2020年は、新型コロナウイルスのニュースでもちきりでしたが、政治に関しても話題の多い一年だったと思います。

アメリカ大統領選挙が行われ、日本では7年8ヶ月と歴代連続最長となった安倍政権の幕が閉じられました。

また、新型コロナウイルスへの対策を巡っても、各国・各地域のリーダーシップに多くの人の賛否が向けられた年でもありました。

裏を返せば、私たちが国民・市民、あるいは地球市民として、政治とどのように関わるか改めて問われた年とも言えるのではないでしょうか?

日本財団が2019年に実施した「18歳意識調査」では「自分で国や社会を変えられると思う」と回答した若者が、日本ではわずか18.3%で、9ヵ国中最下位という衝撃的な報告がされています。

今回は、社会の出来事を自ら考え、判断し、主体的に行動する主権者を育てるための教育である、政治教育・主権者教育・シティズンシップ教育について海外の事例を紹介します。

もくじ
1: スウェーデンの「学校選挙」(模擬選挙)
2: 早期から始まるスウェーデンの主権者教育
3: 生徒に学校運営への参画を促す「学校会議」
4: ドイツの「ボイテルスバッハ・コンセンサス」と教育現場における政治的中立性
5: まとめ


1: スウェーデンの「学校選挙」(模擬選挙)

政治への関心において日本と対照的なのはスウェーデンです。

投票率は政治への関心の目安の一つとなりますが、スウェーデンでは過去50年のあいだ国政選挙での投票率が80%を下回ったことがありません。

若者の投票率も高く、2014年のデータでは全体が85.8%であったのに対し、18歳から24歳までの若者の投票率は81.3%でした。

例えば、日本では2017年の衆議院議員選挙の際の全体で53.7%、20歳代で33.9%であったことと比べると、スウェーデンの投票率は驚くべき数字であると言えます。

(出典:文部科学省 https://www.mext.go.jp/content/20200828-mxt_kyoiku02-000009659_2.pdf)

なぜスウェーデンでは若者の政治への関心が高いのか。

そのヒントとなるのが1960年代から中学・高校で行われている「学校選挙」(=模擬選挙)です。

4年に一度の国政選挙とEU選挙に合わせて、生徒自身が運営・投票する模擬選挙です。

特筆すべきは、実際の選挙の投票には換算されないという点を除いて、国全体で集計されるなどほとんど実際の総選挙と同じ方法で行われていることです。

学校選挙はSkolvalという複数の公的機関を含めた共同プロジェクトによりサポートされます。

予算はスウェーデン政府が出し、学校側の大きな費用負担はありません。

選挙管理委員会とも連携して運営されるため、投票用紙も統一されたものが配布されるなど模擬とは思えないほどの徹底ぶりです。

民主主義の本質を維持するため参加は任意です。にもかかわらず最新2014年のSkolvalでは50万人以上の学生が投票したと言うから驚きです。

生徒は自分たちの手で学校選挙を開催することを通して、楽しく主体的に民主主義を学ぶ機会が与えられ、それが政治への高い関心へとつながる理由の一つと言えそうです。

日本でもSkolvalと同じような取り組みを推進している「未成年模擬選挙」という団体があり、子どもたちが主体的に民主主義を学ぶ場も少しずつ広がりを見せているようです。

2:早期から始まるスウェーデンの主権者教育

スウェーデンにおける主権者教育は、より早期から始まっており、例えば、それは実際の選挙の光景からも知ることができます。

スウェーデンでは選挙期間中、各政党が街なかに小さな小屋を建て、道行く人々にチラシを配ったり投票を呼びかけたりといった選挙活動を行うのが一般的です。

日本と異なるのは、その中を大人だけでなく、ノートブックを抱えた小学校5〜6年生くらいの子どもたちも歩き回り、党員に話を聞いている点です。

彼らは学校の課題として各党の立場や主張を、実際の選挙の場で調べます。

内容は代表的な争点の立場を問う程度の簡単なものですが、この年齢から実際の政治の現場に触れることで、政治をより身近に捉えるキッカケとなります。

このようにスウェーデンの政治教育は、子どもたちに実社会と向き合うよう促す傾向が強く、徹底した実践志向であることが特徴です。

3: 生徒に学校運営への参画を促す「学校会議」

もう一つ、主権者教育の興味深い例として「学校会議」を紹介します。

「生徒に学校への参画を促す」取り組みの一つとしてドイツやスウェーデンを初めとした欧州の多くの学校でこの「学校会議」の制度が取り入れられ、幅広いテーマについて議論し決定をする権限を持っています。

生徒会や職員会議と異なり、学校会議は生徒、校長、教員、保護者、外部から構成されており、学校の行事や規則の決定、ときには授業内容や教材に関しても学校会議の中で生徒も他の大人(構成員)と公平に議論を行うことができます。

校長先生の選出を学校会議が担っている学校もあり、まさに生徒が学校運営に直接携わる機会が与えられていると言えます。

子どもたちが、いきなり国政や地方行政などと、自分の生活がどのように関連しているかを理解することは難しいかもしれませんが、より身近な社会的コミュニティである学校に対してオーナーシップを持って関わることで、まさに実践で政治を学ぶことができます。

年齢や社会的な立場などに関係なくそれぞれの声が尊重され反映されていくことで民主主義がどう機能しているかの理解に繋がります。

4: ドイツの「ボイテルスバッハ・コンセンサス」と教育現場における政治的中立性

政治教育を学校で行う場合、どのように政治的中立性を担保するかは大きな課題です。

実際に学ぼうとすればするほど、各政党の主張の中身まで入っていくことが増え、政治的な中立性のバランスの維持が難しくなります。

逆に政治的中立性の担保を意識しすぎると、表面的な仕組みの解説だけにとどまりがちで、政治に対する参画意識やシティズンシップのマインドを育みにくくなります。

これらを妨げるため、ドイツには「ボイテルスバッハ・コンセンサス」と呼ばれる政治教育の基本原則が存在します。

ボイテルスバッハ・コンセンサスは、以下の3カ条です。

  • 教員は生徒の期待される見解を持って圧倒し、生徒が自らの判断を獲得するのを妨げてはならない。
  • 学問と政治の世界において論争があることは、授業の中でも論争があるものとして扱わなければならない。
  • 生徒が自らの関心・利害に基づいて効果的に政治に参加できるよう、必要な能力の獲得が促されなければならない。

このように基準を明確化することで、教育を提供する側・受講する側の双方が安心して政治教育に積極的に関わる指針となります。

また、ドイツでは健全な政治教育が行われるために、主権者教育を担う「連邦政治教育センター」が連邦内務省に設置されています。

特定の政党に偏らない政治的中立性を担保するよう、センターにはドイツにおける全ての政党から22名の議員が参加する「監査委員会」が設置され、センターの活動内容を監査する体制が整えられています。

5: まとめ

今回は、各国の政治教育・主権者教育の例を見ていきました。

いわずもがな、自分たちの世界をよりよくするためには、私たち自身、また子どもたち自身が、政治に対してオーナーシップを持つことはとても重要です。

コロナにより、はからずも今までにないくらい政治に焦点が当てられた2020年、より強くそう感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

未来をよりよくしていくために私たちは何ができるのか?

今回の記事がそういったことを考える一つのキッカケにつながればと思います。

◆参考リソース:

■ 総務省:主権者教育の推進に関する有識者会議 とりまとめ ー 平成29年3月
https://www.soumu.go.jp/main_content/000474648.pdf

■ 18歳選挙権&主権者教育の専門家 西野偉彦(にしの たけひこ) 公式Webサイト:海外に学ぶ「主権者教育」とは〜ドイツ〜
https://takehikonishino.net/germany1/

■ 18歳選挙権&主権者教育の専門家 西野偉彦(にしの たけひこ) 公式Webサイト:「生徒に学校への参画を促す」海外のユニークな主権者教育
https://takehikonishino.net/germany2/

■ SYNODOS:スウェーデンの主権者教育と政治参加:渡辺博明 / 政治学
https://synodos.jp/international/22601

■ Skolval2018
https://skolval2018.se/

■ 未成年模擬選挙
http://www.mogisenkyo.com/

■ 文科省「主権者教育推進会議」:諸外国における主権者教育について
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/142/attach/1413994.htm

■ 文科省「主権者教育(政治的教養の教育)実施状況調査について(概要)」
https://www.mext.go.jp/content/20200323-mxt_kyoiku01-000005838_2.pdf

■ 日本財団:18歳意識調査「第20回 –社会や国に対する意識調査-」
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/11/wha_pro_eig_97.pdf

■ Yahoo!ニュース:高橋亮平 – 日本政治教育センター代表理事・メルカリ社長室政策企画参事:ドイツやスウェーデンを見習い日本の主権者教育も自治と参画を合わせた「新しい生徒会」を柱にすべき
https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20160916-00062237/

■ SWI swissinfo.ch:若者に投票させたい?隣国と豪州に見習え!
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E8%8B%A5%E8%80%85-%E6%8A%95%E7%A5%A8-%E9%81%B8%E6%8C%99%E6%A8%A9-%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9-%E8%B1%AA%E5%B7%9E-18%E6%AD%B3-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9-%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2-%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2/46106746

■ Skolval2018(スウェーデン語)
https://skolval2018.se/