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Cultural Intelligence Quotient『CQ(文化の知能指数)』とは? ー異文化理解を深める方法ー

IQ(知能)やEQ(心の知能指数)という言葉はどこかで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

IQは『頭の回転の速さ、学術成績』など知能を測るものに対し、EQは『共感力、対人関係能力、感情コントロール』など自己・他者の感情を認識し、相手に配慮した言動や行動がとれる対人コミュニケーション能力を意味します。

しかし、グローバル化が加速する中でIQとEQの双方が高くても、海外で失敗する事例が数多く報告されています。なぜでしょうか?

近年「CQ」という新しい概念が少しずつ認知されるようになってきました。今回はCQがどのようなものなのか、なぜ今CQが必要なのか、日本の文化的特徴も踏まえながら紐解いていきます。

EQに関してはこちらをお読みください。

もくじ
1.CQ(文化の知能指数)とは
2.文化をスコア化ーホフステードの6次元モデルー
2-1.文化とは?
2-2.ホフステードの6次元モデル
2-3.権力格差
2-4.集団主義と個人主義
2-5.女性性と男性性
2-6.不確実性の回避
2-7.短期志向・長期志向
2-8.人生の楽しみ方
3.まとめ

1.CQ(文化の知能指数)とは

CQとは、Cultural Intelligence Quotientの略で「文化の知能指数」を意味します。

一言でいうと、「異なる文化的背景を持つ人と共に問題を解決し、目的を達成することができる力」のことです。

CQという概念は、ロンドンビジネススクール教授だったクリス・アーレイ氏が提唱し、ミシガン大学のヴァン・ダイン教授、シンガポールの南洋理工大学のソン・アン教授が展開しました。

CQは、4つの要素で構成されています。

①異なる文化で効果を出したいという「動機
②異なる文化に対する「知識
③異なる文化の中で効果を発揮するために知識を活かして、準備し、何がうまくいって何が失敗したかをリフレクションする「戦略
④異なる文化でのバーバル、ノンバーバルのコミュニケーションを指す「行動(スキル・アクション

上記の定義から、海外経験が長く、英語が話せる人が必ずしもCQが高いというわけではないのです。

文化的背景が異なる人々と共同で何かを行う際に、いくらIQやEQが高かったとしても上手く行きません。それはそれぞれの基本的なモノの考え方や視点が異なるからです。

私たちが常識だと思っている考え、価値観、文化、習慣、ビジネスルール等は、自分が生まれ育った地域や国から大きな影響を受けています。

日本の常識は、他国では常識ではないのです。

CQを高めていくためには、まず自国の基本的なモノの考え方や視点がどのようなものであるのか、文化的背景を知ることが大切です。

自国を理解することで、他国とどのような点が異なるのか、差異を理解することができるのです。

「国境を超えたプロジェクトの70%は失敗し、90%の経営者が、異文化間で効果的に結果を出せる人材を見出すのは、トップマネジメントのチャレンジと考えている」

という調査結果が出ています。( In search of high CQ : A trendy management idea for the age of globalisation , Apr 6th 2010)

グローバル化が進んでいく中で、いくら優秀でコミュニケーション能力が高かったとしても、このCQを高めていかないと国境を超えたプロジェクトで成果を出すのは難しいといえるでしょう。

2.文化をスコア化ーホフステードの6次元モデルー

2-1.文化とは?

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、文化の違いをスコア化した世界で初めての学者です。

ホフステード博士は1960年代の後半から「文化」という曖昧な対象を研究しモデル化した上で、文化と経営の研究を行っていました。

そもそも「文化」とは何でしょうか?

ホフステード博士は、文化を「ある集団と他の集団を区別する心のプログラム」と定義しました。

例えば、日本では「協調性」が重んじられます。場の空気を読み、今自分が発言してもいいタイミングなのかどうか、求められている役割や言うべきことを瞬時に察知して対応することが求められます。

方や欧米では、自分の意見を伝えること、個性を発揮することが求められます。会議中に発言しないということは、自分の意見がないことを意味します。

この会議という事例だけでも分かる通り、日本と欧米では全く異なります。どちらがいい、悪いではありません。ただ「違う」ということなのです。

文化の中心には「価値観」があります。私たちは、ある物事に対して、「いい」というような肯定的な感情と、「いや、だめ」という否定的な感情をあわせもっています。

その物事を判断する感情を「価値観」と呼びます。この価値観は私たちが小さい頃から無意識下で形成され、内面化されます。この価値観は12歳ごろまでに無意識に刷り込まれ、変えることは難しいと言われています。

2-2.ホフステードの6次元モデル

国の相対的な文化の違いを次元ごとに0から100までの間で数値化したものが「ホフステードの6次元モデル」です。

ホフステード博士は、人間社会にある普遍的な6つの課題に着目しました。この6つの項目それぞれを各国毎に0から100までの数値で表しています。

(1)権力との関係「権力格差」

階層を重視するのか、それとも平等を重視するのか。自分より権力がある人との関係を、力の弱い人がどのように捉えるのか。

(2)集団と個人の関係「集団主義⇔個人主義」

所属する集団に依存し、その利益を尊重するのか、それとも独立し個人の利益を優先するのか。

(3)男性・女性に期待される役割の違いと動機付け要因「女性性⇔男性性」

家族、友人、大事な人と一緒にいる時間を大切にするのか、それとも社会の中で成功、達成すること、地位を得ることが大切なのか。

(4)知らないこと、曖昧なことへの対応 「不確実性の回避 低い⇔高い」

不確実なこと、曖昧なこと、知らないことを脅威と考えるのか、それとも気にしないのか

(5)将来への考え方「短期志向⇔長期志向」

将来・未来に対してどのように考えるのか

(6)人生の楽しみ方「抑制的⇔充足的」

人生を楽しみたい、あるいは楽をしたいという気持ちを抑制して悲観的に考えるのか。

日本はこのホフステードの6次元モデルでどのような数値となっているのでしょうか?日本の文化的な特徴を見ていきたいと思います。
数値は「経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法」を参考に引用しております。

2-3.権力格差

この世は平等ではありません。生まれながらに富めるものも、貧しいものもいます。

ホフステード博士は、この権力格差を「それぞれの国の制度や組織において、権力の弱い成員が、権力が不平等に分布している状態を予期し、受け入れている程度」と定義しました。

日本のスコアは54(権力格差が大きいほど100に近い)です。

これは世界の中で真ん中の位置です。世界で最も権力格差が大きいのは、マレーシア・サウジアラビア・イラクなどで、小さい国は、欧米・北欧諸国です。

日本の文化的な特徴は、権力格差が大きくも小さくもないという点です。日本の会社の中で最も業務が多忙で、責任が大きいのは、中間管理職です。

中間管理職のミドル層は、トップとダウンの橋渡しとして意思疎通を行ったり、ある程度の意思決定をした上で、トップの承認を得てプロジェクトを実行していきます。大きな権限がミドル層の中間管理職にあるのが日本の特徴なのです。

2-4.集団主義と個人主義

日本は集団主義の傾向が強いと考えている人が多いのではないでしょうか?

しかし意外なことに、日本のスコアは46(個人主義の傾向があるほど100に近い)で、世界の中でも真ん中の位置です。

個人主義の傾向が強いのは、欧米・北欧諸国、集団主義が強いのは、インドネシア・台湾・韓国・中国などのアジアが目立ちます。

社会心理学者の山岸敏男氏の調査によると多くの日本人は、「日本は集団主義」と答えるが、「自分は個人主義」と答える傾向があることが分かっているとのことでした。

集団になると場の空気を読んだり、調和を保とうとする傾向はあるものの、核家族化が進み、一族の利益を考えて「私たちは」と考えるよりも「私は」という個の視点から自己選択、自己決定をする人が増えたこともその一因と考えられます。

2-5.女性性と男性性

日本のスコアは95(男性性が強いほど100に近い)で、世界の中でも男性性の高い国が日本です。

男性性が強い国の特徴は、「目標を達成するまで粘り強く努力すること」「業績・成功・地位」「極めること」「家庭よりも仕事」が重視されます。

日本が世界で最もミシュランガイドで星を獲得しており、2年連続世界一なのは、この男性性である「極める」が顕著に顕れています。

2021年3月30日に世界経済フォーラムが発表した、ジェンダーギャップ指数(The Global Gender Gap Index= GGGI)で日本の男女格差は120位/156か国と世界の中でも下位に留まっています。

このGGGIは、政治・経済・教育・健康の4つの分野からランク付けがされるのですが、特に「政治」147位、「経済」117位とかなり低い状況です。

日本の過半数が女性であるにも関わらず、2021年8月現在、47都道府県の内たった2名しか女性の知事はいません。また、国会議員のうち、女性が占める割合は衆院議員で9.9%、参院議員は22.9%しかいません。

上場企業の女性社長比率は1.0%と、経済大国であるにも関わらず以前として女性の政治的、経済的な地位が上がらないのは、世界でもトップクラスの男性性の強さが影響しているといえるでしょう。

2-6.不確実性の回避

日本のスコアは92(不確実性の回避傾向が高いほど100に近い)です。こちらの結果は皆さん納得の結果なのではないでしょうか?

不確実性の回避を避ける傾向が高い国では、人々が予測できない事に対して極度の不安やストレスを感じる傾向があるため、それを事前に防ぐためにマニュアルやルールなどの規則を作ります。

前例を重んじ、新たなチャレンジをして失敗することを避け、会社の中では「報告・連絡・相談」を徹底するマイクロマネジメントの傾向があります。

同じアジアでも、シンガポール・中国・ベトナム・インドネシアなどの国は不確実性の回避傾向が低く、新しいことや未知数なことに挑戦する傾向があります。

なぜ日本人は不確実なことに対して、不安を感じやすいのでしょうか。それは世界でも有数な災害大国であることが関係していると言われています。

日本の国土の面積は全世界のたった0.28%しかありませんが、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の20.5%が日本で起こり、全世界の活火山の7.0%が日本にあります。

この災害の多さによって、日本人は事前に何がリスクかを考え、危険を回避することで命を守ってきたのかもしれません。

日本人の不安を感じやすい傾向について知りたい方はこちらをお読みください。

2-7.短期志向・長期志向

日本のスコアは、88(長期志向が高いほど100に近い)です。日本は長期志向が世界の中でも高い傾向にあります。

長期志向の強い社会では、すぐに結果は出なくても、何十年先のために投資をしたり、粘り強く努力することができます。

ケネディ大統領が就任時に日本の記者団から「貴方が尊敬する日本人は誰ですか?」と聞かれ、「上杉鷹山である」と答えたエピソードは有名ですが、この上杉鷹山のエピソードはまさに日本人の長期志向を表しています。

幕府によって俸禄が20分の1に減らされてしまった時に、上杉鷹山は15歳で米沢の藩主となりました。

米沢藩の財政は多額の借金でどうにもならない状態でしたが、鷹山は決してあきらめることなく、藩主自ら荒れ地にクワを下ろして新田開発を進め、漆の実を植えて十年先の産業振興をはかりました。

田にはコイを飼うようにすすめて緊急の場合の食料源とし、荒れ地に桑を植えさせ養蚕業を盛んにしました。それが後に米沢織として大きな収入源となっています。

1783年に歴史的にもまれに見る天明の大飢饉が発生し、東北地方を中心にものすごい数の餓死者が出たことがありました。

農耕に欠くことのできない牛や馬も食用にされ、とうとう食べるものがなくなった時、上杉鷹山が治める米沢藩では、飢饉に備え米を備蓄していたこともあり、一人も餓死者を出さなかったのです。

自然災害が多く、いつ何が起こってもいいように長期的な目線で考え、未来に投資していく日本の文化的な特徴がこの上杉鷹山のエピソードにつまっています。

また、長期志向の強い国の特徴としては、「思考が統合的で、全体像を把握してからポイントに向かう」という点があります。

これは各国のメンバーとディスカッションしていてよく起こるケースなのですが、日本人は全体像や、ゴールイメージを確立してから、ディテールに入っていく傾向がありますが、短期志向の強い国では、思考が分析的でディテールから入っていく傾向があります。

全体の戦略を話し合う方が先か、足元の戦術からなのか、こういった場において各国の文化的特徴が顕著に顕れます。

2-8.人生の楽しみ方

日本のスコアは、42(人生が充足的であるほど100に近い)です。

この項目は、ネガティブな社会か、ポジティブな社会を示しています。

日本は、やや抑制的な社会で、特徴としては、幸福感を感じることが少ない、無力感を感じやすい、余暇はあまり重要ではない、悲観主義的な傾向があります。

日本財団が実施した「18歳意識調査」第20回 テーマ「国や社会に対する意識」では、「将来の夢を持っている」の回答が他国に比べ30%近く低い数字となっており、「自分で国や社会を変えられると思う」率は18.3%と5人に1人しかいない無力感を感じる傾向があることが分かっています。

国連が2021年3月に発表した世界各国の幸福度のランキングを示した「World Happiness Report 2021」では、日本は56位と決して高い順位ではありません。

75年という長期にわたり「人の幸福度」について研究した「ハーバードメン研究」(ハーバード大学)では、人の幸福度に最も影響を与えるのは「温かな人間関係である」と結論づけています。

この研究では、被験者268人を75年間追跡調査して、幸福度が高かった上位10%と、そうではない下位10%を比較しました。

その結果、明らかになった両者の最大の違いが「温かい人間関係」を人生で築くことができたかどうかでした。

温かな人間関係を築くうえで必要となるのが、自分と意見が違う人たち、立場が異なる人たちの意見を聞き、どれだけ理解を示すことができるかという「寛容さ」です。

CQを高めることが幸福な人生を送るためにも必要だということが分かる研究結果ですね。

幸福な人生を送るための方法を知りたい方はこちらをお読みください。

3.まとめ

いかがでしたでしょうか?今後ますます求められるCQ。CQを高めるにためには、まず自国の文化的な特徴を踏まえ、相手と自分の中でどのような感情や思考が沸き起こっているのかを俯瞰的に観察していくことが重要です。

日本人でも上記のスコアとは異なる傾向を持っている方がいるように、国の文化が必ずしも個人の価値観と一致するわけではありませんが、文化としての違いを理解することは重要です。

多文化共生と叫ばれて久しいですが、その多文化の一つが自国の文化なのだという感覚を持ち、良し悪しではなく、ただ「違う」という事実を受け入れながら実践の中でCQ力を高めていきましょう。

個人としての多様性に興味がある方は下記のブログをご覧ください。

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