ー目次ー
いま注目視される自分と他者に「寄り添う」力
「コンパッション」とは
コンパッションで話題の本
人の成長とコンパッション:エッジ・ステートに立ち続けるために
コンパッションの高めかた – G.R.A.C.E について
コンパッションがもたらすその他のメリット
まとめ

いま注目視される自分と他者に「寄り添う」力

「他の誰かを優先しすぎて、自分を犠牲にしてしまった」
「やり遂げたい強い思いで突っ走ったけど、燃え尽きてしまった」

このように、何かをよくしたいと思うからこそ苦しい思いした経験の一つや二つ、誰しも思い当たることがあるのではないでしょうか。

自分自身のコンパッションを高めることで、このようなことから早く立ち直ったり、そもそもの苦しみを回避できるかもしれません。

今回は、自分自身や他者を思いやり寄り添う力、コンパッションとその効果についてご紹介します。

コンパッションの意味とは

コンパッション(英語:Compassion)は「思いやり」や「慈悲」などと訳されますが、禅僧であり医学人類学博士でもあるジョアン・ハリファックス氏は、コンパッションを、人が生まれつき持つ「自分や相手を深く理解し、役に立ちたい」という純粋な思い、また、自分自身や相手と寄り添い「共にいる」力と説明しています。

コンパッションは、マインドフルネスと「コインの裏と表」にあたる概念とも言われ、マインドフルネス同様、仏教にルーツを持ちつつも、そこから宗教色を排除しながら科学的に研究の進む、近年、世界のトップ大学からも注目されている分野でもあります。

例えば、スタンフォード大学では CCARE (The Center for Compassion and Altruism Research and Education) という機関が同大学の医学部内に設立され、コンパッションと脳の関係についての科学的な研究やコンパッションを高めるためのトレーニング開発が行われています。

さらに、最近では、企業がリーダーに求める資質としてもコンパッションへの注目は集まっています。リーダーが高いコンパッションを持つことで、チームの心理的安全を高めることにも繋がると言われています。

コンパッションで話題の本

コンパッションへの注目は高まっていますが、日本語で読める書籍はまだ決して多くありません。

現在、日本語化されている中で、もっとも体系だって書かれているものの一つが、先述のジョアン・ハリファックス氏の「Compassion(コンパッション)――状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力」です。

ハリファックス氏は、禅老師、ハーバード大学名誉研究員という肩書きの他に、社会活動家としての顔も持っており、ネパールで移動診療の活動を行うなど、死にゆく人々の元で40年以上働いてきたという経歴の持ち主です。

実践者としての実体験にもとづくリアルな視点と言葉を主軸に、研究者としての客観的な視点が加わえられることで、研究論文とは異なる説得力を感じる一冊です。

より体系的にコンパッションを学びたい方は、ぜひ読まれてみてはいかがでしょうか。

人の成長とコンパッション:エッジ・ステートに立ち続けるために

自分や他者に対して思いやりをもち、中立的な視点でものごとを見るコンパッションの力は、人の成長に寄与すると言われています。

コンパッションと切り離せない概念として、エッジ・ステートというものがあります。

エッジ・ステートとは、私たちが満ち足りた人生を歩み、他者に役立つために必要な5つの資質であると、ハリファックス氏は述べています。

1. 利他性:

“本能的に無私の状態で他者のために役立とうとすること”

2. 共感:

“他者の感情を感じ取る力”

3. 誠実:

“道徳的指針を持ち、それに一致した言動をとること”

4. 敬意:

“命あるものやものごとを尊重すること”

5. 関与:

“しっかりと取り組むが、必要に応じて手放すこと”

※ 定義の引用:Compassion(コンパッション)――状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力

これらの資質を高めることで、私達はより見晴らしのよい場所に立つことができますが、一方で、これらの資質には同時に影の側面もあり、時として私たちは崖から滑り落ちてしまうことがあります。

1. 利他性 → 病的利他主義:

“承認欲求にとらわれたり、相手を依存させてしまったりする状態”

2. 共感 → 共感疲労:

“相手の感情と一体化しすぎて自分も傷つく状態”

3. 誠実 → 道徳的痛み:

“正義感に反する行為に関わったり、目にしたときに生じる苦しみ”

4. 敬意 → 軽蔑:

“自身の価値観と異なる相手を否定し、貶めること”

5. 関与 → 燃え尽き:

“過剰な負荷や無力感にともなう、疲弊と意欲喪失”

※ 定義の引用:Compassion(コンパッション)――状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力

当然ながら、崖から影の側面に滑り落ちることには痛みを伴います。
しかし同時に多くのことを学ぶチャンスにもなりえます。

コンパッション、すなわち自分自身や他者を深く理解し寄り添う力があれば「道徳的痛み」や「燃え尽き」を悪しき終着点ではなく、自身の成長機会や変容機会ととらえることができます。そして、再び崖の頂きへと登って戻り、新たな視点をもって、他者へ貢献することができます。

コンパッションを高め、崖から転落しないギリギリのところ(エッジ)にバランスを保ち立つこと。

また、もしその崖から落ちても、元の場所に戻ってくること。

そうして困難に満ち荒れ果てた景色と、愛と力と善に満ちた崖の両面の景色を理解すること。

これらのことがVUCAの複雑な状況に飲み込まれずに、社会に必要な変容を起こす力へとつながります。

コンパッションの鍛える・高めるトレーニング

コンパッションは意図的に養うことが可能であると、ハリファックス氏は述べています。

G.R.A.C.E. は、医療従事者が自身と患者、双方に対してコンパッションを持って向かえるよう、ハリファックス氏が開発したプログラムです。専門知識を持ったトレーナーのもと、場合によっては数日間にわたり行われるプログラムですが、ここでは簡単に概要のみ紹介します。

5つのステップから構成され、それぞれの頭文字をとって、G.R.A.C.E. と呼ばれています。

G:Gathering attention 注意を集中する

自分の思い込みや期待といった独り言を中断し、地に足をつけ、今この瞬間に確かに存在する自分の確認を促すプロセスです。息を吸い注意を集中させ、息を吐き力を抜きます。

R:Recalling intention 動機と意図を想い出す

他者を支援したいという自分の動機を再確認し、誠実に行動すること、また、相手の誠実さに敬意を払うことを誓い思い起こすプロセスです。動機となる目的を明確化することで、道を外すことなく、高い価値観を維持することを目指します。

A:Attune to self and then other 自己と他者の思考、感情、感覚に気づきを向け、合わせる

自身と他者の波長を合わせるプロセスです。注意を自らの身体感覚、感情、思考に向け、反射的・感情的な自身の反応に冷静に自覚したうえで、他者と身体的に(身体的共感)、感情的に(情動的共感)、認知的に(他者視点取得)、同調を図ります。自身の客観視により、バランスのよい洞察力を持つと同時に、他者への想像力を深めます。

C:Considering what will serve なにが役に立つかを考える

冷静な理解と直感や洞察の両面から、適切な判断を下すプロセスです。その場において、自分と相手へコンパッションを持って臨むべきか、慌てて結論に飛びつかず、冷静さと謙虚さを持ち検討します。

E:Engaging and Ending 関与を持って行動し、完了させる

倫理と慈悲をもって相手に関与します。何か提案することもあれば、何もしないことがコンパッションに満ちた関与となる場合もあります。相手と信頼関係を深め、互いに誠実さを保てる共通の土台を共創するよう努力します。

機を見て、その相手とのコンパッションの時間を「しめくくり」、潔く、次の時間、次の相手、次の務めに移ります。

コンパッションの効果とその他のメリット

脳科学によってコンパッションにはいくつかの驚くべき特性があることが明らかになっています。

  • コンパッションを養っている人は、悲しみに暮れているときに、他の多くの人よりも大きな苦しみを感じる、一方、元の場所に戻るのが早い。(これは「立ち直る力」「やり抜く力」(レジリエンス)と言われています。)
  • 脳のすべての部分を繋げている神経統合を高める。
  • 免疫システムを高める。

コンパッションを高め、思いやりを持つことは、自分自身を消耗させることだと感じる人もいるかもしれませんが、しかし実際は逆であることを、脳科学の研究は示唆しています。

まとめ

コンパッションはとても範囲の広い概念です。

この分野では、医療に関してだけでなく、ビジネスではリーダーシップとコンパッションの関係や、自分自身に向ける「セルフ・コンパッション」など、実践と研究が世界中で行われており、今後の発展が期待されています。

今回は、その概要のみのご紹介となりましたが、非常に重要な分野でもあるため、今後もブログなどでご紹介してまいります。