重要なテストや大きなイベントに向けて必死になって頑張っていたが、それらが終わった途端に緊張の糸が切れたように何事にも手がつかなくなった。

毎日のように厳しい練習をして続けたスポーツを進学して辞めてしまった。

このような経験をしたことがある人もいれば、子どもや周りの人がそのような状態になった様子を見かけたことがある人もいるかもしれません。

あたかも燃え尽きてしまったかのように、これまでやっていた事が嫌になって手がつかなくなってしまう様子から、このような状態は「燃え尽き症候群」または「バーンアウト」と呼ばれます。

バーンアウトはスポーツでよく見かけますが、習い事や勉強、仕事においても起こることがあります。

また、近年の研究では子どものバーンアウトのリスクは周囲の人との関わり方に左右されるという見方もあります。

今回は子どもへの周囲の大人の関わり方が、どのように子どものバーンアウトのリスクを高めてしまうかについて注目していきます。その上で、大人ができる子どものバーンアウトのリスクを下げる方法についても紹介していきます。

もくじ
1: バーンアウトの研究
2: バーンアウトに関係する6つの具体的な特徴
3: バーンアウトにならないようにするためには
4: バーンアウトを回避するためのストレス対処法
5: バーンアウトに陥ってしまった場合
6: まとめ

1. バーンアウトの研究

バーンアウトの研究は、1974年に米国心理学者のFreudenbergerによって行われた研究を発端にさまざまな分野や国で研究が盛んに行われています。

近年のバーンアウトの研究の起点となった研究の一つが、1981年にカリフォルニア州立大学バークレー校のChristina Maslach博士とSusan Jackson博士によって行われた研究です。

この研究は、医療、介護、福祉などの対人サービスの従事者が感情的な疲労、自分自身が現実から切り離されてしまっているような感覚を覚えてしまう現実感消失症、充実感や達成感が感じられない状態などがよく見られたことから、この3つからバーンアウトかどうかを判断するための方法を検証したものでした。

この研究以降、感情的な疲労、現実感の消失、充実感や達成感の不足は教師やコーチのバーンアウトを評価する時にも使われるようになっていきました。

2. バーンアウトに関係する6つの具体的な特徴

  1. 作業負荷:やることや必要な作業量が多すぎて、心身の回復が追いつかない状態
  2. コントロール:やることに対して十分にコントロールする権限が自分にない状態
  3. 報酬:取り組みに対して自分に対する十分な報酬(給料、賞賛、達成感、自己肯定感なども含む)がない状態
  4. コミュニティ:学校、職場、チームなどのコミュニティ内にポジティブな人間関係が築けていない状態
  5. 公平さ:学校、職場、チームなど自分が属している組織内で自分は公平に扱われていないと感じている状態
  6. 価値観:自分が所属している組織の方針と自分の価値観が一致していないと感じている状態

上記の6つについてもう少し詳しく説明していきます。

作業負荷は、勉強や習い事が毎日のようにあって体を休めたり気持ちを落ち着かせる時間が十分でない場合に作業負荷が高いと評価されます。特に作業負荷が高い状態が長く続くとバーンアウトのリスクも高くなるので注意が必要です。

コントロールは、「自分の意志で取り組んでいる」「取り組んだ事に対して自分で決定・決断している」などの自発的・主体的な姿勢を意味しています。

誰かにやらされていたり、外的な動機(お小遣いがもらえる、怒られるなど)よりも自分の興味や成長したい気持ちのような内的な動機によって取り組んでいる状態はバーンアウトのリスクが低いと言えます。

その「動機」ですが、自分自身が行動を起こすための「報酬」と捉えることもできます。お小遣いや他人からの賞賛のような外的な要素以外にも、自分が自分を賞賛することで得られる「自己肯定感」や楽しさのような内的な報酬もあります。これらの報酬が充分でない場合もバーンアウトのリスクが高まります

自分の物事を決めることと動機についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

この場合のコミュニティは人間関係と置き換えることもできます。具体的には教室、学校、チーム、そして家庭など、自分が身を置くグループ内に良好な関係があればバーンアウトのリスクを下げられます。

一方で、居心地の悪さを感じるようなグループ内では、そのグループで取り組む事に対してバーンアウトしやすくなると言えます。

人間関係にも似た部分はありますが、所属しているグループ内で自分が公平に扱われているかもバーンアウトに関わります。公平に評価されたり対応してもらえれば、自然と良好な人間関係は生まれ、バーンアウトのリスクは低下します

反対に不公平な扱いを受ければ、そのグループから離れるためにスポーツや習い事を辞めてしまう様子は想像するのに難しくないでしょう。

最後に、自分がやりたい事とグループの価値観が一致していない場合はバーンアウトのリスクが高まります。自分は楽しくプレーしたいのにチームは勝つことを第一に厳しく練習するようなチームにいた結果、そのスポーツが嫌になって辞めてしまうといったケースは少なくないでしょう。

このように、上記6つの特徴から子どものバーンアウトの傾向を探ることが可能です。

3.バーンアウトにならないようにするためには

先に挙げた6つの特徴を踏まえると、さまざまな要因によってバーンアウトが引き起こされているように見えると思います。

しかし、突き詰めるとどれも心身に過剰なストレスを一定期間受けた結果バーンアウトになったと考えることができます

作業負荷は主に身体に受けるストレスと心理的なストレスによる影響と言えますが、残りのコントロール、報酬、コミュニティ、価値観については、主に心理面に与えるストレスとなります。

バーンアウトにならないようには、ストレスがかかった時に効果的な方法を使ってストレスを解消することと、ストレスがかかりそうなことに対して準備をしておくことが有効です。

現実世界では、どうしても大なり小なりストレスがかかるものです。またストレスを悪とみなしてストレスをかからないような生活を送ろうとするにも、そのために膨大な労力を費やすことになります。結果的にストレスがない生活をしようとすること自体がストレスになりかねません。

そこで、ストレスを感じたときに具体的な方法を使ってすぐに対処する習慣を作ることが効果的な対策の1つです。

それに加えて、バーンアウトに陥ってしまった時の対処法も用意しておくとより効果的です。

4. バーンアウトを回避するためのストレス対処法

ここからは、バーンアウトを回避するために出来ることをご紹介していきます。

繰り返しになりますが、バーンアウトは継続的にストレスが蓄積させれた結果引き起こされるため、日頃からストレスをためないように素早くストレスを解消する必要があります。

以降の取り組みは、ストレスが蓄積される前に解消することを目的に行なっていきます。

睡眠

基本的なことではありますが、充分な睡眠時間を確保して心身の疲れを取ることは当たり前のようですがとても効果的です。

睡眠時間が短いと体の疲労だけでなく、脳の疲労も充分に回復させることができません。忙しいとつい睡眠時間を削ってしまいがちですが、スタンフォード大学の西野教授は睡眠を削ることで「睡眠負債」が蓄積してしまい、ストレスが抜けにくくなってしまうと説明しています。

また、睡眠を十分取ることでストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑えることができます。

基本的で当たり前にしている睡眠ですが、これ以上の休息方法はありません。睡眠の重要性を再度認識して、欠かすことのできない時間として確保するようにしましょう。

睡眠がもたらす回復力についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

ジョギング

軽く息があがる程度のジョギングもストレス解消方法として非常に効果があることは、これまでの研究でも報告されています。

スウェーデンのカロリンスカ研究所のアンダース・ハンセン博士は、ストレス対策に軽く息があがる程度のジョギングを20分実施することをストレス解消法として提唱しています。

最初はいきなり20分やるのはハードルが高いでしょう。その場合はまずはウォーキング、早歩き、と段階を上げることも効果的だと考えられます。

運動が子どもに与える影響についてもっと知りたい方はこちらをご覧ください。

深呼吸

より気軽にできるストレス解消法は、深呼吸です。特に横隔膜を大きく使う腹式呼吸が効果的です。

深呼吸が効果的な理由として、心拍数を下げて体からリラックスできること、充分な酸素を取り入れることで生理的にリラックスしてコルチゾールの分泌を抑えることが可能であることです。

深呼吸は場所を選ばずにどこでも出来る気軽さもあります。一方で、慣れないうちは腹式呼吸は難しいと思います。

まずは、仰向けになってお腹を膨らませるようにしながら鼻から息を吸い、お腹をへこませるように口から息を吐いてみると、腹式呼吸の感覚がつかめると思います。

マインドフルネス瞑想

マインドフルネスは近年注目されているストレスマネジメントの方法です。

瞑想することがマインドフルネスと捉えられている傾向がありますが、正確には「今現在に意識を置く」「良し悪しの判断や評価をしない」「あるがままに受け入れる」の3つ要素によって構成された心理状態を指します。

まずは、1分、2分程度の時間を作り、瞑想をする時間を作ってみましょう。マインドフルネス瞑想で大事になるのは、瞑想をすることを通してマインドフルな状態を体験する事にあります。

そのため、瞑想中に湧いてくるいろんな思考や注意があちこちに向くことも瞑想の一部と捉えて、それらの状態に対して良し悪しの判断をせずありのままの出来事として受け入れるようにしてみましょう。

このように言葉にしても実際に行うのは難しいと思いますので、まずは短い時間の瞑想を継続することからスタートしてみましょう。

マインドフルネスについてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

複数のことに取り組む

もう少し大きな枠組みとして、1つのことに集中しすぎないように複数のことに取り組むのもバーンアウトのリスクを下げられます。

特にスポーツの場合は複数のスポーツに取り組むマルチスポーツがバーンアウトの抑止やスポーツそのものを長く続ける上で効果的とされています。例えば、主にやっているサッカー以外にもバドミントンやバレーボールなどの別のスポーツをやるといった具合です。

アメリカの場合はスポーツはシーズン制になっており、秋はアメリカンフットボールをやって春は野球をやるといったように、一年を通して複数のスポーツをやれる仕組みになっています。

日本の学生スポーツの場合はシーズンオフがアメリカほどはっきりとあるスポーツはほとんどありませんので、アメリカのような形式で複数のスポーツをするのは難しいかもしれません。

可能な限りでの取り組みにはなりますが、部活以外にクラブチームや地元のクラブなどで他のスポーツをするなど、チームのルールが許す範囲でトライしてみるのがいいかもしれません。

5. バーンアウトに陥ってしまった場合

注意深くストレスを管理して解消するようにしても、気づけば心身の負荷がかかり続けてしまいバーンアウトに陥ってしまうこともあります。

その場合は今やっていることから完全に離れて休みを取るのが一番です。

過去に行われた研究では、トップアスリートの場合はオリンピックなどの大きな大会後にバーンアウトに陥りやすい傾向があることが報告されています。

これは大きな大会のために多大な時間と労力をかけて練習をして、大きなプレッシャーを感じながらプレーをしたことで心身ともに大きなストレスを受けている状態と言えます。

大会が終わり負荷の高い練習やプレッシャーから解放された後は、その反動からバーンアウトに陥りやすくなってしまいます。

オリンピック後に休養を取る選手は多く見られますが、これは自然なことであり心身の健康(メンタルヘルス)を考えた時にはとても重要なことです。

カウンセリングを受けてみる

休息を充分に取っても心身の疲労感が抜けない場合は、カウンセリングや心療内科を受診するのも大切です。

体を怪我した時に病院に行くように、心理面が不調になった時にはカウンセリングや心療内科を受診するのが望ましい対処法でもあります。

バーンアウトが深刻な状態だと心理的な疾患を抱えている場合もありますので、必要だと思ったらカウンセリングや心療内科を受診するのはとても大切です。

周りの人もバーンアウトの様子が見受けられたら、無理をさせずに声をかけたりカウンセリングを進めるなどサポートするようにするのが望ましい対応と言えます。

6. まとめ

今回はバーンアウトについて、過去の研究を参考にバーンアウトにおいて注意すべき点をまとめて、バーンアウトの対策についても紹介していきました。

作業負荷のような身体面へのストレスだけでなく、取り組んでいることへのコントロール感やグループ内の価値観の一致といった心理的なストレスの側面などがバーンアウトのリスクに大きく関わってきます。

このようなストレスに対して、日頃から心身の休息を取るようにして大きなストレスを受け続けない、またはストレスを溜め込まないような取り組みをすることはとても重要です。

今回紹介した内容を参考に、一度自分自身と周りの人のストレスのかかり具合をチェックしてみましょう。

もし自分や周りの人が継続的に大きなストレスにさらされていると感じたら、一度立ち止まって休息を取ってみたり、今回のブログの内容を試してみて下さい。

参考文献

アンダース・ハンセン. (2018). Brain: 一流の頭脳, サンマーク出版.

Freudenberger, H. J. (1974). Staff burn‐out. Journal of social issues, 30(1), 159-165.

Giusti, N. E., Carder, S. L., Vopat, L., Baker, J., Tarakemeh, A., Vopat, B., & Mulcahey, M. K. (2020). Comparing burnout in sport-specializing versus sport-sampling adolescent athletes: a systematic review and meta-analysis. Orthopaedic journal of sports medicine, 8(3), 2325967120907579.

Kroupis, I., Kouli, O., & Kourtessis, T. (2019). Physical Education Teacher’s Job Satisfaction and Burnout Levels in Relation to School’s Sport Facilities. International Journal of Instruction, 12(4), 579-592.

Maslach, C., & Jackson, S. E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of organizational behavior, 2(2), 99-113.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。