「いろいろと試したけど上手くいかない」

「課題は解いたと思ったのに、また別の問題が発生してしまう」

「解決」したはずの問題が繰り返し現れる事は大勢の方が経験したことがあるのではないでしょうか。その一因として、奥深くに隠れている問題の本質を捉えきれていない可能性があります。このような行き詰ってしまった状況では、問題へのアプローチを変えることが一つの糸口になるかもしれません。

新たな視点から状況を把握し、課題を深く掘り下げ、問題の本質を捉えた上で、創造的な解決策を可能とする問題解決プロセスとして、教育界およびビジネス界でも注目を受けているのがデザイン思考です。

今回のブログでは教育界・ビジネス界で注目されているデザイン思考という問題解決方法を紹介します。Katsuiku Academyのプログラムで行ってきたワークショップでの事例なども紹介しながらデザイン思考を紐解いていきます。

 

デザイン思考とは?

デザイン思考とはデザイナーが活用してきた思考の流れを一つのプロセスとしてまとめた思考プロセスです。そのプロセスをビジネスや社会での問題を解決するために活用されるため問題解決方法としても広まっています

デザイン思考の生みの親及びこの解決方法を広げっていた大事な役割を果たしたのが世界的に有名なデザインコンサルティング会社のIDEOです。

IDEOが本拠をおく米国カリフォルニア州のパロアルトを中心に広がったデザイン思考ですが、皆さんが活用したこともあるアップル社の製品のデザインにも関わっていました。スティーブ・ジョブズ氏がIDEOを頼りにし、初代マッキントッシュのマウスのデザインを依頼していたこともデザイン思考を広げていった一つの要因です。

米国のスタンフォード大学では、通称「d.School」(正式名Hasso Plattner Institute of Design)と呼ばれる機関があり、様々なバックグラウンドを持つ学生がデザイン思考を活用しながら学んでいく授業が行われています。

デザイン思考はなぜ今必要なのか?

デザイン思考がビジネス界で注目を受けているのは、これまでの方法だけでは新しい発想にたどり着けず、一種の限界を感じている企業や団体が増えているからではないでしょうか。VUCA時代(volatility, uncertainty, complexity, ambiguity)と言う単語が表すように不安定さ、不確実性、複雑性、不明確さが高まっている現代社会では先行きを見通すことが以前よりも難しくなっています。

まだ物やサービスが現在ほど多くなかった数十年前の時代であれば企業が新しい物やサービスを一般社会に対して出せば多くの消費者が購入へと進んでくれる傾向がありました。

ただ、物やサービスが溢れかえっている世の中では、消費者がものを選ぶ力が増しています。選ぶ権利が高まっている消費者のニーズは多様化しており、企業は今までのように主流のサービスや物を提供するだけでは消費者のニーズを捉えることができなくなってきました。

その中で、必要とされているのが多様化する人のニーズによりフォーカスした提案となります。その提案を可能とするのが人を中心としたデザイン思考のプロセスです。

現在デザイン思考はビジネスシーンだけではなく、教育の世界でも広がりを見せています。スタンフォード大学やハーバードビジネススクール等世界のトップスクールを始め、世界中でデザイン思考を取り入れている学校が増えています。デザイン思考のプロセスを提唱してきたデザイン会社のIDEOとスタンフォード大学がまとめた世界中でデザイン思考に取り組んでいる学校およびプログラムのリストは拡大する一方です。(http://www.designthinkinginschools.com/

大学などの高等教育に限らず、中等教育や初等教育でも取り入れている団体が多く「早い段階からこの手法を身に付けることで、長期的かつ幅広くそれを応用できる」という教育界の期待が感じられます。

デザイン思考の特徴:人を中心とした創造的問題解決プロセス

「デザイン思考」は従来の問題解決法とは異なり、「人」を発想の中心としています。

その「人」が具体的に何に悩んでいるのか?何を問題だと感じているのか?

その「人」はなぜそれを問題だと感じているのか?どのような価値観を持っているのか?

その「人」が価値を感じてもらえる解決策は何なのか?

ビジネスや社会の問題を解決するにあたって、問題に中心に考えてしまうことが多かったのが「人」に焦点を当てることで今までとは異なる発想を可能とします。そのため、創造的な問題解決方法としてもデザイン思考があげられることがありました。

例えば、掃除機を売っている企業があった場合、

従来の問題解決方法では「この掃除機をもっと売るためにはどうすればいいのか?」と掃除機が発想の焦点となってしまいます。

デザイン思考では「人」に焦点を当てるため、「掃除をしようと思っている人がそもそも何に悩んでいるのか?何を問題だと感じているのか?なぜそれが問題だと思っているのか?」などユーザーを中心に考えをしていきます。

従来の問題解決方法ではすぐに解決策へと走ってしまい、「掃除機のコードを長くしよう。もっと吸えるようにしよう。」などと単純化された解決策しか出てこないかもしれません。

デザイン思考では、単に表面化している問題に焦点をあてるのではなく、サービスまたは製品を使用している人の立場から考え、本質的な問題を探ります。今まで問題だと定義していた事象とは異なる所にも焦点をあてられるため、チームとともに創造的な解を発想することが可能になります。

デザイン思考のプロセスは先ほども紹介したようにビジネスだけではなく、教育業界や社会の問題に対しても活用されています。

学生や学校が抱えるような「どうしたら給食の余りを無駄にしないようにできるか」「何をしたら学園祭へもっと人を呼べるか」等の身近な課題から「どのように発展途上国の未熟児生存率を向上させるか」等、社会が抱えている大きな課題にも幅広く適用できる手法です。

 

デザイン思考の5つのステップ:ワークショップでのプロセス例

デザイン思考では下記の5つのステップを活用して問題解決を実現しています。各ステップの概要とKatsuiku Academyが中学生・高校生向けのワークショップ等で行ってきた事例を交えながら紹介していきます。

ステップ1:観察・共感(OBSERVE)

1番目のステップでは問題を観察することです。

通常の問題解決法では問題が表れたら、すぐに答えを見つけることに思考が働いてしまいます。デザイン思考では解決策を考える前に、まず問題をより深く理解することから始めます。その問題に影響されている人や環境・状況を観察することがスタート地点になります。

観察する上ではユーザー視点が非常に重要なため、問題を抱えている人の観点から物事を考えるための共感力が求められます。

サービスを提供しようと思っているユーザーを具体的にイメージすることができているのか、ユーザーの生活をどこまで深く観察することができているのかが重要です。

中学生・高校生向けワークショップでの観察の例:

中学生・高校生向けワークショップ等で扱うテーマとして「学校をもっとよくする」というテーマがあります。観察ステージの進め方も複数ありますが、一つの方法として、ワークショップの事前課題として各生徒を学校生活の中で不便だと思う場面を写真に収めていただきます。「食堂での列の長さ」「教室の黒板が見えづらい」なだたくさんの写真が集まり、学校生活の中で改めて、自分が不便だと感じることを観察してもらうことで今まで気づいていなかったことに気づく生徒も多々います。

 

ステップ2:問題定義(SYNTHESIZE)

2番目のステップでは問題を深堀していきます。

問題の本質を捉えずに、「解決策」を行なっても同じ問題が再浮上してしまいます。観察を通して集めた情報をもとに、表面化している問題の奥に隠れている、解くべき問題の本質を追求することが重要になります。デザイン思考のプロセスにおいて影響力が大きく最も難しいステップの一つとなります。

浮上してきた問題に対して、「ユーザーはなぜそれを問題だと感じているのか?」、「なぜその問題を起こってしまっているのか?」などの質問を幾度も重ねながら問題の本質を捉えます。

中学生・高校生向けワークショップでの問題定義の例:

観察ステージで集めた学校で不便だと感じている点を小グループで話し合い、グループとして取り組みたい課題を一つに絞ります。問題の解決策を考える前に問題をグループで深く考えていきます。「そもそもなぜそれを問題だと感じているのか?」「なぜ問題は起きてしまっているのか?」などを繰り返し聞くことによって問題だと感じている人の立場から問題についてより深く理解することができます。

ステップ3:アイデア発想(IDEATE)

3番目のステップで解決策を発案していきます。

問題の本質を捉えた上で、初めて解決策のアイデアを考える段階に入ります。とにかく質より量を重視し、幅広くたくさんの解決策を出していくことが大切です。どんなアイデアでもまずは肯定し、多様なグループメンバーがあらゆる視点からアイデアを出し合うことで、今まで考えもしなかった発想が訪れる可能性を高められます。

IDEOがこのプロセスに取り組む際にはオフィスの壁一面が付箋でうまるほど、何百、何千のアイデアを出しながら、解決策の可能性を広げています。

中学生・高校生向けワークショップでのアイデア発想の例:

ワークショップ内でグループとしてアイデアを出し合うには、お互いのアイデアに積み重ねる方法や肯定することの重要さを身につけるアクティビティを行なった上でアイデア出しへ進めることが大切です。グループで各自がポストイット(付箋)とマーカーを持って思いつくアイデアを時間内に書き出すタイムチャレンジを設けたり、まずはそれぞれが6つのアイデアを書き出して共有する時間を作ったり、質より量を重視した流れを作ることで創造的な解決策が生まれる可能性が高まります。

 

ステップ4:アイデアを形にする(PROTOTYPE)

4番目のステップで解決策を周りに見せれる形に落とし込んでいきます。

数多く出た発想を組み合わせたりすることで、より磨かれたアイデアが作れます。アイデアの有効性を考えるために試作品・解決プロセス(プロトタイプ)をデザインし、他の人にもアイデアを分かりやすく伝えるために、アイデアを形にしていくのがこの段階です。完成度等は気にせず、とりあえず素早くアイデアを形にすることにより、そのアイデアが抱えている問題点や改善点が明確になってきます。

中学生・高校生向けワークショップでのアイデアを形にするの例:

数時間のワークショップの中では、製品やサービスのプロトタイプをしっかりと作り込むのは難しい場合も多いため、アイデアを形にするのをポスタープレゼンテーションや演劇などを取り入れたプレゼンテーションで行います。時間に余裕があればダンボールなどを活用して製品、サービスを伝えやすくするプロトタイプの作成に取り組んでいただきます。

ステップ5:フィードバック(FEEDBACK)

5番目のステップで解決策に対してフィードバックを行います。

作成したプロトタイプを、実際に問題を抱えていた人に試してもらい、改善点や使った上での感想等の情報を収集していきます。

フィードバックをもらうことで更なる改善を加えた解決策を模索していきます。一つの試作品に執着せず、形を変えたり、場合によってはまったく別のアイデアを検討することが重要なポイントとなります。

中学生・高校生向けワークショップでのフィードバックの例:

プレゼンテーションやプロトタイプを他のグループと共有し、直接にフィードバックをもらいます。フィードバックを大きく2点に絞り、プロトタイプとしてよかった点、どうすればもっとよくなるのかについてお互いにフィードバックを渡していきます。フィードバックをお互いに渡す際にはFeedback is a giftをモットーにプレゼントのように渡し、受け取ることを共有して行うと快くフィードバックを交換できます。

 

デザイン思考のマインドセット:デザイン思考がうまくいかない理由

上記でデザイン思考の5つのステップを紹介してきました。

ただ、デザイン思考においてはステップを知ることも大切ですが、それ以上に大切なのはそれぞれのステップで重要視されるマインドセット、物事の考え方です。

プロセスで紹介しているHOWよりもなぜそのステップが重要なのかのWHYを理解せずにデザイン思考を行ったとしても望んでいる結果を得ることは難しいです。また、これらのマインドセットはデザイン思考のプロセスに限らず幅広く活用できます。

プロセスを紹介していく中で、太字で強調したポイントが大事なマインドセットとなります。

  1. 共感する力
  2. 問題の本質を捉える
  3. アイデアは質よりも量
  4. アイデアを作ってみる
  5. フィードバックはプレゼント

1、共感する力:

相手の立場に立って、問題や生活に関して考える力は非常に重要な力です。英語ではPut yourself in the other person’s shoesと言うフレーズがあり、相手の立場になり切ることを示しています。

どのような生活をしているのか、何に対して課題感を持っているのか、どんなことに影響されているのか、どんな価値観を持って行動しているのか。

これらを全て把握することは非常に難しいですが、もっと相手を理解しようという想いがなければ意味のある問題解決などは実現できません。

問題解決の根底には問題を抱えている相手の生活をもっとよくしたいという想いがあると想定すると、問題解決するにはまずその人がどのような生活を送っているのか共感力を持ってのぞむことが求められます。

2、問題の本質を捉える

問題を発見すると私たちはどうしてもすぐに解決策に走ってしまいます。

不快感を与えているのもをなるべく早く、スムーズに取り除きたいという思いが出てしまうのは非常に自然なことかもしれません。

ただ、問題の本質を捉えずに解決策を施しても効果がないことも多々あります。地上の上に生えている雑草を刈っても根っこが残ったままでは同じ問題が何度もまた再浮上するだけです。

解決策に飛びつく前に、そもそもなぜこれを問題だと感じてしまうのか?なぜこの問題は発生しているのか?等の問題を様々な視点から当てることで問題のより深い本質が見えてきます。

この本質を捉えてこそ、効果のある解決方法の発案が可能となります。

 

3、アイデアは質よりも量

創造的なアイデアを生み出すにはまずは質よりも量が大切です。

完璧な解決策を一つ生み出すために考え続けるのではなく、まずはたくさんのアイデアを出していくのが効果的と言われています。

オリジナルなアイデアを出す人々や創造力に関して研究を行なっているペンシルバニア大学ウォートン校のアダム・グラント氏は創造力に溢れたアイデアを出すためには200個のアイデアが必要だと発表しています。また、大ヒットシリーズとなったアニメ映画のカーズに取り掛かる前に制作会社のピクサーは500以上の脚本をみた上で選んだと言われています。

チームとしてアイデア出しに取り組むのであれば「質より量」というマインドセットを体現していく必要があります。くだらないアイデアや当たり前だと思われるアイデアも最初の段階では全て肯定しながらチームで出し合ったり、お互いのアイデアに積み重ねながら進める方法を実践し、何百というアイデアを出した上で創造的な解決策にたどり着きます。

アイデア出しの方法が気になる方はこちらの記事を確認してください。(【アイデア出しの方法】創造的なアイデアを出す3つの方法

4、アイデアを作ってみる

アイデアのままで物事を終えてしまっては問題解決に繋がりません。

アイデアをまず形にしていく、周りの人たちにもわかるような試作品であったり、イメージしやすいものを「とりあえず」作ってみることが大切です。

この中で、特に大切なのが「とりあえず」という点です。

形にする際には完璧なものを目指さず、とりあえずクオリティーが低いとしても形にするのが大切です。どうしても周りの人に見てもらうには完璧なものを作らないといけないという思いが出てしまいますが、完璧なものを作るには膨大な時間がかかってしまいます。

また、そもそも「完璧」とは誰にとっての完璧なのでしょうか?

自分ではない他人が使うためのサービスや製品を作っているのであれば、その「完璧」を定義するのは作り手ではなく、使い手となります。作り手が時間をかけて完璧にするのは方向を間違えればただの自己満足となってしまいます。それよりも相手に見せるためにとりあえず形を作り、改善点などを伺って作り直すことを重ねる方が相手にとっての「完璧」により的確、かつ素早くたどり着くことができます。

 

5、フィードバックはプレゼント

自分の製品やサービスを磨くためにはフィードバックは不可欠です。

上記のアイデアを形にするでも言及しましたが、相手を思って製品やサービスを作るのであれば相手がその製品やサービスを活用した感触や改善点を収集することで、より相手にとって必要な要素を加える機会が得られます。

しかし、自分が時間とエネルギーをかけて作ったアイデアや製品・サービスにフィードバックをもらうのは勇気が必要な行動かもしれません。批判されることを恐れてしまったり、製品・サービスの批判が自分自身の批判のように思えてしまい、どうしても自分の製品・サービスを守りたいという思いが出てしまいます。

ただ、フィードバックは改善して欲しいという想いが込められていると考えるとフィードバックをプレゼントとして受け取ることができます。また、受け取る際だけに限らず、周りにフィードバックを与える際にも、相手に成長して欲しい、その人が提供している製品・サービスがもっとよくなって欲しいという思いを込めてプレゼントのように渡すことを練習することでフィードバックに対する考え方が変わっていきます。

「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」で有名になった掃除機を作ったダイソン氏もデザイン思考のプロセスを活用した一人と言われいています。彼は最終製品に辿り着くまで5172台もプロトタイプを重ねたことで有名です。人を中心に考え、幾度もフィードバックを受けながら製品に取り組んだのが成功の一因の一つかもしれません。

プロセスを知ることも大事ですが、それ以上に上記のマインドセットを理解し、実践することでデザイン思考がより効果的な力を発揮します。

デザイン思考のオススメの本

デザイン思考に関しては様々な文献が存在しますが、特にお勧めしたいのが下記の本です。

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

最初に紹介したデザインコンサルティング会社のIDEOを牽引してきた創業者で、スタンフォード大学 d.schoolの創設者でもあるデイヴィッド・ケリー氏と、その弟でIDEO共同経営者のトム・ケリー氏が、デザイン思考に関してまとめた著書となっています。この中でもプロセス以上にマインドセットの部分が紹介されており、ぜひもっと深く知りたい方はこちらの本を手にとってみてください。

今回紹介したデザイン思考に基づいたプロセスで画期的な製品やサービスを作った企業や団体は数多く存在します。ただ、上記にも記載している通り、プロセスを覚えて実施するのではなく、そのプロセスの中で重要視されているマインドセットを理解することがより重要になってきます。デザイン思考のマインドセットを理解することでデザイン思考のプロセスに縛られず、より汎用的にデザイン思考を活用することが可能となります。

ぜひ創造的な問題解決として広がり続けているデザイン思考をより深く理解し、実践してみてください。