからの成果は以下のとおりです。

● ネイパービル高校の8年生が国際数学理科教育テスト(TIMSS)の数学部門で世界6位、科学部門で1位
● ネイパービル高校は、地区内の他の高校よりも生徒1人あたりの費用が少ないにもかかわらず、州内テストにおいてトップ10に入る

「ゼロ時間目体育」プログラムを始めとする運動の効果について書いた『脳を鍛えるには運動しかない!(原題:Spark!)』の著者・レイティ博士(Dr. John Ratey) は、この成果の根拠となる脳の働きについて、次のように述べています。

● まず運動は、ドーパミンとノルエピネフリンの両方、および他の脳内化学物質の濃度を増加させます。実は運動で起こる脳内の変化は、覚醒剤を服用するのと似ているのです。
● そして、時間の経過とともに、運動は、脳内の神経伝達物質とそのシナプス受容体の量を増やすための機構を構築するのに役立ちます。慢性的な運動は、最終的にシステムの成長を引き起こします。あなたがより運動するほど、システムはより良く機能します。

つまり、運動することの効果は、「気持ちが良くなる」「知識を吸収し、物事を学ぶ能力が向上する」ということでもあります。

『善の研究』で有名な哲学者の西田幾多郎博士は、「哲学の道」と呼ばれる1.5kmほどの小径を歩きながら思索をめぐらせたといいます。歩くこと・運動することで、より深い思考ができたとも考えられます。


ここまで運動の効果について理解する一方で、労働環境における機械化・IT化やリモートワーク、移動手段の変化や室内ゲーム機の利用、テレビ・ビデオの視聴時間の増加等による「座る時間」の増加で、意識しないうちに運動不足になっていきます。次の章では、生活の中でできるどんな運動が効果的かについても、紹介します。

中高生が取り組むスポーツ活動の指導についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

3: 大人も実践できる:日常の運動効果

日本では2013年に厚生労働省に「健康づくり推進本部」が設置され、「健康づくりのための身体活動基準」を策定しています。「身体活動」は「生活活動と運動の両方」を指しており、健康づくりに欠かせないものとされています。
「健康づくりのための身体活動基準」に基づいて作成された「アクティブガイド」では、下記のような身体活動を「まず10分する」ことで日常に運動を取り入れることを推奨しています。

● 散歩、庭の手入れ、ラジオ体操、ジョギング
● 自転車通勤、サイクリング
● 階段を使う、遠くのトイレに行く
● 筋トレ、ストレッチ

また運動時間の目安としては「個人の健康づくりのための身体活動基準」の中で下記が挙げられています。

● 身体活動量の基準(日常生活で体を動かす量)= 歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日 60 分
● 運動量の基準 = 息が弾み汗をかく程度の強度の運動を毎週 60 分


研究によっては座っている時間が長いと病気が増え、死亡リスクも高まることが明らかになっています。長時間同じ姿勢でいると①血流が滞ること、②筋肉を動かさないことが理由です。

全身に酸素と栄養を運ぶ血流が滞ると、全身の臓器や組織の健康に悪影響があり、肩こり・腰痛といった問題も出てきます。筋肉を動かさないと、血液中の糖を筋肉に取り込む働きが鈍くなります。これが肥満や糖尿病、さらに高血圧や動脈硬化を促進させると考えられています。

1時間に一度は椅子から立つこと、加えて身体を伸ばしたり揺らしたりすることが、病気や突然死の予防にもなります。

運動だけではなく自然が子どもの学習や成長にもたらす効果が気になる方は下記をご覧ください。

4: おわりに

運動による効果は多岐に渡ります。運動不足はなんとなくの不調だけでなく、病気も引き起こすことが明らかになってもいます。また上記でみてきたように学習や集中が困難な場合にも、運動と並行することでより学習や集中が促進されます。「ゼロ時間目体育」プログラムのような運動として、朝散歩やジョギングなどを考えてもよいかもしれません。週に2・3日、筋トレを始めるのもオススメです。

運動の効果を実感するためにも、ぜひスマホやスマートウォッチの歩数計・活動量計を活用した目標設定をしてみましょう。また目標や気分について振り返りをすることで、自分にとって心地よい身体活動や運動がわかるようになっていきます。ぜひ楽しんで取り組んでみてください。


*1: 健康面からみた 身体活動・運動の効用とその活用 武庫川女子大学 内藤義彦教授
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002q9dz-att/2r9852000002q9k7.pdf
*2: 「成長スパート」ってなに? 文部科学省
   https://www.mext.go.jp/sports/content/20210331-spt_kensport01-000011954_PDF11.pdf